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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第9章 新挑戦編
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135 崩れる前提



 数日が経ち、いよいよ授業初日。私の四年生が本格的に始まる。


 

「それでは行きましょうか」



 朝食後、フローリー先輩の先導で、私たち四人は一緒に登校する。


 ここに来た当初こそ、ラウィちゃんは緊張気味で口数が少なかったが、ここ数日でかなり緊張がほぐれたようで、笑顔を見せることも、口数も多くなってきていた。


 そのことはとても喜ばしいことだったが、一方で、少し不安なこともあった。


 ここ数日間、ずっと体が怠いのだ。この症状が始まったのは、ちょうどラウィちゃんが寮に来た日、説明を終えて夕飯の時間までベッドで眠った後。そこからずっと、全身に倦怠感がある。


 何かの病気かと思ったが、クシャミも咳も、発熱も体の痛みもない。ただただ全身が怠いだけで、他は正常なのだ。


 一体俺の体に何が起こっているんだ……? さすがに何も起きていないわけがないので、今日保健室に行って相談してみよう。



「……フォルせんぱい、だいじょうぶ、ですか?」


「う、うん、だいじょうぶだよ!」


「でも、ちょっとぐあいわるそう……です」


「だいじょうぶだいじょうぶ! 心配してくれてありがとうね」



 ラウィちゃんにもこうして心配される始末だ。さすがに後輩の前でも気弱な姿を見せるわけにはいかない。俺は気合いを入れて普段通りのテンションを装う。



 それにしても、『先輩』って呼ばれるの、ずいぶん久しぶりな感じがするな……!


 思い返せば、『先輩』って呼ばれたのは、前世で高校生活を送っていた時以来だ。一応この学園に入ってから後輩に当たる人はすでに三学年ほどいるわけだが、学校の授業で後輩と関わるものはないし、クリークにも私より年下の人は入ってきていないため、結局四年生になってからラウィちゃんに呼ばれるのが初めてだった。前世からカウントして実に九年ぶりである。



「では、わたくしはラウィを一年生の教室へ送っていきますね」


「よろしくおねがいします」


「じゃ、また放課後ねー! バイバイ!」


「またね、ラウィちゃん、フローリーせんぱい」



 校舎の入り口で別れると、私は四年生の教室へ向かう。その途中で、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。



「フォル、おはよ」


「おはようジュリー」



 俺の隣に来たのはジュリーだった。



「エアリスフィアのしあい、ざんねんだったね」


「あ~……まあね」


「でも、フォルはかつやくしてたよね、いっぱい点を決めていたし」


「……もしかして見に来てくれてたの?」


「うん。お父様と全部見てたよ」



 マジか……。あの観客席の中にジュリーとアルベルトさんがいたのか。全然気づかなかった。


 私の得点するシーンを見てくれていて嬉しい、という気持ちがある反面、全部見ていたということは、私の退場シーンもばっちり見ていたということになるわけで、なんだか恥ずかしいような情けないような気持ちもある。



「ところで、なんか具合悪そうだけど、だいじょうぶ?」


「……そう見える?」


「うん。やっぱりあのしあいのけがのせい?」


「そこはまだわかんないけど、今日ほけん室に行ってみるつもり」


「そっか」



 そして、私たちは四年生の魔法科の教室に入るのだった。






 ※






 一時間目の授業は、魔法実技だった。


 もう四年目となると、皆の実力は相当なものになっていて、全員が自分の適性のある系統において、中級魔法まで使いこなせるようになっていた。中には上級魔法まで足を踏み入れる人も出てきている。


 まあ、王国で最高の魔法教育を提供すると謳っている王立学園魔法科に、王国内でも選りすぐりの魔法の才能の卵が入ってきているわけだから、当然っちゃ当然である。


 ……なんだか間接的に自慢しているみたいになってしまった。



 それはさておき、担当のジェラルド先生が話し始める。



「さて、この三年間でお前らは中級魔法までを使えるようになった。この調子で上級魔法へ……と行きたいところだが、上級魔法を使うには膨大な魔力のコントロールが必須となる。これはかなり難しい。

