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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第8章 帰郷編
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122 なんでここに先輩が⁉



「レイ先ぱい……⁉」



 なんと、俺がぶつかった相手は、レイ先輩だった。

 まさかこんなところで出会うだなんて思っていなかったから、一瞬誰だかわからなかった。


 唖然としている俺に対して、レイ先輩は俺の手を取ると興奮したように捲し立てる。



「まさかこんなとこで会うなんて! ビックリだよー! フォルがラドゥルフに帰るって言ってたから、もしかしたら会うかもしれないなーって思っていたけどさ!」


「わたしもビックリです……」



 勢いに押されてそれだけしか答えられない俺に、先程から蚊帳の外になりつつあるジュリーが尋ねてきた。



「フォル、知り合い?」


「あ、ああ、うん。わたしのルームメイトで、六年生のレイ先ぱいだよ」


「初めまして、レイ・ヘーゼルだよ! もしかして、フォルちゃんの友達のジュリーちゃんかな?」


「は、はい……! まほう科三年生の、ジュリアナ・ドン・ガレリアスです」


「おー! フォルから話は聞いてるよ!」



 ジュリーは少し恥ずかしそうにしていた。



「もしかして、ジュリーちゃんもラドゥルフの出身なの?」


「いえ、わたしはおうとのしゅっしんなんですけど……かぞくがびょうきになっちゃって、帰れなくなっちゃったから、フォルについてきたんです」


「そうだったんだね!」


「ところで、レイ先ぱいこそどうしてここに? じっしゅうしせつにひなんしたんじゃないんですか?」


「うん、したよ。だけど実はね、その実習施設っていうのが、ラドゥルフの郊外にあったんだよ!」


「じゃあ、フローリー先ぱいもここに来ているんですか?」


「そーだよ!」



 ラドゥルフに学園の施設があったのか……。知らなかった。



「ちなみに、じっしゅうしせつはここからどのくらいはなれているんですか?」


「うーん……五キロくらいかな? そこまで離れてないよ」



 いや、結構距離あるぞ……。『マニューバ』で飛んでいけば一分もせずに着けるけどさ。



 ここでふと、脳裏に疑問が浮かぶ。



「レイ先ぱいは、なんでしせつの外にいるんですか? ほかの人たちはいないんですか?」


「今は休憩時間なんだー。休憩時間の間は外出が許されているから、一人で軽く運動がてらここまでジョギングしていたの!」



 五キロを、『軽く運動がてら』走ってきたのか……。



「そーだ、今度機会があったら、フローリー先輩も連れてくるよ!」


「あ、ありがとうございます」



 俺が会いに行った方が絶対早いと思うけどね!



「そうそう、フォル、今何時?」


「えっと……十二時五分くらいだと思います」


「あ、もうそろそろ帰らないと! あと二十分で休憩時間終わっちゃう! じゃあねー!」



 そう言い残すと、レイ先輩は風のように走り去っていった。


 休憩時間の終わりに間に合うのだろうか……? 五キロを二十分って、つまり平均時速十五キロで走り続けなきゃいけないってことだよな……。


 でもレイ先輩なら普通に間に合いそうだな。彼女の異常な身体能力を常日頃から見ていたらそう思えてくる。



「……わたしたちも帰ろっか」


「うん」



 俺たちは家に向かうため、馬車乗り場の方へ歩き出したのだった。






 ※






 俺たちがラドゥルフに来てから約一ヶ月が経過した。


 ラドゥルフでの日々は、恐ろしく暇なものだった。


 学校は休校になっているため、宿題や課題の類いは一切出されていない。そのため、そもそもやることが無かった。


 かといって、家族にいつでも構ってもらえるわけでもない。


 ルーナは州知事に就任したせいか、仕事で忙しいようだった。かといって、バルトも暇ではなく、ルーナの補佐をするために、頻繁に出かけていた。家にいるときも、家事や残業で忙しそうにしている。


