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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第8章 帰郷編
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125 vsアイアンウルフ②



 突然の別のアイアンウルフの群れに、戦場は瞬く間に混乱に陥る。



「まさか、アイアンウルフの群れは一つではなく、複数いたってことですか……⁉」



 おそらく、お姉さんの言う通りだろう。


 事前の作戦会議を聞いて、俺はアイアンウルフの群れは一つだけだと思い込んでいた。いや、実際、支部長もそういう意図で話していたのだろう。


 だが、実際は群れは一つだけではなかった。きっと、麦街道で商人を襲っていたのも、一つの群れではなく複数の別の群れだったのだろう。



 しかし、厄介な可能性が出てきた……。現在確認されている群れは二つだが、三つ、四つ、あるいはそれ以上現れる可能性もある。一つの群れと戦っている間に別の群れによって奇襲をかけられたらたまったもんじゃない! 現に奇襲された結果、戦場はめちゃくちゃになっていた。


 アイアンウルフの別の群れが現れたことで、これまで落ち着いて対処してきたハンターたちは苦戦を強いられている。辺りには血の匂いが満ち、怪我人も続出している。このままでは遅かれ早かれ死人も出るだろう。



 ……だったら、俺も後衛として雨を降らせているのではなく、戦い始めた方がいいのではないか?



「フォルゼリーナ様、戦うんですか⁉」



 シィン、と刀を抜いた俺を見て、隣のお姉さんが驚いたように声をあげる。



「うん」


「大丈夫なんですか⁉」


「だいじょうぶ」



 ここで行かなくていつ行くんだって話だ。俺の力を使って被害が小さくなるのなら、そうしない理由がない。


 俺は自分に身体強化魔法をかけて、前線へ向かおうとした次の瞬間。



「ウルグアアアァァアアア‼」


「キャアアアアァァァ‼」



 俺のそばで悲鳴があがる。振り返ると、後ろからアイアンウルフがこちらに走ってきて、魔法使いのお姉さん方を襲おうとしているところだった。



「なにすんだぁああっっ!」



 俺は思わずそう叫ぶと、勢いよく反転してアイアンウルフにまっすぐ向かい、刀に魔力を込めながら一気に振りぬいた。


 熱を帯びたヒヒイロカネ製の刀身が、アイアンウルフが断末魔をあげるよりも速く、その身体に入っていく。刀は鋭く逆立った毛に一度もつっかえることなく、むしろその毛を片っ端から蒸発させる。


 アイアンウルフは、俺の刀が通ったところがそのまま消失して真っ二つに切断された。切断面からドバドバと血や内臓が吹きだして、辺り一面を生臭さと赤黒い色で塗り替えていく。



「ウルグアアァァァアアッ‼」



 だが、息をつく暇もなく、別のアイアンウルフが唸り声をあげて襲い掛かってきた。自分の反射的な体の動きを、俺は身体強化魔法で最大限に強化して、凄まじい速度で動かす。



「ぬぅうんっっ!」



 俺は魔力を込めると、さっきと同じようにアイアンウルフを両断した。



「ふうっ……」



 俺は一息つく前に、『ソナー』で辺りを確認する。どうやら、後ろに回ってきたアイアンウルフはもうこれで全部だったようだ。だが油断は一切できない。


 前線を振り返ると、ハンターたちはまだまだ苦戦を強いられていた。どうやらまだ態勢が立て直せていないらしく、ずるずると押されている。



 落ち着け、俺。こんな時こそ冷静にならなければならない。焦っていては何もいいことを思いつけない。


 まず、アイアンウルフが毛を逆立ててしまっている以上、雨を降らせるのは無駄だ。むしろ、足元が悪くなって戦いづらくなるデメリットの方が大きくなる。それに、魔力を少しでも温存しておきたい。



 イア、『レイン』はもういいや。ありがとう。



『承知いたしました』



 俺は『ソナー』で前線の向こうを確認するが、これ以上新しいアイアンウルフは現れなさそうだった。とりあえず、今は目の前のアイアンウルフを処理していけば良さそうである。



 問題は、どのように俺が前線に参戦するか、だ。


 魔法で遠距離攻撃するには状況が悪い。乱戦になっているため、アイアンウルフではなく味方のハンターに当たってしまうかもしれない。また、火系統の魔法は、雨で湿っているとはいえ、火災に発展する可能性があるため、なるべく避けたい。



 今最も必要なのは、一旦アイアンウルフの攻撃をどこかに向けさせることだ。その間に態勢を修正して改めて迎撃すれば、こちらが勝てるだろう。


 しかし、そのヘイト役となるタンクはすっかり散らされてしまっていて、全く協調できていない。



 仮に俺がその役割を担うとして、問題は、アイアンウルフの注意を全てこちらに向ける方法だ。一匹一匹を回って攻撃を仕掛けて注意を向けさせるのか? それは現実的ではない。


 一発で全員の敵意を俺に向ける。そんな魔法があれば楽なんだけどな……。



『ありぃますよ?』



 えっ、あるの、シン?



