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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第8章 帰郷編
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123 ギルドで作戦会議



 数日後、俺はバルトに連れられてハンターギルドへやってきていた。


 この場には三十人くらいが集まっている。そのほとんどが、今回のクエストに参加するのだろう。


 バルトは、後ろの方の長椅子に腰掛ける。俺もその隣に座るとバルトに尋ねた。



「今回は、前に出てせつめいしないの?」


「ああ。今回は公共クエストではないからな」


「ちがうの?」


「今回のクエストの依頼主は商人ギルドだ。我々行政はそれに支援金を出して協力することになっている。だから、行政が依頼主の公共クエストとは、厳密には違うというわけだ」


「へ~」


「他にも、農業ギルドや手工業ギルドも支援金を出している。今回のクエストには、ラドゥルフ一丸で対応する感じだな」



 やはり、王都へ通じる重要な交通路が危険だと、いろんな人たちが困るというわけか。



「ちなみに、あそこにいるのが農業ギルドのラドゥルフ支部長、その向こうにいるのが商人ギルドのラドゥルフ支部長だ」



 確かに、武器や魔道具を装備したハンターらに混じって、身なりのリッチなおじさん方がところどころに見えた。



「ぐんたいとかけいさつにはたよらないの?」


「ああ。戦う相手が違うからな。軍は基本的に戦争や国家存亡の危機のときに出動する。警察は治安維持が主な目的だから、戦う相手は犯罪者だ。一方ハンターは魔物を相手にするエキスパートだ。だから、こういうときはハンターに頼むのが一番いい」


「なるほど」



 ちゃんと棲み分けがされているんだな。



 すると、受付の奥から同じく身なりの整った人が一人出てきた。そして、パンパンと手を叩いて皆の注目を集める。



「皆さん、本日はお集りいただきありがとうございます。どうぞ、お好きな席についてください! これから、『アイアンウルフ討伐クエスト』についての説明を始めます!」



 ざわざわしながら、立っていたハンターたちは近くの席に腰掛けた。


 前に立った男性は、ハンターギルドのラドゥルフ支部長だった。ギルド長が出てくるなんて俺の知る限りでは初めてのことだ。それだけ重要なクエストだということなのだろう。



「それではまず、今回の討伐対象である『アイアンウルフ』について説明します」



 すると、職員のお姉さんが、横からガラガラとキャスター付きの黒板を引っ張ってきた。そして、巨大な狼の絵が描かれた紙をマグネットで張り付ける。



「アイアンウルフとは、その名の通り、鉄のような硬い毛皮を持つ、体長一メートルから二メートル半程の灰色の狼型の魔物です。

 基本的に数匹から十数匹の群れで生活し、子育て期以外は放浪生活を送っています。

 総じて攻撃的な性格であり、その体長と同等もしくはそれ以上の動物に対しても、群れで攻撃を行います。

 攻撃手段は、噛みつきや、引っ掻きに加え、鉄のような毛を尖らせて体当たりをする、という大変危険なものもあります」



 毛を逆立てて、針のようにしてぶつかってきたら、人体なんてブスブス刺されて終わりだろうな……。



「大森林では、以前から北部にその存在は確認されていたものの、ラドゥルフ周辺の中部や南部では確認されていませんでした。しかし、ここ一月で十数匹の群れの目撃例が十数件上がっており、また麦街道上で旅人や商人が襲われる事件が三件発生しました。死傷者も十数名発生しており、麦街道の安全が脅かされている状況です。

 現在は、安全のため大森林に抜ける麦街道を通行止めにし、大森林を囲む城壁の監視員を大幅に増員して対応しています」



 危険な状態どころか、実際に街道が通行止めになっているのか。

 これはかなり経済的には痛いぞ……。大きな荷物は転移魔法陣じゃ運べないから、陸路で運ぶ必要がある。しかし、大森林を通り抜ける道は、麦街道を除いて他に無い。もし王都方面に向かいたいのなら、テクラスの方まで北へ迂回しなければならない。



「もし、このアイアンウルフの群れの討伐に成功した場合、参加された皆さまに基本報酬として一律二千セルをお支払いします!」


「「「「「うおおおおおおぉぉぉおおお‼」」」」」



 その瞬間、ギルドに歓声が轟いた。


 もし成功すれば、参加するだけで一律二千セル⁉ 確か、クォーツアントのときは基本報酬は八百セルだったから、その二倍以上だ。



「さらに、アイアンウルフを斃した場合、全員に一体につき五百セルを追加でお支払いします!」



「「「「「うおおおおおおぉぉぉおおお‼」」」」」



 これは破格の条件だ。もし成功すれば、二千セルが保証される上に、斃せば斃すほど皆が稼げるわけだ。


 でも、裏を返せばそれだけの報酬を支払ってでも脅威を取り除いてほしい、という切実な願いの現れでもある。さらに、それに見合うだけの難易度でもある、ということも暗に示しているのではないか。



