↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第3章 ラドゥルフ編
PR
25/140

24 久しぶりの我が家



「フォル、ちょっといいか」


「どしたの、ジージ」



 片付けを終え、休憩していると、バルトが声をかけてきた。



「帰ってきたところで悪いが、今から一緒に銀行へ行けるか?」


「ぎんこう?」


「ああ。フォルが一緒じゃないとダメなんだ」


「……わかった」



 ということで、俺とバルトは再び外に出た。


 片付けにだいぶ時間がかかったので、太陽はかなり西に傾いている。しかし、思ったほど、その位置は低くない。


 王都で体内時計が順応した状態で、急に西に数百キロ移動したから、時差で日を長く感じているのだろうか。そう考えると、この国の広大さと、一瞬で移動できる転移魔法陣の凄さを実感する。


 俺たちはさっき通ってきた道を逆に辿る。



「ジージ、どうしてぎんこうにいくの?」


「フォルの口座を作るためだ。本人がいないと開設できないからな」



 この世界にも銀行はあるようだ。まあ、以前バルトが小切手を受け取っていたから、あるだろうとは思っていたけど。


 それにしても、どうしてこのタイミングで俺の口座を開設するんだろう?

 俺には特にお金を使う予定はないし、もっと俺が成長してからでもいい気がするが……。


 しばらく歩くと、大きな建物の前に辿り着いた。白い石造りの立派な建物だ。入り口には屈強な警備員二人が立っていて、通行人に鋭い眼光を向けている。その視線が俺にも向けられて、思わず心臓が縮み上がった。


 バルトにも向けられるが、彼はそれをサラッと受け流すと、俺の手を引っ張り建物の中に入る。


 中は、外見と同じように立派だった。入るとすぐに大きなホールが現れ、高級そうな長椅子がたくさん並んでいる。奥にはカウンターがあり、壁際には、入り口と同じように警備員が間隔を空けて数人立っていた。


 お金を扱う場所とだけあって、高級感も、警備も万全なようだ。


 バルトはカウンターに直行する。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「この子の口座を作りたい」



 そう言って、バルトは俺をひょいと持ち上げた。カウンター越しに受付嬢の顔が見える。



「かしこまりました」



 ハンターギルドとは違い、受付嬢は、全く表情を動かさず事務作業に入る。



「身分を証明できるものはございますか?」


「これだ」


「……確認いたしました。当銀行での口座の開設は初めてですか?」


「ああ」



 二人のやりとりはどんどん進んでいく。


 これ、俺がいる意味あるのかな……? でも、バルトは『本人がいないと開設できない』って言っていたしなぁ……。


 ここで、俺はピンとくる。そして、背中に冷や汗が流れ始める。


 いや、まさか……。ここでもまた、あれをやらなきゃならないのか……?


