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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第3章 ラドゥルフ編
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33/140

32 vsシャル



「よし、はじめるか!」



 庭の開けた場所に出た俺は、レグの白木を前に、木刀づくりの開始を宣言した。



 昨日、俺は有り金をほとんど使ってレグの白木を購入し、浮遊魔法で運んで家に持ち帰った。

 そして、自分の力でこの材木を木刀へ加工することにしたのだった。


 今、俺は何にも道具を持っていない。


 だが、道具なんて必要ない。



 なぜならば! 俺には魔法があるからだ!


 俺は、昨日これを持って帰ってから、本で加工に適した魔法を探した。

 そして見つけたのが、この魔法。



「『ウォーターカッター』」



 次の瞬間、チョップの形にした俺の右手の中指の先から、勢いよく水が吹き出た。

 その水流は地面に当たると、芝を抉り、土を掘り返し、どんどん穴を大きくしていく。


 水系統中級魔法『ウォーターカッター』。魔力消費量は百五十。水を勢いよく噴射して、物を切断する魔法だ。


 この魔法は、魔力を注げば注ぐだけ、魔法の効果が正比例する。

 つまり、発動できる最小の魔力消費量である百五十しか込めないと、せいぜい薄い紙を切ることくらいしかできない。しかし、もっと大量の魔力を注げば、金属でさえも切れるようになるのだ。


 俺は今回、魔力をできるだけ節約するために、魔法の効果範囲を狭くして、威力を上げる方法をとった。こうすることで、より効率的に魔力を使うことができる。



「『フロート』」



 俺は、まず浮遊魔法で木材を浮かせる。

 そして、「『ウォーターカッター』」と唱えて、水の刃を創り出した。


 二つ同時に魔法を発動する、二重発動(ダブルキャスト)ができるようになったのも、ここ最近の魔法の練習の成果だ。



 まずは、大きい木材から小さなブロックを切り出す。大きい方はそのまま浮かして、小さい方を地面に下ろした。


 長い木材から直接木刀を作るのはやりづらい。それに、もし加工に失敗したとき、全体がダメになってしまうことも避けなければならないのだ。


 俺は木材をいくつかの小さいブロックに切断し終えると、それらを拾い集める。


 次はこれに線を引いて、その通りに切って、それから磨いて……。


 完成までかなり長い時間がかかりそうだったが、俺はそんなことを微塵も感じず、むしろ無性にワクワクして、木刀作りに没頭していくのだった。






 ※






「で、できた……」



 約一ヶ月後。大量の木屑と木片が散らばる、俺の目の前の地面には、一振りの木刀があった。


 思ったよりも、かなり時間がかかってしまった。当然、俺は木材加工なんてやったことのないトーシロ。作っていく過程で、致命的な失敗を何度もしてしまった。

 なんとか完成したものの、結局、買った木材はほぼ丸ごと使い切ってしまった。本当に足りてよかった……。


 だが、そんな試行錯誤を繰り返してできたものは、十二分に納得のいく、俺専用の木刀だった。


 俺にぴったり合うよう、何度も手で握ってみて、ミリ単位の調節を繰り返しながら削り出した、世界で唯一無二の木刀。形を作った後は、余ったお金を全て使って買った、やすりやニスで仕上げた。文字通り俺の資金全てを注ぎ込んだ一品だ。


 俺は身体強化魔法を発動すると、木刀を手に取って振ってみる。



「……いいかんじ」



 全く問題ない。さっき完成したはずなのに、長年使い込んできたかのようだ。それくらい、俺の体に、この木刀は馴染んでいた。


 これなら大丈夫そうだ。早速明日から使ってみるか!


