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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第2章 王都編
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22 ローブ姿の謎の老人



 突然謎の老人が俺に声をかけてきた。俺の頭からは、シャルに聞きたかったことなどすっかり抜け落ち、反対にこの老人についての疑問が湧き上がってくる。


 いったいこの人は誰だ? もちろん、見たことも会ったこともない。完全にはじめましての人だ。


 年齢はだいたい六十代くらいだろうか。バルトよりも一回りほど上だろう。白い髭を生やしている。

 何より特徴的なのは、その格好だ。パーティー会場にいる男性は、そのほとんどがスーツのような服を着ている。しかし、老人はローブのようなものを着ていた。その格好は、まるでファンタジー小説に出てくる魔法使いのようだ。この場においては、あまりにも場違いである。


 それに、先ほどの言葉からして、俺がさっきシャルに魔法を使ったのを知っているようだ。周りに人がいない、部屋の端っこで使ったから、誰にも見られていないと思ったのだが……。見ていたのだろうか?


 とにかくわからないことが多すぎて、俺は警戒心を高める。それがどうやら顔や態度に出てしまっていたようで、老人は笑いながら俺に言う。



「フォフォフォ……そんなに警戒せんでくれ。ワシはお嬢さんに危害を加えようとしているわけじゃぁない。ただ、興味があるだけなのじゃ」


「きょうみ?」


「申し遅れたが、ワシの名はオルドー・リヒト・メサウスという」


「オルドー・リヒト・メサウス……⁉︎」



 すると、その名前を聞いたシャルが、ビックリしたような声で名前を反芻する。



「……しってるの?」


「知ってるも何も……『王国の賢者』と呼ばれる、ものすごい魔導師だよ!」


「おお……!」



 魔導師! 確か『魔法の使い方(中級編)』に詳しく書いてあったな。魔法について深い理解をし実践を積んだ者のうち、さらに超難関の試験を突破した者だけに与えられる、魔法使いの中での最高の称号だ。この王国に数百人ほどしかいない、まさに魔法使いの中の頂点である。


 それに、『王国の賢者』という二つ名があるあたり、本当に偉大な人なのだろう。



「フォフォ、そう言われると恥ずかしいのぉ……」



 そう言うオルドー翁は、なんだか満更でもないような表情をしていた。



「それに、フォルがよく読んでいる『魔法の使い方』シリーズの筆頭編者だよ!」


「ええ! そうなの⁉︎」


「そうじゃよ」



 マジかよ! 本持ってくればよかった! そうすればサイン貰えたのに! うあー! 地団駄を踏みたい気分だ。


 そそそ、そうだ、俺も自己紹介しないと。



「は、は、はじめまして。ラドゥルフち(・)ゅうし(・)じバルトのまごむすめ、フォルゼリーナ・エル・フローズウェイともうします。おしみ(・・)りおきを」



 テンパリすぎて、若干噛んでしまった。



「ほほぉ、幼いのに立派じゃの。フォル嬢よ、いま年齢はいくつじゃ?」


「さ、さんさいです」


「っほほーぉ! これはこれは、まさに逸材! この年でこれとは、まさにとんでもない才覚の持ち主じゃ!」



 すると、オルドー翁は興奮したように言い放った。

 いったい、何が彼をそんなに興奮させているのだろう?



「あ、あの……いったい、わたしなんかに、なんのごようですか?」


「う、うむ……失礼、少し取り乱してしもうた。フォル嬢よ、お主、先ほど魔法を行使したじゃろう?」


「は、はい……。見ていたんですか?」


「ふむ……何と言えばいいかの……。直接魔法を使うところは見ていないのじゃが、魔法を使うときの『魔力の流れ』が見えた、というべきじゃろうか」



 さらっと彼はそう言った。


 え、魔力の流れって見えるの⁉︎ 今の俺には、自分の中に流れる魔力を感じることしかできないのだが……。どうやらオルドーは、他人に流れる魔力を感じるだけでなく、『見る』こともできるようだ。