 俺は恐る恐るバルトを見上げる。すると、ほぼ同時に、バルトが再び俺を持ち上げた。


 視線が上がり、視界にカウンターに置いてあるものが見える。


 そこにあったのは、いつの日か見た、細長い針と一枚のカードだった。


 俺が暴れる間もなく、バルトは俺の手を掴むと、その指を針でプスっと刺した。



「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼︎‼︎」


「うっ……耳が……」



 俺の喉から、反射的に高周波の金切り声が出た。それにはさすがのバルトにも堪えたようだ。受付嬢も耳を塞いでいる。


 しかし、俺が叫んだときにはもう、カードの上に、指から出た血が一滴落ちていた。

 そして、カードが一瞬光を放つ。



「もう大丈夫だ、フォル。よく頑張ったな、偉いぞ」


「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」



 床に下ろされた俺は涙目になって、針で刺された指先を見る。すでに血は収まりつつあった。



「それにしてもすごい声だ……やはりルーナの子だな」



 その口ぶりだと、昔はルーナも俺と同じような反応をしていたのだろうか。いや、ルーナに限らず、子供は大抵こういう反応をするものだと思うけど。



「口座の開設が完了いたしました」



 受付嬢が、俺の口座を作り終えたことを報告する。ここで終わりかと思いきや、バルトは自分のカードを出した。



「では、俺の口座から三万セルを移してくれ」


「かしこまりました」



 ささ、三万セル⁉︎ 日本円に直すと、約三十万円。大金だ。


 なるほど、バルトは俺の口座にお金を移すために、俺をここに連れてきたのか……。


 しかし、その理由がわからない。



「ジージ、どうしておかねをうつしたの?」


「ああ、これはゴブリンを討伐したときの報酬だ」


「ほうしゅう?」



 そういえば、バルトがハンターギルドで、小切手で受け取っていたような……。てっきり、そのまま自分の口座に納めたものだと思っていたんだが。



「あのとき、フォルが魔法で斃しただろう? だから、その分の報酬だ。フォルのお金だぞ」


「えー! やった!」



 俺は無自覚にも、お金を稼いでいたようだ。


 当時は、『バースト』の後に魔力切れで倒れたため、自分がゴブリンを何体斃したのか、正確に把握できていなかった。しかし、今の金額から推察するに、どうやら六十体葬り去っていたようだ。


 それにしても、三万セルか……。スライムシャーベットが百五十個も買えちゃう金額だ。思わず顔がニヤけてしまう。


 ただ、今のところお金を使う予定は特にない。もしものときのために、貯めておこう。

 お金があったほうが、無いよりも心の余裕も生まれるだろうし。



「よし、帰るぞ、フォル」


「うん!」



 思わぬ収入を得た俺は、ウッキウキでバルトと帰路についたのだった。







 ※






 その日の夕食は、久しぶりに四人揃っての食事だった。


 俺はルーナの料理に、安心感を覚えていた。王都の屋敷でのコックの料理も、王城でのパーティーでの料理も美味しかったが、やっぱりこの味が俺の一番だ。


 当然、食卓の上の話題は、王都への旅行についてだった。



「フォル、パーティーはどうだった?」


「たのしかった」


「それは良かったわ」


「こんどはママもいっしょにいこうね」


「そうね」



 もし同じような機会があれば、次こそはルーナと一緒に行きたいものだ。



「シャルはちゃんと朝起きられた?」


「ん〜もちろん起きられたよ〜」



 ルーナの問いに、シャルは思いっきり目を泳がせる。


 俺はジト目を向けて一言。



「うそつき」


「はぁ……やっぱりね」



 ルーナはため息をついた。



「やどでおこすの、とてもたいへんだった……」


「シャル、十八にもなって、フォルに起こしてもらうなんて恥ずかしいわよ。フォルの方がよっぽどしっかりしているじゃない」


「うう……」



 シャルは赤面したまま俯いた。ルーナの出発前の心配は、大当たりだったな。


 ルーナはそんなシャルの様子にため息をつくと、話題を変える。



「ところで、麦街道で貴族の馬車がゴブリンに襲われたと聞いたのだけれど、お父さんたちは大丈夫だったかしら? 出発して少し後のことだったから、かなり心配だったのだけれど」


「……そのゴブリンに襲われたのは貴族の馬車というのは、俺たちだ」


「……やっぱりそうだったのね」



 バルトが返すと、ルーナはまるでそれを予想していたかのような反応をする。てっきり、もっと大きなリアクションをするかと思っていたが……。


 すると、シャルがさっきとは打って変わって、勢いよく喋り始める。



「そうなんだよ! でもね、フォルがすごかったんだ! 魔法でゴブリンをドーンって、一撃で吹き飛ばしちゃったんだよ!」


「まさか、あそこまで魔法を使えるようになっているとは、思いもしなかったな」


「そのあと、フォルの魔力総量を測ったら、二千七百もあって、もうビックリだよ!」



 すると、ルーナは少し感心しながらも、納得したように言う。



「じゃあ、そのゴブリンの群れを爆発する魔法で葬り去った幼女、というのはやっぱりフォルのことだったのね」


「知っていたのか」


「ええ。巷では『爆殺幼女』なんて呼ばれていたけれど」



 俺がそう呼ばれていることは、ルーナの耳にも入っていたのか。王都でオルドー翁にも言われたし、相当広まっているようだ。どうやらしばらくは、その名で呼ばれることを覚悟しなければならなさそうだ。