 そう心に決めて、俺は庭に散らばった木屑の片付けを始めるのだった。






 ※






 数日後、俺は、剣術の練習が始まる前に練習場に入ると、今日も木刀を扱う練習を始める。


 ふぅ、と息を吐き、木刀を中段に構える。


 頭の中が自然と切り替わる、懐かしい感覚。

 世界を越えても俺の中に残る感覚に逆らうことなく、俺は木刀を降り下ろす。


 初めは直線的な素振りをしていたのだが、次第に足運びを意識した、力のこもった素振りへと変わる。

 気がつくと、かつて前世で行っていた型稽古を、体が勝手になぞっていた。


 縦斬り、横斬り、切り上げから切り下げに繋げる。切り払いの途中で軌道を変化させ、水平に一回転。遠心力そのままに、もう一回転して切り下げる。


 何も考えなくても自然と体が動く。前世で散々叩き込まれた流れが呼び起こされる。


 頭の中から雑念が取り払われていき、思考がクリアになる。


 俺の動きは、時間とともに速く、鋭く研ぎ澄まされていく。木刀が俺の体に馴染み、まるで体の一部かのようにさえ思えてくる。


 そして、ついに俺は大技の発動に踏み切る。



 七之宮(しちのみや)流中伝・藍玉七光閃《らんぎょくしちこうせん》。



 脳内でそう呟いた次の瞬間、七つの剣閃が迸る。


 もし、正面に人がいたなら、その人は両手両足が根元から断ち切られ、頭部を斬られ、胴体がクロス型に裂かれていただろう。


 木刀を動かし切ると、俺は動きを止めた。



「ふぅ」



 一息ついて、そのままゆっくりと構えを解く。


 あー、いい汗かいたー。


 俺は腕で額の汗を拭うと、木刀を降ろして、お尻からドスンと座る。


 刀を振る久しぶりの感覚。正直言ってまだ違和感は残っているが、大体の感覚は呼び戻せた。

 このままいけば、近いうちに完全に感覚を取り戻すことも可能だろう。


 確かな感触を振り返っていると、不意に手を叩く音が聞こえた。


 そこには、いつの間にかそこにはシャルの姿があった。


 全く気づかなかった。もう剣術の練習の時間になっていたのか。


 一方、熱烈に拍手をしているシャルの表情は、真剣そのものだった。


 そして、ぽつりと一言。



「凄い」



 俺はその言葉がお世辞でも何でもなく、シャルの本心だと直感的にわかった。


 シャルは、フローズウェイ流の剣術を極めたと言っても過言ではない、剣の使い手だ。

 そのシャルが、『凄い』と言った、ということは、それほど俺の剣術ができていたのだろう。


 俺はただ、アイツの教え通りに体を動かしただけだ。つまり、この流派はトンデモでもではなく、アイツの言っていた通り、マジで実用的な流派だったんだな……。


 そして、シャルは改まったように俺に向き合うと、こう言った。



「フォル、手合わせ願おう」


「えっ?」



 余りにも突然だったので、俺はマヌケな声を出してしまう。

 手合わせ……? 戦うってこと……?



