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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第2章 王都編
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15 ゴブリン戦の後始末



「う……」


「フォル! 良かった……!」



 目を開けると、ドアップのシャルの顔。俺は、周りを見回して状況を把握する。


 俺は馬車の中に寝かされていた。シャルが魔力切れで倒れた俺をキャッチしてくれた後、ここまで運んでくれたようだ。


 俺は体を起こすが、魔力切れがまだ完全には治っていないのか、頭がクラっとした。座席からずり落ちそうになり、シャルが慌てて支えてくれる。



「大丈夫⁉︎ 急に動かない方がいいよ!」



 俺は座り直して、座席の背もたれに体重を預けた。



「……それより、ゴブリンはどうなったの?」



 それが一番気になっていることだ。気絶する前、見た感じでは、俺の魔法でほとんどのゴブリンは死んだようだったが……。


 すると、向かいの席に座っていたバルトが口を開いた。



「全部斃したぞ」


「……わたしたちも、ハンターのひとも、みんなぶじ?」


「ああ。全員無事だ」



 その答えに、俺はほっと胸を撫で下ろす。


 どうやら、俺たちはこの難局を無事に乗り切れたようだった。


 すると、バルトがふーっ、とため息をつきながら、目頭を抑えた。



「あのなぁ……フォル。馬車の中にいなさいと言っただろう……。勝手に出てはダメだ。ゴブリンにやられていたかもしれないんだぞ?」


「……ごめんなさい」


「……だが」



 そのまま怒られるのかと思いきや、話は別の方向に展開する。



「フォルのおかげでゴブリンを斃せたのも事実だ。フォルのあの魔法がなければ、かなり厳しい戦いになっていただろうな……」



 そして、バルトは俺の頭を撫でると、いつもの優しい表情に戻った。



「よくやった、フォル。お手柄だ」


「……ありがと」



 嬉しいような、恥ずかしいような気持ちで、俺はモジモジしてしまう。



「それにしても、フォルの魔法、すごかったよー! あんな魔法、どこで覚えたの⁉︎」


「このほんにかいてあったから、やってみた」


「……もしかして、あの場で初めて発動したのか?」


「うん」


「規模からして……上級魔法だよな?」


「『バースト』っていう、ひけいとうのまほう」


「やっぱりフォルは才能あるよ! これからが楽しみだな〜」


「我が孫ながら、規格外すぎるな……まさかここまでとは」



 シャルは目をキラキラさせて、一方のバルトはなんだか困ったような表情を浮かべていた。


 もしかして、ちょっとやりすぎた……? で、でも、ああでもしないとあの状況は乗り切れなかっただろうし、仕方ないよね……!



「ところで、まだしゅっぱつしないの?」


「もうすぐ出発するぞ。ゴブリンの処理が終わったらな」



 そう言って、バルトは窓の外に視線を送る。その視線の先を辿ると、川の近くで真っ黒な煙が上がっているのが見えた。



「あれは、なにしてるの?」


「ゴブリンの死体を集めて、焼いているんだ」


「どうして?」


「そりゃぁ、斃したゴブリンをそのまま放置するわけにはいかないからな。放置して死体が腐ったら、この道を通る人に迷惑だろう?」



 バルトの言う通りだ。放置すると感染病の原因にもなりそうで、衛生的によくないだろう。


 俺が知っているゲームやラノベの世界では、魔物を斃すと、死体が消えてアイテムやコインがドロップする。だが、この世界ではそんな都合の良いことは起きないようだった。



 もうもうと上がる黒い煙を見ていると、ようやく、ゴブリンを殺したことへの実感が湧いてきた。バルトやシャル、護衛のハンターたちが斃したゴブリンの断末魔、そしてシャルを襲おうとしたゴブリンを、自らの手で殺したときの光景がフラッシュバックする。


 しかし、意外なことに、思ったより罪悪感は湧かなかった。それはおそらく、ゴブリンたちが絶対悪であると、少なくとも俺はそう判断しているからだろう。


 この旅に出るまでに、俺は絵本を読んで、『ゴブリンたちが悪役である』という設定に何度も触れてきた。今朝、宿では『ゴブリンたちが大集団で略奪している』という話を聞いたし、実際に俺たちに襲いかかってきた。


 ひょっとすると、ゴブリンたちにも『よい』面があるのかもしれない。あるいは、俺の知らないなんらかの事情があるのかもしれない。

 だが、少なくとも俺の目には、ゴブリンたちが完全な悪役に映った。俺たちが何もしなかったら、きっと奴らは俺たちを殺していただろう。


 だから、あの場はああするしかなかったのだ。それに、もし俺たちが対処しなかったら、その後、別の被害者が生まれていたかもしれない。誰かがやらなければならなかったのだ。