 やっぱりすっごい魔法使いだ。『魔導師』の称号は伊達じゃない。



「ともかく、実は、本来ならばこの空間で魔法は使えないはずなのじゃ」


「え……そうなんですか?」


「うむ。お主も魔法を使うときに感じなかったか? 魔力が何かに塞がれて、魔法に変換されないような感覚を」


「あっ……」



 そういえば、そんな感覚あったな。ヴォルデマールと相対したときにも、シャルに魔法を使おうとしたときにも感じていた。


 普段ならそんな感覚なんて微塵も感じたことなかったのに……。いったいどうしてなのだろう? このことを知っていて俺に尋ねてくるということは、もしかしたら、オルドー翁はその正体に心当たりがあるのだろうか?



「それって、いったいなにでなんですか?」


「うむ。実は、この部屋には、全体に結界が張られておる」


「けっかい?」


「魔法の使用が制限される領域のことじゃ。確か、『魔法の使い方(中級編)』の五十三ページあたりに書いていなかったかの?」



 ……言われてみれば、なんか書いてあった気がする。まだ一度しか読み通していないからあまり覚えていないけど。



「そのけっかいによって、まほうがつかえなかった、ということですか?」


「その通り。貴族というのは、概して強い魔法の能力を持っている。そのため、魔法を使った諍いが起きると、とんでもないことになってしまう。だから、結界魔法を起こす結界魔法陣によって、常時この部屋では魔法を使えなくしているのじゃ」


「なるほど」



 あれ? でも俺はさっき魔法を使えたけど……。



「しかし、お主はその結界を破ってしまった。その証拠に、慌ただしく警備の兵が動いておるじゃろう? あれは、結界魔法が破られた対応に追われているからじゃ」



 なるほど、だからさっきから警備兵が慌ただしく動いているのか……。


 ……あれ? もしかして、俺、やらかしたんじゃね……?

 だって、貴族たちが魔法を使わないようにするために、この部屋に結界を張っているんだよね? それを破ってしまったということは、誰かに対する害意を持って、魔法を使ったと捉えられてもおかしくないわけで……。



「わ、わたし、つかまっちゃう⁉︎」


「フォフォ、安心しなさい。わざとではないのじゃろう?」


「うん! このひとがよっぱらっていたから『ヒール』をしただけ!」


「そうです! 『ヒール』で治してもらいました!」



 シャルも俺の味方になってくれるようだ。それを見て、オルドー翁は笑う。



「フォフォ、わかっておるわかっておる。安心せい、いざとなればワシも証言するわい。魔導師のワシの言葉なら、疑う者もいるまい」



 その言葉に、俺はホッとする。この人が俺の魔法を見ていてくれて、本当に良かった……。

 