「でも、まだけんじゅつは、ならっているところだけど……」


「フローズウェイ流剣術じゃなくて、今フォルが使ったやつ。それで戦ってほしい」


「……」


「身体強化魔法を使っていいから、手加減なしで、わたしと戦ってほしいんだ」


「……わかった」



 ただならぬシャルの雰囲気に押されて、俺は手合わせを承諾したのだった。






 ※






 俺とシャルは相対する。


 互いに木剣・木刀を構えて、相手をしっかりと見据える。


 シャルは本気ではないかもしれないが、俺は本気で戦うつもりだ。


 この七之宮流剣術が、そして今の俺がどのくらいシャルに通用するか、しっかりと見極めるためだ。

 シャルには負ける可能性は大きいが、もしかしたら、ワンチャン、勝てるかもしれない。


 俺は身体強化魔法を発動して、大幅に身体能力を高める。


 次の瞬間、俺はシャルに打ちかかった。



「うおおおおぉぉぉ‼」



 思いっきりシャウトしながら、俺は地面を蹴り、シャルに肉薄する。

 そして、上段に構えた刀を振るう。


 七之宮流剣術中伝、藍玉七光閃。

 さっきの練習で動きを確認した技だ。


 しかし、どうやらシャルはそれを見ていたらしく、慌てることなく俺の七連撃を見事なまでに捌いて見せた。木剣が木刀を滑るように受け流していく。


 俺は一旦下がると、次なる技を繰り出す。


 きっと中伝ほどの技ではあっさりとシャルに対処されるだろう。


 そのため、俺はより高難易度の技である、奥伝を浴びせることにした。



「せいッ!」



 俺はシャルに六連撃を浴びせる。


 七之宮流奥伝、桜吹雪。


 これが真剣で相手が非武装の人間なら、そいつは体の中心からいくつかの肉片に裂けてしまうことだろう。

 しかし、これもシャルは、神憑った反応速度で俺の連撃を防ぐ。


 今度はシャルの方が一旦距離を取る。彼女は目を細め、木剣を構え直した。

 お遊びでも何でもなく、本気の真剣勝負だ、という態度が伝わってくる。


 俺は下がらずに、木刀を流れるように動かし、次の技へとつなぐ。

 上から下へと左右に分岐しながら切り裂く八連撃。

 七之宮流奥伝、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)。


 しかし、これもシャルに防がれる。

 だが、今回はかなりぎりぎりのようだ。それだけ、俺の技がシャルに迫っているということなのだろう。


 そして、シャルが初めて反撃に転じる。

 流れから木剣を中段に構え、そして木剣を横に薙ぎ払う。


 シャルの力はとても強い。身体強化魔法で体を強化していても、まともに受ければことごとく吹き飛ばされてしまうだろう。


 だから、俺は技術で立ち向かう。



「……っ!」



 七之宮流奥伝、迅雷。

 相手の力をそのまま自分の刀に乗せて、反撃するカウンター技。


 シャルは、木剣を振り切った格好のままだ。

 木剣で防ぐのは絶望的だろう。


 そう思っていたのだが、シャルは俺の木刀を回避した。

 驚異的な反射速度と身体能力で、床に伏せたのだ。


 うっそだろ……。流石に一撃は入ると思っていたんだが……。


 俺が驚いていると、シャルは体勢を瞬時に立て直し、流れるように俺との間合いを詰めた。

 ヤバい……! 俺は反射的に木刀で、シャルの木剣の軌道を塞ぐ。



 激突。



 ギリギリ間に合ったが、全力の身体強化魔法にもかかわらず、俺の木刀は、シャルの木剣に微妙に押し込まれつつあった。


 このまま鍔迫り合いに持ち込まれたら終わりだ、と俺は悟る。

 体格と身体能力の差で競り負ける。


 俺の予想通り、シャルは一気に体重をかけてきた。



「うおおおおおおおお!」



 俺は、残り少ない魔力を全て身体能力強化につぎ込む。

 もう後先なんか考えない。このワンプレーですべての勝負を決める!


 一気に力がみなぎっていく感覚。

 今まで押されていたのが、逆転する。


 俺は歯を食いしばりながら、シャルの木剣を押し返す。

 木刀と同じように、全身がギシギシとうなる。

 俺はその痛みに必死に耐えながら、歯を食いしばる。


 くそっ、ここで負けてたまるか!


 俺は瞬間的に魔力を全開放して、木剣を払う。

 シャルがその勢いに驚いたような表情を浮かべ、俺の力に負けて後ろに下がる。


 そして、彼女は一瞬だけ体勢を崩す。


 勝負を決めるならここだ。今この瞬間の身体なら、シャルに肉薄して、木刀をシャルの首筋に当てることは可能だ。


 俺はそうしようと、一歩を踏み込んだ。


 しかしながら、それが限界だった。


 グッと全身から力が抜けるような感覚。俺は、踏み込んだ足から崩れ落ちそうになる。



 身体強化魔法が解除される……! 魔力を使いすぎたのだ。



 息切れがして、腕にずしりとした重みが来る。


 ああ、身体強化魔法を使わない俺はこんなに弱っちいんだ。


 全身から力が抜けていくのを感じる。



 でも……、俺はここで勝つんだろ!

 シャルに勝って、俺と七之宮流剣術の強さを証明してやるんだ!


 俺は気を奮い立たせて、最後の魔力を振り絞り、無理やり身体強化魔法を発動させる。

 再び、力がみなぎっていく感覚。


 ここさえ乗り切ってしまえば、あと一歩で勝利に手が届く!



 しかし、そんな俺の希望は、儚く散る。

 先程の一瞬の停滞が、致命的なまでに状況をひっくり返したのだ。



 俺の動きが鈍くなったその一瞬で、シャルが驚くべき速さで体勢を立て直した。

 そして、俺に向かって振りかぶった。


 爛々と光っている、本気の眼。


 俺はその眼を見て、本能的に勝てないと感じた。


 そして、シャルの一撃。


 ギリギリで木刀に当てることはできたが、その一撃は、今まで食らった中で、最も重かった。


 とてもとても重かった。



 その結果、威力を相殺することができず、俺は木刀ごと思いっきり後ろに吹き飛ばされた。


 視界の端で、手から木刀が離れるのが見える。いよいよ魔力切れとなり、身体強化魔法が解除され、もはや木刀を持つことすら不可能になった。



 俺の、負けだ。



 そして、床に体が打ちつけられると同時に、俺の意識は暗闇の中に閉ざされた。



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[気になる点] 前世は刀の達人か? [一言] 刀をこだわりすきで、意味が分からない 異世界と自家の流派を舐めすぎ
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