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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第2章 王都編
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20 横暴な小侯爵



 パーティーが始まった。


 とはいえ、俺はいったい何をすれば良いんだ? バルトのように話せる家族以外の他人はいないし……。やっぱり、あれを食べるくらいしか、やれることはないのか?


 俺は、近くの子供用のテーブルに乗っている料理を見つめる。


 普段は食べられないような美味しそうな料理が、山ほど用意されている。本当に美味しそうだ。見ているだけで口の中に唾液が出てくる。


 辺りを見回すと、大人たちは次々と奥の長テーブルの方へ向かっていた。それぞれが皿を取って、自分の分の料理を取っていく。


 そして、料理を取り終わった人は、その場で食べたり、近くのテーブルに一旦それを置いて、会話の続きをしたりしている。


 今回のパーティーは、どうやら立食形式のようだ。


 前世でも体験したことのない形式のパーティーだ。そもそもこういうパーティー自体参加する機会は無かったけど。


 しかし、焦る必要はまったくない。このパーティーがこの形式であることは、事前にバルトから聞いていたし、作法もバッチリ教えてもらっているからだ。


 ……だが、バルトに教えてもらった作法を披露する機会は、俺にはなさそうだ。


 なぜなら、子供用のテーブルには、お皿と料理、そして座席が用意されていたからだ。会場にいる子供の人数からして、全員が座って食べられるだろう。


 きっと、大人に混じって料理を取ったり、大人と同じように立ちながら食べるのは、子供には難しい、と運営が判断したからだだろう。実際、バイキングのテーブルの高さ的に、俺も無理だと感じていた。



「シャル」



 すると、向こうからバルトがやってきた。手には料理の乗った皿。



「パ……お父様! どうし……どうされましたのですわ?」



 シャルがすんごい変な口調でバルトに尋ねるものだから、思わず吹き出しそうになった。


 対照的に、バルトは顔色ひとつ変えずに、シャルに話しかける。



「言い忘れていたが、シャルは、フォルからできるだけ目を離さないでいてくれるか? 俺もなるべく気にかけるようにはするが」


「わかっ……りましたのですわ、お父様」


「フォルも、なにかあったら、すぐにシャルか俺、もしくはジンク君やアリーシャちゃんに言うんだぞ」


「うん」


「よろしくな」



 そう言い残して、バルトは再び会話の輪の中に戻っていった。


 ちょうどその時、ぐぅうううう〜、とお腹のなる音。音源は俺の腹だ。周りにも聞こえるような音量だったので、ちょっと恥ずかしい。



「フォル、食べに行ってきなよ。料理、たくさんあるんだし」


「うん、わかった」



 俺はシャルに促されるまま、近くの子供用テーブルへ向かった。


 子供用テーブルは、まだ空席は目立つものの、ちらほらと席について食べ始める子供が現れ始めていた。この場にいる子供たちの年齢は、一番上でも十歳くらいまでだろうか。最年少は、きっと俺だ。


 とりあえず、両隣に誰もいない席を確保。お皿を取って、適当に料理を盛り付ける。


 柔らかそうなパンを二切れと、黄色いスープ、サラダ、そして何かの肉。どれも本当に美味しそうだ。



「うまそー!」



 すると、俺の隣に男子が着席した。年齢は俺よりも上だが、そんなに離れているようには見えない。五歳か六歳くらいだろう。


 彼は、大きな音を立てて乱暴に椅子に座ると、身を乗り出して、料理をガバッと皿に盛り付けていく。


 そして、山盛りになった皿を自分の前に置いて、くちゃくちゃと音を立てて食べ始めた。


 何だか品の無い奴だなぁ……。一度に大量に取るのはマナー違反だし、それにクチャラーとかいうのもバッドポイントだ。それでも、ここに来られているということは、どこかの貴族の坊ちゃんなのだろう。マナーくらい教わってこなかったのかよ?


 ちょっと嫌な気分になったが、直接的な被害が及んでいるわけではないので、俺は「いただきます」の後、黙々と食べる。


 料理は見た目通り、とても美味しかった。フォークを動かす手が止まらない。さすが国王主催のパーティーだ。


 あっという間に俺の皿の上の料理は無くなってしまった。だが、まだお腹に余裕はある。このパーティーの食事が今日の夕飯だし、せっかく良いものを出してもらっているのだから、腹一杯食べないと!


 俺はテーブルの奥の方に置いてある、フライドポテトのような食べ物に目をつけた。さっきは取らなかったが、これも美味しそうだ。


 どうやら、これは他の子供にも人気らしく、山盛りに盛り付けられていたはずのそれは、あと数本しか残されていなかった。一人分にもならない量だ。


 俺は特に何も考えることなく、大皿を手に取ると、ポテトを全部自分の皿に移した。そして、大皿を戻して食べようとしたその時、隣で大きな声が響いた。



「あーっ! オレのポテト!」



 反射的に隣を見ると、俺の皿の上に乗っているポテトを見て、さっきの男の子が抗議の声をあげていた。


 『オレの』ポテトって……。お前だけのものじゃねぇだろ。自分のものだったらさっさと取っとけよ。思わずそう突っ込みそうになった。


 何だか嫌な絡まれ方をされたなぁ……。どう対処したらいいだろう。


 そんなことを考えていると、次の瞬間、奴はとんでもない行動に走った。



「おい、ひとりじめするな! よこせ!」



 そう言って、何の躊躇もなく、俺の皿に乗ったポテトに、自分のフォークを刺してこようとしたのだ。


 その時、たまたま自分の皿の端を握っていた俺は、脊髄反射的にお皿をヒョイと横にずらした。

 ドン! とフォークが空を切り、テーブルクロスに突き立てられる。


 うわぁ……強欲すぎる……。子供であるとはいえ、貴族だからそれなりに躾がなされているだろう、と思っていたが、まさかここまで野蛮だったとは思わなかった。正直、ドン引きだ。


