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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第8章 帰郷編
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127 終息、再び王都へ



 約二ヶ月後。気温は低くなり、季節はすっかり真冬になった。


 この日、俺は上着を着ると、家を出発して商店街の方へ歩いていく。心が浮わついているせいか、自然とスキップしてしまう。


 その理由は、俺の右手にある、先日届いた手紙だ。送り主はダインさん。内容は、刀が完成したので受け取りに来てほしい、というものだった。


 狭い路地を通って、俺はダインさんの店に到着すると、早速ドアを開けた。



「こんにちは!」


「いらっしゃいませ、フォルゼリーナ様!」


「刀はできてる⁉」


「勿論で! こちらでございます」



 ダインさんは一旦奥へ引っ込むと、すぐに俺の刀を抱えて戻ってきた。


 預けたときより一回り大きくなった刀は、新品同様の輝きを見せている。



「もってもいい?」


「はい!」



 俺はダインさんから刀を受け取る。以前よりズッシリとした感覚。


 これが、俺の新しく生まれ変わった相棒か。今は少し大きく感じるが、きっとこれからぴったりになるだろう。



「あと、こちらが鞘ですぞ」



 俺はそれを受け取ると、刀をしまう。チン、という音を立て、鞘に気持ちよく収まった。



「ありがとう、ダインさん」


「いえいえ、手入れは定期的にお願いしますぞ」


「うん、じゃあ、これで!」


「ありがとうございました!」



 俺は刀を背負うと、ウキウキで外に出る。

 あー、早く試し斬りしたいなー! 一刻も早くこの刀に慣れたい!


 俺は駆け足で自宅へ戻っていく。


 その途中、ギルドや州庁舎の前の広場に差し掛かったところで、周りから浮いている特徴的な集団が目に入る。


 そして、俺の目はその中によく見知った顔を発見した。


 俺はハイテンションのまま、彼女らの名前を呼んだ。



「レイせんぱーい! フローリーせんぱーい!」


「あ、フォルじゃん!」



 レイ先輩は俺に気づくと、元気よく手を振ってくれた。



「ラドゥルフにいるとは聞いていましたが、まさかこのタイミングで会うとは、何とも奇遇なものですね」



 結局、ラドゥルフの実習施設は訪問しなかったが、フローリー先輩は元気そうだ。


 俺は先輩たちの横に並び、歩調を合わせる。



「先ぱいたちは、どこに行くんですか?」


「今から王都に帰るのです」


「はやりやまいはおさまったんですか?」


「そうみたいだよー! もうすぐ授業も始まるんだって!」


「フォルゼリーナの家にも、授業再開のお知らせの手紙が入っていると思いますよ」


「フォルも早く帰ってきてねー!」


「わかりました」



 思わぬ知らせに驚きつつ、俺は転移施設へと入っていく先輩たちと別れ、急いで自宅へ向かう。



「ただいまー」


「おかえり、フォル! ね、大ニュースだよ!」



 家に帰るなり、ジュリーが慌てたように玄関まで飛び出してきた。



「もしかして、休校がおわったっていう?」


「そう! 知ってたんだ」


「じつはさっき、広場で先ぱいたちとぐうぜん会って、それで知ったんだ」



 リビングに行くと、テーブルの上に一枚の紙が置かれていた。ジュリーがそれを示すので、俺は手にとって読む。


 ざっくり要約すると、流行病が終息しつつあるので、一ヶ月後に授業を再開するから、それまでに寮に戻ってこいという内容だった。



「ついに学校がはじまるね!」


「そうだね」



 なんだかんだ四ヶ月も休校していたのか……。例年ならそろそろ冬休みが始まる頃だが、授業の遅れを取り戻すために、きっと今年の冬休みは短縮されるか無くなるだろうな。


 久しぶりの学校に、ジュリーは嬉しそうだ。

 俺も嬉しい気持ちがある反面、ラドゥルフを去らなければならない寂しい気持ちもあった。王都に戻ってしまったら、またラドゥルフにはなんだかんだ言って帰らなくなる気がしたからな……。