「自分の娘がそう言われるのは、なんだか複雑な気持ちね……」



 そう言って、ルーナは俺に視線を向ける。彼女の表情は、なんとも言えない微妙なものだった。






 ※






「フォル、寝るわよ」


「うん」



 その夜。俺はルーナに声をかけられ、彼女が座っているベッドに向かう。俺がベッドに上がってルーナの隣で横になると、彼女は掛け布団を優しくかけた。


 以前、俺はベビーベッドで寝ていたが、それはもう過去の話。体がある程度大きくなってからは、毎晩ルーナと同じベッドで寝ていた。

 とはいえ、最近まで王都に出掛けていたので、こうして一緒に寝るのはおよそ一ヶ月ぶりだ。


 俺の精神年齢はすでに二十歳を超えている。それでも一番近い血の繋がった人と寝る安心感は、何にも代えられない。それに、こうしてルーナと一緒に寝られるのも、あと数年だろう。ルーナも、外見上は幼い俺を守るために、なるべく近くで寝たいと思っているだろうし。


 照明はすでに消えて、辺りは真っ暗だ。しかし、旅行から帰ってきたばかりでまだ興奮覚めやらぬせいか、俺の目はまだパッチリと冴えていて、眠れる予感がしなかった。


 俺は寝返りを打って、人の温もりを感じる方へ体を転がす。百八十度回転すると、目の前には目を閉じてじっとしているルーナの姿があった。



 ここで不意に、シャルの『それは、お姉ちゃんから説明してもらった方がいいかな』という言葉を思い出す。


 あれは何の話だっけ……?


 俺は少し過去の記憶を辿ると、ルーナに話しかけた。



「ねえ、ママ」


「……どうしたの?」



 やっぱり起きていたようだ。ルーナがゆっくりと目を開ける。



「あのね、パーティーのときにいわれたんだけど……」



 俺は夕食の席ではしなかった、パーティーでの出来事を、ルーナに打ち明けた。



「シャルにきいたら、『ママにきいて』っていわれた」


「…………」


「ねえ、ママ。『ちゅうおうからついほうされた』のはどうして?」



 すると、ルーナは無言のまま、俺の背中に手を回した。そして、俺を自分の胸の方に抱き寄せた。


 その体が小刻みに震えていることに気付いたのは、数秒後のことだった。



「……ママ?」


「ごめんなさい、フォル……そんなことを言われてしまうなんて……全部ママのせいなの」



 俺の前でルーナが泣いている姿を見るのは、初めてだった。


 俺も馬鹿ではない。フローズウェイ家が王都からラドゥルフに左遷されたのは、ルーナが何かをやらかしたからだ、と薄々勘づいていた。


 だから知りたい。どうしてこんなことになったのか。ルーナは、俺が生まれる前に、何をしたのかということを。



「ママ、いったいなにがあったの?」



 俺は再度、ルーナに問いかける。


 しかし、俺の期待とは裏腹に、ルーナは答える。



「ごめんなさい、フォル……今は、話すことができないわ……」


「なんで?」


「……今のあなたには、まだ早いのよ」



 その言葉に、一瞬俺はイラッとしたが、すぐに気持ちを落ち着ける。いくら俺の精神が大人でも、ルーナや周りの人からすれば、ただの三歳児。子供扱いされるのは当然だ。


 先ほど、ルーナは『まだ早い』と言った。つまり、それを俺が知るには、まだ知識も経験も足りていない、と思っているのだ。実際、この世界、いや、この国についてさえ、まだよくわからないことがたくさんある。それに、経験も全然足りていない。


 ルーナが教えてくれないのは、決して意地悪ではなく、いろんなことを考えた結果なのだろう。今は、知らないことがいいこともある。


 それならば、深追いすることは、むしろ俺にとってマイナスになりうる。


 でも、せめてこれだけは知りたい。



「……じゃあ、いつになったらおしえてくれる?」


「……大人になったら」


「やくそくだよ」


「……ええ。わかったわ。約束」



 俺たちは互いの薬指を、そっと合わせ、眠りについた。



 2024/02/26 更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。