 すると、俺と同じようなことを考えていた人がいたようで、手を挙げて質問をする。



「質問です! これって、もし討伐に失敗したら、報酬は貰えないってことですよね?」


「……ええ、そうなります」


「自分たちで、本当に斃せるんでしょうか?」


「安心してください。以前別の場所で成功した、アイアンウルフ討伐クエストの資料を取り寄せてあります。それをもとに、作戦を考えていきましょう」



 さらに次の瞬間、支部長はまっすぐ俺の方を見た。



「そして、我々には強力な味方がいます! 数々のゴブリンを爆殺し、つい昨年、ドルディアで竜をも討ち取ったという『爆殺幼女』ならぬ『竜殺し』、フォルゼリーナ・エル・フローズウェイ伯爵令嬢に、このクエストに参加していただけることになりましたから!」



 え゛、と思わず声が出るのと同時に、近くの人が俺の方を向いた。それが波及して、ギルドの中の全員が俺に注目する。


 予期しない視線の集中に居た堪れなくなった俺は、何かを言わなきゃと咄嗟に思う。



「あ、あはは……ども……」



 しかし、特に何も言えず、小さくなるだけだった。


 そんな俺を差し置いて、ハンターたちはガヤガヤと騒ぎ始める。



「竜を討伐したって……あの竜を?」


「オレ、王都で見たけどよ、めっっちゃデカかったぜ」


「確か、噂によるとその場に居合わせた人が斃したっていう話だったけど……」


「それが、フォルゼリーナ様だったってことかいな⁉︎」


「……なんか、強いとかいう次元超えてない?」


「とかく、そんな彼女が我々についているのなら安心というものですぞ!」


「よっ、フォルゼリーナ様! 頼りにしてまっせー!」


「フォルゼリーナ様!」


「フォルゼリーナさまぁ〜!」


「「「「「フォルゼリーナ様! フォルゼリーナ様!」」」」」



 湧き上がった謎のコールに、俺は顔から火が出そうだった。


 そ、そんなに期待されても困るのだが……。恥ずかしいやら照れるやらで、今すぐにこの場から消えてしまいたい。


 実際はほんのわずかな時間だっただろうが、俺にはかなりの長さに感じられたコールの後、ハンターたちが静かになったタイミングで支部長が発言する。



「それでは、早速作戦を考えていきましょう! とはいえ、過去の事例を踏まえて私がすでに考えた案があるので、まずはそれを聞いていただきたいと思います」



 職員のお姉さんがアイアンウルフの絵を取り去り、代わりにラドゥルフ周辺の大森林の地図を貼り付ける。



「まず、アイアンウルフの弱点について説明します。

 ずばり、それは水です」



 水? ありふれたものが弱点なんだな。



「アイアンウルフ最大の特徴は、逆立つと鉄のように硬い体毛です。これで体当たりでもされたら、適切な防具をつけていなければ酷い怪我を負うことになるでしょう。

 しかし、毛を逆立たせる前に水を浴びせることができれば、毛を硬くできないことが知られています。つまり、もし雨が降っていれば、奴らの攻撃手段はすでに一つ封じられることになるのです」



 すると、一人のハンターがそれに疑問を呈する。



「じゃあ、雨の日に実行するってことか?」


「自然の力に頼らなくても、我々には魔法という道具があります。『レイン』を使えば、雨が降っていなくても同様の状態を引き起こすことができます。

 それに、水の中に引き摺り込んでしまうというのもアリでしょう。できればラドゥルフ川の近辺で戦うのが良いかもしれません」


「噛みつきと引っ掻きはどうするんですかー?」



 別のハンターが疑問を呈すると、支部長はそれにも回答する。



「それは、ある程度の強度のある装備で防げることが確認されています。具体的には鋼鉄以上の硬さがあれば、まず問題はないでしょう」



 なるほど。しっかりした装備をして、戦う場所を選べばあまり問題はなさそうだ。



「それでは、具体的な戦術について説明していきます。まずは──」



 それから、支部長が具体的な作戦を説明する。それが終わると、ハンターたちはさまざまな意見を出し合い、たちまちあーだこーだと議論が始まった。


 ふざけたり茶化したりする人は誰もおらず、その場の全員が真剣に話し合う。



「他に、何か質問などはありますか?」



 そして、小一時間後、作戦をまとめた支部長が皆に問いかける。その場の誰からも異論は出ない。


 そのことを確認した支部長は、パンと手を叩いた。



「それでは、この作戦でいきましょう。決行は三日後です。このクエストを、必ず成功させましょう!」


「「「「「おー!」」」」」



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