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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第2章 王都編
17/140

16 王都到着



 それからの道中では、ゴブリンはおろか、魔物にすら遭遇しなかった。


 きっと、王都にどんどん近づくにつれ、街道の周りがどんどん発展してきているからだろう。


 王国直轄州に入ったばかりの頃は、街道の周りには何もない丘が広がっていた。しかし、進むにつれて、牧場地帯や農地が増え、その中に建物が混じり始め、その建物がどんどん増えていった。道幅も、街を通過するごとにどんどん広くなっていった。


 そして、出発から十五日目。俺たち一行は、他の馬車に前後を挟まれながら進んでいた。



「ついに見えてきたな」



 バルトが窓の外を見て呟く。


 その声で窓から前方を見ると、遠くに巨大な城壁が立ちはだかっているのが見えた。



「……あれは?」


「王都だよ! やっと見えてきたー!」



 シャルが嬉しそうに伸びをする。


 これまで見てきたどの都市よりも、城壁は高く、そして長かった。まるで地平線の向こうまで続いているようだ。



「お、おっきい……」


「そりゃ、王国最大の都市だからね! 人口も、ラドゥルフよりはるかに多いよ!」



 いったいどのくらいの人がいるのだろうか……。おそらく数十万、いや、百万をも超えているかもしれない。


 ここで、馬車のスピードが落ちる。それなりのスピードでスムーズに進んでいたのが、かなりのノロノロ走行になる。


 検問か何かで詰まっているのかな?


 馬車がゆっくり進んでいる間に、俺はシャルに尋ねる。



「シャル」


「どしたの、フォル?」


「おうとの、どこへいくの?」



 王都といっても、目の前の景色からもわかるように巨大だ。王都に行くとは聞かされていたが、結局その中のどこに行くのだろうか?



「王都の第二城壁の内側にある、わたしたちの別邸だよ」


「だいにじょうへき? べってい?」


「あー、えっとね……まず王都の構造から話そうか」



 そう言って、シャルは王都の地理について説明し始めた。


 王都は四重の城壁に囲まれた真円状の城塞都市だった。城壁にはそれぞれ、内側から第一、第二、第三、第四と番号が振られている。


 第一城壁に囲まれた、最も内側のスペースの真ん中には王族の住処である王城がある。そして、その周りには官公庁など、国の中枢を担う施設が集まっている。

 その外側の、第一城壁と第二城壁の間には、貴族などが住む高級住宅街や、各種ギルドの本部、さらに教育施設などがある。

 さらにその外側の、第二城壁と第三城壁の間には、商店街や工場、中流階級の住宅街が広がっている。

 そして、最も外側にある第三城壁と第四城壁の間には、下流階級の住宅やあまり治安の良くない街が広がっているらしい。


 どうやら王都は、城壁を境に綺麗に階層構造をなしているようだ。


 そして、俺たちが目指すのは、第一城壁と第二城壁の間にある貴族街、その中にある俺たちの別荘だった。



「おうとにはいってから、べっていまでは、どのくらいかかるの?」


「うーん……結構かかるよ。人通りも多いし、王都は広いからね〜」



 そうこうしている間に、俺たちは検問を通過した。馬車の中が暗くなり、城門の分厚さがよくわかる。そして、元の明るさを取り戻すと、馬車の外には別世界が広がっていた。


 今まで滅多に見られなかった背の高い建物が、道の両脇に聳え立っている。背が高いといえども五階くらいなので、前世の基準に照らし合わせるとかなり低いのだが、この世界に生まれてから高い建物を見てこなかった俺にとっては、とても高く思えた。