 ここで、まずはこれまでの魔法の精度を高める練習をする。中級魔法までの魔法をきちんとコントロールできるようになれば、それを応用して上級魔法以降のコントロールも自ずとできるようになるっつうわけだ」



 どうやら、上級魔法を習う前に、魔法のコントロール力を高める練習をするようだ。



「っつうわけで、まずはテストだ。あっちにある的に魔法を当ててみろ。ただし、この場からだ」



 先生が指差したのは、グラウンドのほぼ対角線上にある円形の白い的だった。大きさは直径一メートルほどで、中心のほんのわずかな部分だけが目立つように赤く塗られている。


 私たちと的との間の距離は百メートルは超えているだろう。こんな長距離の魔法当ては、さすがに私でもやったことがない。



「使う魔法は中級魔法までなら構わねぇ。ただし、的の半分を超える大きさ……だいたい五十センチ以上のモノを出すような魔法はダメだ。それに、複数個のモノを出すような魔法もダメだ。まぁ、オレがテスト前に何の魔法を使うか聞くから、それに答えてくれ。ダメならダメというからな」



 早速テストが始まった。


 クラスメイトが次々と挑戦していくが、やはりこの距離で的確に的の中心に当てるのは困難だ。ほとんどの人が的から外してしまう。なんとか的に当てられた人も数人はいたが、いずれも中心ではなく的の端っこだった。



「よし次、フォルゼリーナ!」


「はい」



 やっと私の番になった。俺は倦怠感に耐えて足を踏ん張ると、発射位置まで足を進める。



「さて、何の魔法を使うんだ?」



 やっぱり一番確実なのは……。



「『レーザ……』」


「却下だ」


「えー、どうしてですか?」


「危険だからだ。もし外れたときにオレが対処できない」


「……わかりました」


「あと、精霊の力を借りるのもナシだ。お前本来の実力が見たいからな」



 俺は少し考えると、使う魔法を決めた。



「『ファイヤーボンバー』はどうですか?」


「それなら構わない。だが、さっきも言った通り、一発だけだ」


「わかりました」



 私は魔法の準備をする。


 『ファイヤーボンバー』を選んだ理由は単純だ。最も馴染みのある火系統の魔法で、かつ、発射系の魔法の中ではコントロールが効く方だからだ。


 さあ、一発クリアしてやるぜ!


 俺はそう意気込んで、詠唱する。



「『ファイヤーボンバー』!」



 ……。


 …………。


 しかしなにもおこらなかった!


 という文章がRPGのメッセージのごとく、脳内を巡った。



「あれ?」


「……もう一度やってみろ」



 私は若干の羞恥心を感じながらも、もう一度詠唱する。



「『ファイヤーボンバー』!」



 しかし、不発。

 それどころか、いつものように魔力が手のひらに集まる気配すら感じなかった。


 これはおかしい。どう考えても異常事態だ。これまでは使おうと思えば絶対に使えた魔法が、今初めて使えなくなった。


 これまで自分が積み上げてきて、いつの間にか盤石だと思っていた無意識下の土台が崩れたような気がして、知らず知らずのうちに、私はパニックになってしまっていた。


 や、やばい……! マジで私、どうしちゃったんだ……⁉



 次の瞬間、ズンッ……ととんでもない重さの錘を括りつけられたかのように、体が重くなる。そして、一気に気分が悪くなる。


 ここで、私は思い出し、そして納得した。


 久しぶりすぎて忘れていたこの感覚。そうか、これが原因だったのか……。



「まりょ……ぎ……」


「おぃ大丈夫か? おい……おい! フォルゼリー……!」



 俺は地面に崩れ落ち、そのまま意識を失ってしまった。



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