 そんなことを考えていると、いつの間にか黒い煙は空の彼方へ消え去っていた。


 俺たちの馬車の横を、武器を持った数人のハンターたちが通り過ぎ、前方の馬車に乗る。どうやら、ゴブリンの死体の焼却は済んだようだ。


 そして、馬車がゆっくりと動き出す。


 こうして、魔物との初戦闘は、俺たちの勝利という形で幕を閉じ、旅が再開したのだった。






 ※






 日が暮れる頃、俺たちは今日の目的地である街に入った。


 ゴブリンに襲われたから遅れるかと思ったが、なんとか間に合ったようだ。


 今朝出発した街よりも、規模は少し小さいように思える。しかし、王都に近づいている分、むしろ人の数は多くなっているように感じた。



「あー、腹ペコだよー……」



 ギュルギュルギュル〜、とシャルの腹から間抜けな音が響く。



「おなかすいた……」



 宿はまだか! ゴブリンと戦ったせいか、いつもよりもかなりお腹が空いていた。


 すると、バルトが申し訳なさそうに言う。



「悪いが、宿の前に寄らなければいけないところがあるんだ。少し我慢してくれるか」



 いったいなんの用事なんだ……。



「わたしもいかなきゃ、だめ?」


「ああ。むしろ、フォルに関わることだ」



 どういうことだ? 俺に関わること……? 特に思い当たる節はない。


 ちょうどその時、馬車が停まった。そして、バルトが馬車のドアを開けて降りる。



「二人とも来てくれ」


「うん」


「わかったー」



 俺は馬車を降りると、目の前の建物を見上げた。


 三階建ての、立派な石造りの建物だ。開け放たれた玄関からは、多くの人々が出入りしている。そのうちの大半が、剣や槍、盾、弓矢などで武装していた。


 玄関の上には、デカい看板が掲げられている。俺はそこに書かれている文字を、口に出した。



「……『ハンターギルド』」


「行くぞ、フォル」



 俺はバルトと手を繋いで、ギルドの中へ入っていった。


 ギルドの建物の中に入ると、俺たちを大きなホールが出迎える。そこには無数の長テーブルと長椅子があり、多くのハンターが話に花を咲かせたり、酒を飲んだりしていた。


 その脇を通り過ぎて、バルトはまっすぐカウンターへ向かった。



「お疲れさまです。どのようなご用でしょうか?」



 受付嬢が応対を始める。とはいえ、俺の身長では姿は見えず、声しか聞こえないが。



「旅の途中でゴブリンの集団に遭遇し、討伐したため、その報告と、該当するクエストの照会をしたい」



 そう言って、バルトは懐からカードを取り出し、カウンターに置いた。



「かしこまりました。少々お待ちください」



 待っている間に、俺はバルトに尋ねた。



「ここによったのは、ゴブリンをたおしたのをいうため?」


「そうだ。この規模だったら討伐クエストも出ているだろう。もしクエストでなくても、街道であの規模のゴブリンに出くわしたことは、明らかに異常事態だから、ギルドに報告した方がいい」



 確かに、それならなるべく早めに報告した方がいいだろう。もしクエストになっていたら、討伐したことを知らない人がそれを受けてしまって、無駄な手間をとらせてしまうかもしれない。



「お待たせいたしました。こちらのクエストでしょうか」


「……ああ、そのようだ」


「討伐証明部位などはお持ちでしょうか」



 バルトが後ろへ視線を送る。振り返ると、そこには、俺たちの護衛の一人であるハンターの男性が、袋を持って控えていた。バルトの視線を受け、彼は一歩前へ進む。



「それでは、こちらへどうぞ」



 その声と同時に、別の受付嬢が出てきて、彼を誘導していった。



「確認致しますので、少々お待ちください」


「その間に、やってもらいたいことがある」



 すると、バルトが突然、俺の脇の下に手を通した。抵抗する間もなく、ヨイショという掛け声とともに、俺は持ち上げられた。



「え、え、え」



 戸惑った声を出している間に、急にカウンターの上まで目線が上昇する。今まで見えなかった受付嬢が見えた。めっちゃ美人だった。突然のことに、彼女はちょっとビックリしたような表情を浮かべている。



「この子の、ギルドカードを作りたいんだが」


「……かしこまりました。五十セルでございます」



 受付嬢はすぐに元のアルカイックスマイルに戻ると、慣れた手つきで書類を一枚取り出し、ペンを添えた。



「こちらにお名前と、生年月日をご記入ください」



 バルトは手元から銅色の硬貨を五枚取り出し、カウンターの上に置いた。そして、俺を片手で抱え直すと、書類にスラスラと記入していく。書き終えたところで、受付嬢がそれらを回収した。



「フォルゼリーナ・エル・フローズウェイ様、王暦七百五十四年、花の月二十五日生まれ……でよろしいですね?」


「ああ」



 受付嬢は、手元でコチコチと何かのボタンを押すような操作をする。そして、一枚のカードをカウンターの上に置いた。続いて、手元から細長い針を取り出すと、湿った綿で先端を拭いて、その隣に置く。


 カードはわかるが、どうして針? なんだか嫌なよかーん……。


 そして、その嫌な予感は、次の瞬間見事に的中した。



「それでは、フォルゼリーナ様の血液を一滴以上、カードに垂らしてください」



 は⁉︎ 血液採取するの? カードを作るだけなのに?