「学校、楽しみだね」


「うん」



 ジュリーが目を輝かせる一方、俺は複雑な気持ちを抱えるのだった。






 ※






「二人とも、気をつけるんだぞ」


「うん」


「おせわになりました」



 休校解除の通知が届いてから半月後、ついに俺たちも王都に戻ることになった。


 というわけで、俺たちはバルトとルーナに付き添ってもらい、転移施設の待合室に来たのだった。



 転移施設は、俺たちがここに来た頃と比べてずいぶん賑やかになっていた。ルーナ曰く、王都での流行り病が終息したことに加え、ラドゥルフでの検疫措置も撤廃したため、転移施設での往来は以前と同程度に復活したのだそうだ。



「学校、二人ともがんばってね」


「「はーい」」


「そうだ、ジュリアナちゃん。一つ頼みごとをしたいのだが」


「何ですか?」



 バルトは懐から一枚の手紙を取り出す。



「これを、君のお父様に届けてくれないか?」


「わかりました」


「ありがとう。よろしくと言っておいてくれ」



 ちょうどその時、受付で俺たちの名前が呼ばれる。



「それじゃあ、行ってくるね」


「ああ」


「いってらっしゃい」



 俺たちは二人に別れを告げると、王都へ転移したのだった。






 ※






 転移後、俺たちはホールで合流する。



「人、いっぱいいる」


「行くときにぜんぜんいなかったのがうそみたいだね」



 ホールが人でごった返しているのを見て、流行り病が終息したという実感がやっと湧いてきた。やっと、日常が戻ってきたのだ。


 俺たちは転移施設を出ると、馬車で王立学園へ向かう。



「そういえば、ジュリーのお父さんは、だいじょうぶだったの?」


「うん。かぞくもしようにんも、なおったって」


「それはよかった」



 今回の流行り病は、そこまで死亡率が高くなかったらしい。一方で、感染力は強く、王都以外にもいろんな都市で流行ったようだ。


 しかし、ラドゥルフでは全く流行らなかった。ルーナの采配が功を奏したな。


 約十分で、馬車は王立学園の正門前に到着した。俺たちはそこで降りると、寮の方へ歩いていく。



「フォル、ありがとう」


「え?」


「わたしをラドゥルフへつれていってくれて。本当にたすかったし、楽しかった」


「ううん、おたがいさまだよ。わたしも、ジュリーといっしょで楽しかった。それじゃあ、また、学校でね」


「うん、ばいばい」



 ジュリーと三階で別れた後、俺はさらに上の階へ向かう。


 五〇九号室の表札を見たとき、心の中にいろいろと込み上げてくるものがあった。それらを顔に出さないようにしつつ、俺はドアを開ける。



「ただい……ってフローリー先ぱい⁉」



 中に入った途端、目に入ったのは廊下にうつ伏せに倒れているフローリー先輩。スヤスヤと寝息を立てている。当然、全裸だった。



「んー……だれですか……」


「フォルです! こんなところでねないでください」



 起き上がったフローリー先輩は、その場にへたりこんでしばらくボケーっとしていたが、だんだん目を見開いていく。そして、どんどん顔を赤らめていった。



「あ……あ……」


「とりあえず自分の部屋に入ってください!」


「え、ええ。そうします……!」



 彼女はそう恥ずかしそうに部屋の中に引っ込んだ。


 次の瞬間、後ろから再びドアが開く音。そして元気のいい声が聞こえる。



「ただいまー! あれ、フォルじゃーん! 帰ってきたんだね!」


「わっ、レイ先ぱい……」



 レイ先輩は俺に抱きついて、髪をワシャワシャしてくる。


 少し鬱陶しく感じるも、『いつも』が帰ってきた感じがして、なんだか俺はホッとする。



「お、お待たせしました」


「あ、フローリー先輩! 起きてたの?」


「え、ええ。つい先ほど」



 またスッポンポンで廊下で寝ぼけていたことは黙っておこう。


 本人もこれ以上話に突っ込まれないようするためか、話題をやや強引に変える。



「そういえば、先ほど本国からいいお菓子が届いたのですが、食べますか?」


「食べる食べるー!」



 フローリー先輩の提案に、レイ先輩は目の色を変えて食いつく。そして、俺をバッと離すと、ウキウキでフローリー先輩についていった。



「先ぱいたち」


「どうしたのですか?」


「どしたの、フォル?」



 ここで、俺は思い出す。まだ、この言葉をきちんと言っていなかったなと。



「……ただいま!」



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