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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第4章 シャルゼリーナ編
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46 シャルの馴れ初め③



「それでは、模擬戦、開始!」



 そんなレニアの声とともに、シャルとハルクは、勢いよく互いに向かって疾駆した。

 地面を蹴って、互いの距離を急速に縮める二人。最初から全力だ。もちろん、どちらも身体強化魔法も発動している。

 動きと同時に加速する思考で、シャルは気づく。




 ……速い!


 シャルは、向かってくるハルクの速度に素直に驚き、目を見開く。相手の顔には『どうだ、やってやったぜ』と言いたげな笑みが張り付いている。


 どうやらシャルはハルクを少々過小評価していたようだった。


 そして、二人の剣が交わる。



 ガッキイイイイインンン‼



 金属の塊どうしが激突し、二人の間に火花が散る。

 その手ごたえに、シャルは驚きで大きく目を見開いた。


 そのまま、二人は力を争うように、鍔迫り合いをする。



「どうだ、俺の剣術は?」



 ハルクが口の端をゆがめながら、どこか楽しそうに嗤いながら、シャルに問いかける。



「……どうやら、あなたは本気で練習していたみたいね」


「はッ! 俺の努力をなめないで欲しいなァ!」



 そう言って両者は同時にバックステップ。

 ハルクは休んでいる暇もなく、再度剣を振りかぶり、突撃してくる。



「ウオオォォアアァァッッ!!」


「ハアアァァアアァァッッ!!」



 無自覚のうちに両者は叫びながら、剣を打ち合わせる。


 二度三度、剣が打ち合うたびに甲高く重い音が響く。

 二人はそんな重さを意にも介さずに、剣を思いっきり振るう。


 そこに手加減はない。


 剣戟がどんどん加速していく。

 汗がキラキラと日光を反射して輝く。



「おおおおー!」



 審判役のレニアは、近くで一人で大盛り上がりだ。


 金属の激突音が校庭に響き渡る。



 始まってからどれくらいが経っただろうか。

 ハルクもシャルも、何度目かのバックステップをして、互いに距離を置いていた。



「はあ、はあ……はぁ」


「はぁーはぁー……ふー」



 両者とも汗だくになり、息が上がっている。

 体力も魔力もかなり消耗している。残りはあと少しだ。



「これで、最後ね……」


「そうだな……、まあ、勝つのは俺だがな……」


「それは……どうかな……」



 そう言って互いに不敵な笑みを浮かべる。


 そして、どこからかザザッという音がした瞬間、二人は同時に足を踏み出した。


 この時の両者の思考は完全にシンクロしていた。




「「これで決める!」」




 シャルは、加速された意識の中で思う。


 わたしは体力面でハルクに劣っている。このまま打ち合えば、体力切れで、先にわたしが力尽きてしまう。

 だから、奥の手を使わせてもらうっ! それで、わたしが勝つんだっ!


 ハルクは疲れているとは思えない素早さで、剣を上段から振りかぶってくる。

 ここからは一つの失敗も許されない。シャルは剣を下から振る。


 二人の剣が、接触する。

 ただし、今度は奏でる音の長さが違った。



 ガキイイイイイイイイインンン!