「ワシが聞きたいのは、お主がそれをどうやって突破したのか、ということじゃ」


「えっと……まりょくをいちどにたくさんこめたら、とっぱできました」


「ほほう……力技じゃったか……」



 ふむ、と言いながら髭を撫でるオルドー翁。



「とすると、魔力量が多いのであろうか……。お主、魔力量を測定したことはあるかの?」


「はい。ラドゥルフからおうとにくるとき、とちゅうのまちではかりました」


「差し支えなければ、いくつか教えてくれないかの?」


「ええと……にせんななひゃくごじゅうに、です」


「二千七百五十二! フォフォ、そりゃ凄まじい! この歳でこの魔力量とは……」



 バルトとは全く別のリアクションをとる。やっぱり、高名な魔導師から見ても、この年齢でこの魔力量は異常らしい。



「ちなみに、どんな系統の魔法に適性があるのじゃ? 聖系統に適性があるのはわかるのじゃが……」


「ぜんぶです」


「ぜんぶ……とな?」


「はい。みず、ひ、かぜ、ち、ひかり、せい、ぜんぶです。けいとうがいはまだわかんないですけど……」



 驚愕の表情を浮かべるオルドー翁。しばらく口をパクパクさせた後、やっと言葉を絞り出した。



「……まさに魔法に愛されておるな」


「フォルは本当に凄いんですよ! 家族で一緒に王都に来る途中、ゴブリンの集団に襲われたんですけど、フォルが『バースト』で斃してくれたんです!」


「ほう……上級魔法まで使えるとは……。ということは、最近耳にした『爆殺幼女』は、お主のことじゃったか」


「『ばくさつようじょ』?」


「うむ。王都の西方トーラムの街の近くの麦街道にて、旅の馬車列がゴブリンの集団を退治した。その大半は、なんと幼女の魔法で爆殺されたと聞いておる。にわかには信じ難い噂じゃったが……まさか本当だったとは。ゴブリンを魔法で爆殺したその幼女は、巷では『爆殺幼女』と呼ばれているようじゃ」



 『爆殺幼女』ねぇ……。嬉しいような、嬉しくないような……。この二つ名に、俺はなんとも言えない気持ちになった。



「そんなフォル嬢に、一つ提案がある」


「ていあん?」


「うむ。実はワシは、ここ王都の第一城壁の外にある、王立学園の学園長をしておる。

 ワシが言うと自慢のようになってしまうが、学園では一流の講師による王国最高峰の教育を行(おこな)っておる。もちろん、魔法についての教育も、その中には含まれておるぞ。

 残念ながら、六歳からしか入学できないのじゃが、そこで提案じゃ。

 六歳になったら、お主も入学しないか? むしろ、我が学園でぜひ学んでほしい。きっとお主にとって、この国で一番の環境を提供できるはずじゃ」



 学校か……。いつかは行くことになるんだろうな、と考えていたが、まさかこのタイミングで話が出てくるとは。


 オルドー翁の話は、悪いものではない。むしろ、俺にとってピッタリのように感じる。魔法についてどんどん学んでいきたいと思っていたし、それがこの国で一番良い環境で学べるのなら、願ってもない話だ。


 しかし、この場で決めることは性急だ。まだ俺は王立学園についてほとんど何も知らないし、入るのは三年後のことだ。バルトやルーナに相談する必要もあるだろう。



「ごていあん、ありがとうございます。ですが、このばでは、きめられません。マ……おかあさまやおじいさまにそうだんしないと」


「フォフォ、その通りじゃな。無論、この場で決める必要はない。じゃが、選択肢の一つとして考えておくれ。我が学園は、お主の入学を歓迎するぞい」


「ありがとうございます」


「では、失礼する。またどこかで会おうぞ」



 そう言って、オルドー翁は去っていった。


 俺がその背中を見つめていると、シャルが尋ねてきた。



「……そういえば、フォルがさっき聞こうとしていたことってなに?」


「きこうとしてたこと……? あー」



 一瞬なんのことだかわからなかったが、すぐに思い出した。


 俺はヴォルデマールに言われて疑問に思ったことを、シャルにぶつける。



「あのね、ヴォルデマールに、『ちゅうおうからついほうされた』っていわれたんだけど、それってどういうこと?」


「えっ……」


「わたしがうまれるまえは、シャルたちはちゅうおうきぞくとして、あのやしきでくらしていたのに、ラドゥルフにおいだされたってこと?」


「……んまあ、そうとも言えるかもしれないね」


「なんで?」



 シャルは困ったような顔をする。やはり子供には言えないような理由なのだろうか。



「……それは、お姉ちゃんから説明してもらった方がいいかな」



 結局、シャルは説明してくれなかった。俺が真実を知るのは、最短でもラドゥルフに帰った後になりそうだ。


 そして、思わぬ収穫と思わぬモヤモヤを抱えることになったパーティーは、お開きになったのだった。



 2024/02/06 更新

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