36 作戦への参加要請
一月後。
俺はシャルと一緒に、ダインさんの店のドアを開ける。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたぞ」
ダインさんは、エプロン姿で、毛箒で店の棚をパタパタと掃除をしていた。
そして、俺たちを見るや否や、掃除をする手を止めて、こちらへ飛んできた。
「できましたか?」
「勿論で! 自信作ですぞ」
ダインさんはそう言いながら、店の奥へと通じるドアへと消えていく。
数分後、ドアの向こうから現れた彼の手には、鞘に納められた日本刀そのものがあった。
「おおお‼」
俺は思わず興奮する。この異世界で刀を見る機会があるなんて!
しかも、これが俺のだなんて! 心がウキウキパラダイスだ。
「かなり重いですが、大丈夫で?」
「うん、だいじょうぶ」
俺は身体強化魔法を発動すると、刀を受け取る。魔法を発動していても、かなり重いことが伝わってくる。
「さやからぬいてもいい?」
「勿論ですぞ! お確かめください」
俺は、鞘から本体をゆっくりと引き抜く。
まず目に入ってきたのは、うっすらと赤く、そして揺らいでいるように見える刀身だ。
ヒヒイロカネってこういう金属なのか……。じーっと見つめていると眩暈がしてきそうだ。
完全に刀身が本体から抜けると、その全貌が目に入る。
俺にぴったりの大きさの鋭い刀。
刃は鋭く、柄との色や形のコントラストがうまい具合に調和している。
刃紋と呼ばれる、刀身の側面の模様も美しい。
贔屓目も入っているが、これまで見た中で、最もいい刀だと感じた。
「どうです? お気に召しましたか?」
「とても!」
「それはなによりで!」
俺は鞘に刀をしまうと、早速付属していたベルトで、背中へ斜めに固定する。
実戦に赴くときは、こうやって持ち運ぶことになるだろう。まあ、真剣を抜く機会なんてそうそうないと思うけどね。
「使用したら、定期的に手入れをしに来てくださいませ」
「うん。ありがとう」
「いえいえ、またのご来店をお待ちしております!」
俺たちは深々と頭を下げるダインさんを背に、店を後にしたのだった。
※
「ただいま〜」
「ただいま」
家に帰ってリビングに入ると、珍しいことにバルトがソファーに座っていた。
いつもなら、この時間は仕事で家にはいないはずだが……。何やら難しい顔をして悩んでいる。
「おお、フォルとシャルか……」
「珍しいね、こんな時間に家にいるなんて」
「ああ。ちょうどよかった、お前たちに頼みたいことがあってだな」
「たのみ?」
珍しい。一体何だろう?
「実はな……奴がまた出たんだ」
「……やつって?」
「クォーツアントだ」
その名前を聞いて、俺は嫌な気持ちを思い出す。
クォーツアント。確か約一年前にも洞窟に発生して、魔水晶の補給や採集を妨害してきた魔物だ。そのせいで、王都へ向かうときに、俺たちは馬車を使わざるを得なくなり、俺は大森林の悪路で車酔いしてしまった。思い出しただけでも吐き気がしてくる。
そういうわけで、俺はその見たこともない魔物に対して、恨みを持っていた。
そして、バルトの今までの言葉から察するに……。
「もしかして、またどうくつに?」
「ああ。どうやら根絶できていなかったらしい」
「ヤバいじゃん! 状況はどうなの?」
「幸いにもまだ前回ほどの数は確認されてはいないが……。あそこは良質な魔水晶が取れる場所だから、放っておくと手がつけられないくらいにまで増える可能性がある」
そこでだ、とバルトは言葉を続ける。
「二人にも、クォーツアントの討伐に協力してもらいたいんだ」
「……わたしはいいけど、フォルも参加して欲しいってこと?」
「そうだ」
なんというタイミング! 刀が完成したその日に、刀を振るう機会が得られるとは!
しかし、すぐに横から反対の声が飛んできた。
「ダメよ、お父さん! フォルを連れて行くなんて、危なすぎるわ! この子はまだ四歳なのよ!」
少し残念な気持ちにはなるが、ルーナの言うことはもっともだ。俺はまだ年端もいかない子供。
そんな俺を魔物との戦いの場に連れて行くなんて、ルーナからしてみればあり得ない話だろう。
「勿論、それはわかっている。だから、フォルには今回、後方支援を頼みたいんだ」
「こうほうしえん?」
「ああ。確か、フォルは聖系統の魔法を使えたよな?」
「うん。『魔法の使い方』にのっているせいけいとうのまほうは、だいたいできる」
「だったら話は早い。前線ではなく、集団の後ろで、負傷した者を治療してほしいんだ」
……つまり、実際にクォーツアントと戦う機会はないってこと?
「わたしは?」
「シャルは前線で戦ってほしい」
「わかった」
シャルは特に驚く様子もなく頷いた。実際、剣術の免許皆伝を持っているし、それが飾りではないことは、最近何度も戦っている俺がよく知っている。
俺はルーナを見る。
「……ママ」
「……そもそも、フォルである必要はあるの? 確かにフォルの魔法はすごいけれども」
「今回の戦いは、根絶させるために、確実に一匹残らず仕留めることが重要だ。大人数で行くから、魔法を使える人をできるだけ連れて行きたい。とりわけ、フォルほど魔力量があって、魔法が使える人は、そうそういない」
まさに、猫の手も借りたい……この場合は俺の手も借りたい状況なわけか。
「……本当に、大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だ。他にも数名、回復魔法が使える魔法使いも参加するし、護衛もつける」
ルーナは、はぁ、と一息つくと、俺の方を向いた。
「……フォルはどうしたい?」
「……みんなのやくにたてるのなら、いく」
俺はぎゅっと拳を握りしめた。
俺の魔法が必要とされているのなら、俺の魔法でこの街の窮状が救えるのなら、行くしかないじゃん。
それに、個人的なクォーツアントへの恨みもある。残念ながら、今回直接は報復できないけど。
「……作戦の決行は五日後だ。二人とも、頼んだぞ」
というわけで、俺はクォーツアントの根絶作戦に加わることになったのだった。
2024/02/26 更新