 それに、人通りも多い。活気が馬車の中にまで伝わってくる。


 そんな人の姿をぼーっと外を眺めていると、俺はあることに気づいた。



「あれ……?」



 大多数の普通の人に混じって、明らかに普通ではない姿の人間が混じっているのだ。尖った耳を持っていたり、背中から翼を生やしていたり、猫耳が生えていたり……。


 コスプレだろうか? それにしては出来すぎているように見える……。それに、今日がお祭りの日であるようには見えない。



「ねえ、シャル」


「ん?」


「あそこのひと、みみながい」


「あ〜、エルフなのかな」



 エルフ、という単語が出てきて、俺のテンションが上がる。



「エルフ? いま、エルフっていった?」


「ああ、うん。それがどうかしたの?」


「このせかいには、にんげんっぽいけど、べつのしゅるいのひとがいるの?」


「そうだよ。いわゆる『亜人』って呼ばれている人たちだね」



 シャルはまず、俺が見ていたエルフを指差す。



「あれがエルフ。大陸南西部の森に主に住んでいて、超長生きなんだ。あと、風系統の魔法が得意だよ」



 次に、その隣で喋っている、尻尾と羽が生えた人を指差す。



「あれがドラゴニアン。大陸北西部の山岳地帯に主に住んでいて、飛べるんだ。ここからじゃ見えないけど、額にツノも生えているよ。あと、火系統の魔法が得意だよ」



 そして、頭頂部から猫耳の生えた人を指差す。



「あれが猫耳族。大陸南部の平原地帯に主に住んでいて、めちゃくちゃ身体能力が高いんだ。亜人は、他にもドワーフとか、リザードマンとか、吸血鬼とかいろいろいるよ」


「へ〜」



 前世では架空のファンタジー世界の住人だった彼らが、この世界に存在していることに、俺はちょっと感動していた。


 いつか仲良くなって、いろいろ話してみたいなぁ……。



 しばらく馬車を走らせていると、再び城壁を通過する。今のが第三城壁か。


 その内側に入ると、また違う景色が馬車の窓に映る。さっきよりも綺麗で、少し立派な建物が多くなったような気がする。道の両側には所狭しと建物が立っていて、店が口をこちらに向けていた。そして、道は溢れんばかりの買い物客でごった返している。歩行者を轢かないように、馬車のスピードもさっきより落ちた。


 しばらく進むと、さらに城壁が見えてきた。第二城壁だ。ここを越えればついに俺たちの目的地に到着だ。


 第二城壁の内側は、さらに建物が豪華になった。建物一つ一つの大きさは桁違いに大きくなり、道沿いにずらっと並んでいる。


 道を歩いている人は、打って変わってかなり少ない。しかし、その姿はどれも気品のあるもので、一目で素養のある人であるとわかる。馬車の中に漂ってくる空気まで変わってしまったように感じた。



 しばらく高級住宅街を進む。そして、とうとう馬車が道の脇に寄ってゆっくりと減速して、止まった。



「降りるぞ」



 とバルトが客席のドアを開け放ち、俺とシャルがその後ろへ続く。


 そして、馬車から降りた俺の目の前にあったのは──。



「なにこれ」



 壁面が蔦に覆われた屋敷だった。


 ラドゥルフの家よりもはるかに大きい。しかし、周りの家と比べると、荒れ放題で手入れがなされていないためか、相対的にボロく見える。



「うわ……」



 その声に目を向けると、ちょうど馬車から降りてきたジンクさんがこの家を見つめていた。



「これ、本当に俺たちの家ですかね……?」


「……住所はあっているはずだ」



 隣でバルトも呟きを漏らす。



「でも、メイドとか、清掃業者とか雇ったんですよね?」


「そのはずだが……。もしかしたら何かあったのかもしれない。後で問い合わせに行く」



 何かトラブルが発生しているみたいだ。


 これからどうすればいいんだろう……? 何をすればいいのかわからず、俺は周りを見渡す。


 シャルは困った顔をして立ち尽くしている。また、護衛の人たちもザワザワしていた。



「とりあえず、荷物を中に入れましょう、バルトさん」


「ああ、そうだな。皆、荷物を持ってくれ!」



 バルトがそう号令して、皆が馬車から持てるだけの荷物を持った。


 俺も荷物を持って、バルトに続き、屋敷の敷地内に足を踏み入れていく。


 蔦の這う屋敷を見上げながら、本当にこんな家に滞在できるのか、俺はかなり不安に思うのだった。



 2024/02/26 更新

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