 そして奴は、俺のとった行動が、とても気に食わなかったようだ。


 顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながら激昂する。



「おい、おまえ! オレにそれをゆずれ! それはオレがめをつけていたものだ!」


「いやです。あなたがとっていなかったから、わたしがさきにとっただけです。たべたいのにとっていないのがわるいです」


「ああん! おんなのくせになまいきだな、おまえ!」



 面白いほどに正論パンチが効いていた。論点ずらしに人格攻撃。子供だから仕方のないことなのかもしれないが、いざ対峙してみると、驚くほど反応がトンチンカンだった。



「あと、わたしのなまえは『おまえ』ではありません。フォルゼリーナ・エル・フローズウェイです」



 俺がそう名乗ると、相手は一瞬考え込むような仕草を見せると、ふん、とバカにしたように笑った。



「フローズウェイけとか、はくしゃくじゃないか! しかもちゅうおう(・・・・・)からついほうされたとかいう。オレはヴォルデマール・ストライト・リーシュ、めいもんのこうしゃくけであるリーシュけのちょうなん! おまえよりうえだ!」



 ヴォルデマールのその言葉に、いくつか引っ掛かるところがあった。しかし、奴は俺に考える時間を与えてくれない。



「だから、おまえがオレのほしいものをとるのはおかしい! わかったらはやくゆずれ!」



 そして、身を乗り出して、俺の皿のポテトにフォークを刺そうとしてくる。だが、俺は更に皿を遠ざけて、攻撃を回避。またもやフォークはテーブルに当たる。


 そのことが、ヴォルデマールのイライラを頂点へと導いたようだ。



「おい‼︎ オレのいうことがきけないのか!」



 ガタンと椅子を倒しながら立ち上がるヴォルデマール。俺も何か嫌な予感がして、椅子を引いて立ち上がる。


 すると、次の瞬間、何の前触れもなく、ヴォルデマールは拳を握りしめると、俺に腕を振りかぶってきた。



 ヤバい、殴られる──!



 その瞬間、思考が加速していく。相手の腕の振りがゆっくりになっていくように感じる。体が上手く使えていないのか、奴が無駄に大ぶりをしているおかげで、時間の猶予はまだ少し残されている。


 しかし、このままでは避けきれない。ドレス姿だから動きずらいのだ。


 だからといって、攻撃を受け止められるかといえば微妙だ。相手は五、六歳児。しかも男子だ。三歳でしかも女子の俺とは体格が全然違う。腕でガードしようとしても、力負けするのは確実。後ろに吹っ飛ばされてしまう。


 ならば、得意な魔法でどうにかするしかない! でも、どうやって防ぐ? 盾を作る魔法なんて知らない。こんなことを考えている間にも時間は消費されていく。とにかく、振りを妨害することを考えないと……!


 俺は、自分の手のひらから相手の拳へ、勢いよく水が噴射されている様子をイメージする。水の勢いで拳の勢いを減らす作戦だ。手を翳して詠唱すると間に合わないが、翳すと同時に無詠唱で発動すれば、ギリ間に合う!



 『ウォーター』!



 魔力を集めた手のひらを奴に向け、俺は心の中でそう念じる。


 しかし、魔法は発動しなかった。


 具体的には、魔力が魔法に変換されない。何か強力な膜が手のひらを覆っていて、魔力の流出が妨げられているような感覚だ。



 『ウォーター』!



 再度念ずるが、発動しない。そうこうしている間に、拳は俺の目の前。もう間に合わない、顔面直撃コースだ……!


 来る衝撃に備えて、俺はぎゅっと目を瞑ろうとした。しかし、その寸前、視界の左端から、何かが猛烈なスピードで割り込んできた。



 バキッッッ……‼︎



「っっっっ、いってええええぇぇぇ⁉︎」



 その声で、世界のスピードが元に戻る。ヴォルデマールの拳は俺に届くことはなく、むしろ奴は、拳を押さえてぴょんぴょん飛び跳ねて痛みを堪えていた。


 その拳を防いだのは、俺の目の前を塞ぐように突き出された茶色く、細長い物体。至近距離なので、細かい木目が見える。


 木剣だ。俺は視線を左に動かして、木剣の柄を持っている手、続く腕、そしてそれを持っている人物を眼中に収めた。


 そして、彼の名前が口から飛び出す。






「ルーク……」



 2024/02/09 更新

 2024/02/26 更新

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