『アイアンウルフゅのヘイトをフォルに集めればいいんでしゅよにぇ? それだったらボクできまゆよ』



 ホント⁉ マジで⁉ 



『今しゅぐやりぃますか?』



 それはちょっと待ってくれ。俺のいる場所によっては別のハンターを巻き込みかねない。さらに、ヘイトを集めた後の逃走先も考えなければならない。


 俺は脳裏に、ギルドで見た麦街道周辺の地図を思い出す。俺たちは事前に設定した目標ポイントの近くにいるはずだ。それならば……。


 俺は急上昇すると、『ワールウィンド』で上空の霧を吹き飛ばしていく。


 絶対にこの近くにあるはずだ。そう思って四方八方の霧を追い払っていくと、俺の目当てのものが見つかった。



「よし……!」



 俺はその方角を覚えると、再び降下する。そして、素早く前線を迂回してアイアンウルフらの後ろ側へ回った。



 シン! 頼んだ!



『ではいきましゅよ~』



 すると、ハンターらに襲い掛かっていたアイアンウルフどもが、一斉に攻撃をやめて俺の方にくるりと顔を向けた。本当にぴったりで、タイミングが全く同じだった。

 奴らは全員、何かにとりつかれたようなうつろな目をしているが、それでいて何かに強烈に怯えているような不思議な表情をしていた。


 思わずゾッとして足が止まりかける。この異常事態に、ハンターたちも一瞬唖然としていた。



 次の瞬間、アイアンウルフらが、全員こちらに向かって襲い掛かってきた。


 シンの魔法はうまく働いているようで、アイアンウルフらのヘイトが向いているのが、見ていなくても俺の背中に充分に感じられる。



「わたしにヘイトをあつめたから、そのすきにたいせいをととのえて!」



 俺はそう言い放つと、足が止まりそうになるのをこらえて、むしろ身体強化魔法を強めて加速していく。


 アイアンウルフとの死の鬼ごっこが始まった。


 後ろから唸り声とたくさんの足音。振り返る暇もないが、もう数メートル後ろまで迫ってきているのがわかる。心臓がキュウと縮むような感覚を押さえつけ、俺は走り続ける。


 そして、緊張の数十秒ののち、突然俺の目の前が開けた。


 木々が無く、ぽっかりと空いた広いスペース。その地面は、周りより数メートルほど低くなっており、水がたっぷりと溜まっていた。


 ここは、いわゆる三日月湖というやつだ。川が蛇行したのち、洪水かなにかで河道が変わり、取り残された川の一部である。元のラドゥルフ川が大河だったからか、深さはそこそこあるみたいだ。



 俺が向かっていたのは、まさにこの場所だった。アイアンウルフが苦手な水がたっぷりと溜まっている上、木がなくて開けている。戦うには絶好の場所だ。


 俺は立ち止まることなく、水辺まで到達するとそのまま勢いよくジャンプし、『フロート』で急上昇する。そして、空中でくるっと振り返った。


 水が嫌いなアイアンウルフらは、水の上にいる俺のところまでは絶対に来ないはず。その読みは見事に当たり、アイアンウルフは水辺にズラッと並んで俺に向かって威嚇するものの、決して湖の中には入ろうとしなかった。



 ひとまずヘイト役として引きつける役割は完了だ。こうやって時間稼ぎをしている間に態勢を立て直してくれれば良いのだが……。


 いや、待てよ。この状況だったら、ハンターたちのところに戻るまでもなく、俺一人で斃せるかもしれないな。


 目の前にはアイアンウルフらの苦手な水がたっぷりとある。この状況を活用しない手はない。



 ならばどうするか。


 アイアンウルフたちを、強制的に水の中に引きずり込んでしまえばいいのだ。



 イア、頼む!



『思い切りいきましょう!』



 次の瞬間、俺の魔力がごっそり消費される代わりに、一列に並んだアイアンウルフの後ろに大質量の水が、壁を形成するかの如く出現した!


 それはドッシャア! と凄まじい音を立てて地面にぶつかり、重力に引っ張られてポテンシャルエネルギーの低い三日月湖の方へドドドドと押し流れていく。



 当然、アイアンウルフは逃げる間もなく、三日月湖の中へと押し流されてしまうのだった。



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