 構ってもらえるのは、休日に、バルトが剣の相手をしてくれたり、ルーナが魔法の練習に連れていってくれたりするときくらいだった。


 ちなみに、ジュリーは毎日趣味の手芸に取り組んでいる。一人で何時間も黙々とこなしているので、声をかけづらい。



 なんだか、やることが無いと張りがないなぁ……。


 そう思いながらも、ここ最近、俺は特に何もせずにソファーの上でひたすらゴロゴロと転がっていた。



 今日は休日なのだが、ルーナは机に向かって仕事をしているし、バルトは州庁舎へ行っていた。



「ただいま」


「おかえりー」


「お帰りなさい」



 昼下がりに、バルトが帰ってきた。

 そして、俺を見るなり声をかけてくる。



「フォル、話があるんだが、いいか?」


「んー、なにー?」


「最近、暇か?」


「そりゃあもう、やることもないし、やりたいこともあまりできない、ずっとひまだよ~」


「それは悪いな……でも、手は空いているんだな?」


「……何かあるの?」


「そうだ……。もしよければだが、クエストを受けてくれないか?」


「クエスト?」



 俺が聞き返すと同時に、ルーナがバルトの方をバッと振り向いた。



「お父さん! それはフォルが行かないとダメなのかしら?」


「……必ずしもいなきゃ困るというわけではないが、借りれるならぜひ力を借りたい、といったところだ」


「フォルが行く必要がないのなら、私は反対よ」



 ルーナはいつも、俺のクエストへの参加を反対してくる。やっぱり、この年で参加するのはまだ危ないと考えているのだろうか?


 でも、これでも俺は単独で竜を討伐しているんだよ? しかも、今はその時よりもクリークで訓練を積んで、さらに強くなっている。よっぽどヤバい魔物じゃなければ、大丈夫だと思うけどな……。



「しかし、フォルは竜を討伐できるほどの実力者だ。フォルがいるだけで、どれだけ楽になることか……」


「そんなことを言って、万が一のことが起こっては遅いのよ」



 ルーナはクエストの内容を知っているようだ。俺だけ何のことだかわかっていないので、疎外感がある。



「……ねえ、クエストってどんなやつ?」


「内容を話すのはいいだろう? その上で、フォルに自分で決めさせればいいんじゃないか?」


「……あくまでも私は反対よ」



 ルーナはため息をついて、二階へと行ってしまった。



「……で、クエストって?」



 俺は起き上がると、ソファーに座って話を聞く姿勢になる。



「ああ。フォルは『アイアンウルフ』って知ってるか?」


「『アイアンウルフ』?」



 聞いたことのない魔物だ。そもそも、俺はハンターが本職ではないので、魔物にはあまり詳しくない。

 名前を聞く限りでは、狼みたいな魔物なのだろうか?



「簡単に説明すると、毛皮が鉄のように硬い、狼のような魔物なんだ。実は最近、麦街道の大森林周辺で、商人や旅人がその群れに襲われる被害が多発していてな……。近々、討伐隊が組まれる予定なんだ」


「それにさんかしてほしいってこと?」


「そうだ。ぜひフォルの力を借りたい」



 俺は少し考える。


 麦街道はラドゥルフと王都を結ぶ重要な交通路だ。ここが危険地帯になって往来が減ってしまえば、莫大な経済的損失が生まれることが容易に想像できる。


 それに、ルーナは反対していたが、俺は魔物の討伐クエストへの参加には全く抵抗はない。むしろ、退屈で暇を持て余していた俺の鬱憤をぶつけるのにちょうどよかった。



「さんか……する」


「そうか! それはよかった、ありがとうフォル」


「ううん……でもママが……」



 一つ気がかりなのはルーナの反応だ。あくまで反対の立場なのに、それを無視していくような形になってしまうのは、少し心苦しい。



「フォルが行くというのなら止めないだろう。心配する気持ちもわかるが、ルーナは少し過剰なんだ。まあ、自らの経験から言っているのかもしれないが……」


「え、ママもハンターだったの?」


「ああ。フォルが生まれる前、数年間ハンターをやっていたぞ」



 意外だ……。てっきり深窓のお嬢様タイプだと思っていたのだが、実はアクティブタイプだったのか。


 でも確かに、基本四系統に適性があるほど魔法の才能には恵まれているし、シャルの結婚式で見せた、フリードリヒの攻撃への反応速度もとても速かった。ハンターをやっていたと言われても納得できる。


 きっと、ハンター時代にいろんな修羅場を経験したのだろう。そうでなければ、あんなに『万が一』を心配するような言葉は出ないだろう。



「ともかく、数日後にはギルドで今回の討伐についての説明会があるから、それに出てくれ。よろしくな」


「うん」



 というわけで、俺は数年ぶりに、クエストに参加することになったのだった。



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