 俺が混乱していると、バルトは針を手に取って俺の右手を掴んだ。そして、親指をまっすぐ伸ばす。



「ちょっとじっとしててな」



 そう言ってバルトは、その針を俺の親指に躊躇なく突き刺した。



「ひいいいいいい! いやあああああああ!」



 しかし、逃げ出そうとする俺をバルトはがっしりホールドすると、追い打ちをかけるかのように、針を刺したところの周りをギューッと圧迫する。


 あああああ! 痛い! 痛いって! 俺の目から涙がこぼれ落ちる。


 俺は注射がとても苦手だ。だから、この世界に注射なんて存在しないだろう、と思って安心していたのに……。まさか同じようなことをするとは思わないじゃん……。



「よく頑張ったな、フォル」



 そんな声が聞こえてきて、やっとバルトの力が緩んだ。


 一方、俺の血が垂れた瞬間、カードは光を放つ。数秒後、何事もなかったかのように光は収まり、ただのカードに戻った。



「カードの作成が完了いたしました。こちらが、フォルゼリーナ様のギルドカードでございます」



 カウンターの上にカードが差し出される。これが俺のギルドカード……。


 それにしても、どうして俺のギルドカードを作ったのだろう? 別に俺はハンターになる気など、今のところはさらさらないのだが……。



「では、この子の魔力測定を頼む」


「かしこまりました。百セルでございます」



 バルトは間髪入れず、今度は銀色の硬貨をカウンターの上に置く。受付嬢はそれと俺のギルドカードを回収すると、代わりに箱のようなものをカウンターに置く。


 なるほど、このためにギルドカードを作ったのか。


 魔力測定ということは、きっと俺の魔力量を測ってくれるのだろう。今までは、魔力切れを起こすまでに発動した魔法の魔力消費量の合計でしか、自分の魔力量を把握できなかった。だが、この機械ならきっと、より正確な値を出してくれるだろう。



「では、こちらに右手を開いて置いてください」



 受付嬢が箱の上面を示す。


 ただ、一つ心配なのは、また痛い目に遭わないだろうか、ということだ。さっきみたいに自分の血が必要とか、さすがにそういうことはないよね……?


 そんな俺の気持ちを察したのか、受付嬢はにっこりと微笑む。



「大丈夫ですよ。痛くありません」



 本当に大丈夫なんだな? 俺は受付嬢の言葉を信じて、恐る恐る箱の上面に右の手のひらを置く。



「しばらく、そのまま離さないでくださいね」



 次の瞬間、箱の上面が光る。さっき光ったカードと同じ類の光だ。魔法なのだろうか?


 数秒後、光が収まった。受付嬢が手元を見て、紙に数値を書き出す。一瞬驚いたような表情が見えたのは気のせいだろうか?


 あー、ドキドキする……。どのくらいの数値なんだろう……。



「こちらが結果です」



 そして、カウンターの上に紙が出される。そこに書いてあった数値は。



「魔力量、二千七百五十二……⁉︎」



 バルトがビックリしたような声を上げる。その声が聞こえたのか、周りが騒つく。


 『アイスランス』と『バースト』の魔力消費量は二千七百。それを使って魔力切れを起こしたため、俺は自分の魔力量がそのくらいだと予想していた。そのため、この結果にはそこまで驚きはない。

 しかし、バルトや他の人からすると、この結果はとんでもないもののようだった。きっと、同年代の平均に比べれば多い方なのだろう。



「はぁ……やはりな……」


「系統適性検査はいかがなさいますか?」


「結構だ」



 バルトは結果の紙と、俺のギルドカードを回収した。


 すると、別の受付嬢が俺たちの応対をしている受付嬢に話しかけてくる。先ほどゴブリンの討伐証明部位を持ったハンターを連れて行った人だ。横を見ると、空になった袋を抱えたハンターの男性が戻ってきていた。どうやら確認は終わったようだ。



「お待たせいたしました。討伐証明が完了いたしました。このクエストの達成を承認いたします」



 そして、クエストの紙にポンポンとハンコを押す。



「報酬ですが……ゴブリン一体につき五百セル、討伐数が百十八体ですので、五万九千セルです」



 どのくらいの金額なのかはわからないが、かなり高そうだ。その証拠に、ギルド内での騒めきが大きくなっている。



「お支払いはいかがなさいますか?」


「……小切手で頼む」


「かしこまりました。少々お待ちください」



 受付嬢はその場でしばらく作業をすると、小切手を差し出した。



「お待たせいたしました」


「ありがとう」



 バルトは素早く小切手や書類などをしまうと、俺を地面に下ろす。


 そして、ギルドを後にした俺たちは、馬車に乗って今度こそ本日の宿に向かうのだった。



 2024/02/26 更新

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