 確かにその瞬間、ハルクの目が驚きで見開かれたのを、シャルは目撃した。


 それはそうだ。これまでと同じようにぶつかって止まるだろうと思っていた剣が、まさか滑っていくとは予想していないだろう。


 普通、そうすれば自分の剣は当たるが、また同時に相手の剣も当たってしまう可能性が高い。


 しかし、結果的にはそうならなかった。シャルの剣が、ハルクの剣の方向を変えながら滑っていったのだ。


 剣先をそらされたハルクは、バカな! とでも言いたげな顔をしている。

 一歩間違えれば、シャル自身もハルクの剣によって傷ついてしまう。この技にはとても綿密な調整が必要なのだ。


 それを、シャルは疲労が溜まっているこの終盤で、やってのけた。



 この三年間、ハルクだけが成長しているわけではなかった。むしろ、シャルの方が大きく成長していた。

 フォルという、見たこともない形の剣で、見たこともない技を繰り出す、シャルと渡り合えるほどの実力を持った者が現れたからだ。


 この技は、フォルが使っていた、剣の軌道を逸らす技を、シャルが見様見真似で真似したものだ。

 相手の剣を受け流し、あわよくばそのまま斬りかかれるという、防御と攻撃を兼ねた技。カウンターに使える技である。



 シャルがこの奥の手を使った後は簡単に決着がついた。


 シャルは身を少し捻ってハルクの逸れた剣を避けると、自身の剣をハルクの首筋にぴたりと当てた。

 そのままの姿勢で、数秒待つ。


 しかし何を言われないので、シャルがレニアの方に顔を向ける。すると、レニアは自分が審判だということを思い出したのか、ジャッジを下した。



「この勝負、シャルゼリーナさんの勝ち!」






 ※






 それからしばらくの時が経ったある日。


 その日、シャルは休日を利用してラドゥルフの自宅に戻っていた。


 シャルがラドゥルフに戻ったときは、決まってフォルと剣の手合わせをしていた。


 フォルは、帰るたびに剣が強くなっている。とても戦い甲斐があった。


 そんな休日も終わり、明日からはまた授業が始まる。

 すっかり暗くなった空の下、テクラスの転移施設を出たシャルは、足早に自分の宿舎へ戻る。


 その道中、大きめの公園の横を通り過ぎているとき、それは聞こえた。



「くっそー! ぜってー勝つ!」



 突然響いたそれに、シャルは思わずビクッと肩をすくませる。


 それから、妙に聞き覚えのある声だ、と感じる。どうやら、公園の中から聞こえてくるようだ。


 シャルは、なんだろう、と思って声の方へ恐る恐る歩いていく。


 足を進めるにつれ、ひゅっ、ひゅっという風切り音もシャルの耳に届く。


 そして、茂みの向こうを見渡せるようになった時、その声の主を視界に収めた。


 砂漠気候特有の強く冷える夜にもかかわらず、上半身には何も着ていない。

 その鍛え上げられた腹筋や胸筋から、汗が滴り落ちている。



「くそっ、俺は、あいつに、勝つんだ……!」



 そこには、独り言を呟きながら剣を振り続けるハルクの姿があった。



 あいつ、というのは自分のことだ、とシャルはすぐに理解した。

 つまり、ハルクは自分に勝つために、この場所で一人で練習しているのだ。


 シャルの胸の奥から強い感情がこみあげてくる。

 ハルクは必死になってわたしに勝とうとしている。目の前の光景を見て、シャルはなぜかわからないが、とても嬉しく思った。


 しかし、同時に怒りも感じていた。

 ハルクの鍛錬はどう見ても甘い。いろいろな面が、剣術をするのに足りていない。一番シャルを苛立たせるのは、その欠点に無自覚であること。対戦相手として、同じく剣を振るう者として、とても看過できなかった。


 シャルは、思わず茂みの陰から飛び出していた。



「まだまだ重心移動が甘いね」


「なっ⁉ み、見ていたのかッ⁉」



 まさかシャルに見られていたとは思わなかったのか、ハルクはあからさまに動揺する。



「それだけ大声で叫んでいたら気づくってば」


「そ、そうか……」



 すると、さっきの威勢はどこへやら、急にハルクは大人しくなり、剣を置いて縁石に腰を下ろした。



「……毎日やってるの?」


「ああ。だいたいこの時間にやってる」



 どうやらハルクは相当努力しているらしい。

 シャルは感心する。


 しかし、ハルクは両手で顔を覆うと、弱音を吐き始めた。 



「だが、これだけ練習しても、俺はお前に追いつけない……」



 シャルは無言で、ハルクの隣に座った。

 ハルクはそのまま独白する。



「昔、あの学校にいたときは、俺の剣の腕は無敵だって信じていた。実際、上級生にも下級生にも勝てるやつはいなかった。

 だが、国内交換留学生としてラドゥルフに行き、お前と戦った時、俺のプライドは粉々になった。……絶対に勝てない、俺より上の存在がいる、と初めて思い知らされたんだ。

 それからは、半ばやけくそになって、お前に何度も何度も勝負を挑んだんだ。だが、一度も勝てなかった……」



 シャルは、無言で続きの言葉を待つ。



「頭の片隅では、わかっていたさ。お前には勝てない。なぜなら、成長速度も地の才能でもお前の方が上だから。どうあがいても追いつけないってな……。

 やけくそになったのは、今思えばきっと、それを認めたくなかったんだろうな。

 俺だってやればお前に追いつく、俺も本当はお前と同じくらい強いはずなんだって、信じていたんだ……」


「…………」


「だけど、それは無駄な試みなのかもしれない。自分を騙し続けても、ずっと前から結果は事実を示していたんだ。

 シャルゼリーナ、お前は強い。俺は一生、お前に勝てない……」


「…………」



 いつの間にか、ハルクの手の隙間からは、汗に混じって、汗ではない液体が滴り落ちていた。



 バシンッ!


 その音に、突然ハルクは動きを止めた。



「何言ってんの……」



 シャルは肩をわなわな震わせて、激怒していた。

 

 いつの間にかハルクの真正面に回っていたシャルは、ハルクの両肩を両手で掴んでいた。



「『お前には絶対勝てない』だの、『どうあがいても追いつけない』だの、『成長速度も地の才能でもお前の方が上』だの……。静かに聞いていればそんな言葉ばかり……」



 そして、シャルは顔を真っ赤にして、ハルクに怒鳴り散らした。



「なんでそんなに自分を決めつけるんだっ‼ このドアホっ‼」



 さらに続ける。



「さっきから何度も何度も自己否定を繰り返してっ‼ 自分を貶めるようなことを言ってっ‼ そんなのわたしの知ってるハルクじゃないっ‼‼」



 シャルは、ハルクの顔前数センチまでずいと近づき、ハルクの手をどけると、目を見据えて怒る。



「自分で自分を決めつけるのを止めなさい‼ 人には可能性が無限大にあるんだっ‼ ハルクだって、わたしより上になる可能性はいくらでもあるんだよっ‼ でも、なんで、なんで自分の可能性を信じないんだ‼」



 ハルクははっとした表情をする。



「もっと自分を信じなさいっ‼ 俺はシャルより剣術は上手くなれる! だから鍛錬を続ければ絶対に勝てる‼ そのために諦めずに足掻いて! 何でもやって! それで自分の欠点を自覚しろ‼」


「でも、俺の欠点って……」


「分からないなら、教えるから‼ これからみっちり訓練してやる‼ いいねっ⁉」


「え」


「返事‼」


「う、うす!」


「よし、ならば今から練習!」



 シャルはハルクから一歩離れると、早速最初の訓練メニューを言った。



「まずは素振り! わたしがよし、と言うまで!」


「そんな無茶な……」


「つべこべ言わずにさっさとやるっ‼ ほら立って!」


「う、うす!」



 素振りを始めたハルクは、汗と涙を吹き飛ばしながら、どこか楽しそうに口角を上げた。



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