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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第8章 帰郷編
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117 ユージーンvsフォル



「それでは、模擬戦始め!」



 オーウェンさんの鋭い声が練習場に響き渡ったその瞬間、俺とユージーンさんは一斉に互いに向かって走り出す。


 だんだん近づいてくるユージーンさんは、木剣を隙の無いように構えている。



 模擬戦とはいえ、気を引き締めなければ。全力で戦う!



 俺は身体強化魔法を発動すると同時に、自分に暗示をかけるように技名を脳内で再生する。



 七之宮流奥伝、地の型。



 俺は木刀の構えを僅かに変える。


 ──交錯。



「おわっ!」



 交わった後、体勢を崩したのはユージーンさんの方だった。


 今の一瞬で、俺は向かって迫る木剣に木刀を触れさせた。

 ただしそれほど力は入れていない。ただ、()()()()()()位置に置かれた木刀は、木剣の勢いを落とさずに軌道だけをずらす。


 全力で振るった木剣が、検討違いの方向に逸らされたらどうなるか?


 その答えは、今、ユージーンさん自身が体験しているように、木剣に振り回され、体勢が泳ぐことになる。



「ッッ!」



 体勢を崩された直後、ユージーンさんの勘が危険だと叫んだのだろうか。


 ユージーンさんは恐るべき反応速度で、体勢が崩れるのを厭わず無理やり身体をひねり、木剣を差し込むようにして振るう。


 ガンッ!


 次の瞬間、ギリギリで俺の振るう木刀を防いだ木剣を見ながら、ユージーンさんは俺の連撃に戦慄したようだ。さっきまで平然としていた表情はどこへやら、険しい顔つきになっている。


 この時、俺の木刀はユージーンさんの木剣に触れた時から、ものすごい勢いで加速していた。


 俺は『七之宮流奥伝・地の型』を使うことにより、木剣を逸らすだけではなく、その勢いを利用して自らの木刀を加速させていたのだ。


 俺はここぞとばかりに、ユージーンさんにさらなる追撃を仕掛ける。



 七之宮流刀術奥伝、天の型。



 その瞬間、体の中のスイッチが切り替わる。


 天の型は連撃を主体とした型だ。今まではあくまでも防御の延長線上の攻撃──すなわちカウンターだったが、ここからは本格的な攻勢へ移る!



「はあっ!」



 ガンガンガン! と木がぶつかる音が響く。



「く、くっ……」



 円を描くような木刀の連撃を、一度も体に受けることなく耐えているユージーンさん。


 その目には、こんな子供に負けるはずがない、絶対に勝つぞ、という自信が、意地が、プライドが渦巻いているように見えた。


 そして、どんな僅かな隙も見逃さないように、全神経をもって集中しているようだ。


 俺はこの状態を利用して、一気に勝負をつけることにした。



 次の瞬間、今まで手を抜いていなかった連撃の一つだけ、木刀の振りを遅らせた。

 あまりに僅かすぎる隙、なんの前触れもなくできた、罠を疑うような隙。


 しかし、ユージーンさんは、反応した。反応してしまった。


 剣術の動きを頭に刷り込んだユージーンさんの体は反射的に動き出す。

 そして一瞬遅れて彼ははっとした顔をした。


 これは罠だと悟ったのだろうか。しかし、動き出した身体はもう止められない。


 すぐに、ユージーンさんは歯を食いしばり、真剣な顔をする。

 きっと決断したのだ。この一撃に全てを賭けると。



「はああぁぁああっ‼」



 ユージーンさんの力強い一撃が、ゴゥと風を切り裂き縦一文字に俺に迫る。

 俺は、身体強化魔法を腕に重点的にかけると、『地の型』でユージーンさんの剣筋に干渉しようとする。


 ガンッ‼



「ッッ!」



 身体強化魔法で強化したにもかかわらず、ジーンと衝撃が腕の骨を鳴らす。思わず木刀を放り投げたくなるのを歯をくいしばって耐え、俺はなんとかユージーンさんの木剣を地面に逸らし、その勢いを木刀に乗せることに成功した。


 本当にギリギリだった。あと少しでも込める魔力が小さかったら、吹っ飛ばされていた。


 紛れもない強者。この力強さは、今まで戦ってきた相手の中で一番のものだった。



 あぁ、これだから剣術は楽しい。



 最後の一撃はユージーンさんの素晴らしい剣技に敬意を払ってきちんと決めよう。


 そして、体勢を大きく崩したユージーンさんが木剣を戻すよりも速く、俺は彼の後ろに周りこみながら木刀を振り上げる。



「はあっ!」



 俺の掛け声と共に迫る木刀。それは、ユージーンさんの首筋のところでピタッと止まった。


 寸止め成功。それを察したのか、ユージーンさんはもはや反撃してこない。


 それから数秒間、練習場には、俺とユージーンさんの荒い息遣いだけが響いていた。誰もがこの結果に、呆然としていた。


 そして、オーウェンさんが一番乗りにはっと我にかえって叫ぶ。



「試合終了! 勝者、フォルゼリーナちゃん!」



 それによって観戦していた人々が硬直から解放される。


 

「「「「「ウオオォォォォオオオオ!」」」」」



 続いて、大歓声があがり、練習場は一気に騒がしくなった。


 はぁ……。疲れた。こんなにも剣術で全力を出したのはいつぶりだろう。少なくとも、年単位であることは確かだ。



「フォル嬢、勝利、おめでとう」


「フォル、すごい!」


「……ありがとう」



 ハルクさんとジュリーの方へ歩くと、二人は口々にそう声をかけてきた。



 模擬戦終了から少し時間が経ち、気持ちが落ち着いてきた。俺はさっきの試合を冷静に振り返る。


 今回はかなり苦しい戦いだった。


 もし力の入れ加減だったり、立ち位置だったりが少しでも違っていれば、また別の展開になって、別の結果になっていただろう。


 正直、ユージーンさんが勝利しても全然おかしくはなかった。やはり、オーウェンさんの言う通り、王立陸軍学校テクラス校首席は伊達ではない。


 振り返ると、ようやくユージーンさんが立ち上がったところだった。俺は木刀をしまうと、彼のもとへ駆け寄り、声をかけた。



「ユージーンさん、ありがとうございました」


「……正直、身体強化魔法アリとはいえ、ここまで強いとは思わなかった」


「ど、どうも」


「それほど君の身体能力は卓越していて、さらに技も実用的だった。確か、自己流と言っていたかな」


「ええ、まあ、はい……」



 本当は違うけどね! ごめんよ、七之宮!



「これからも、頑張ってくれたまえ。さすれば、必ず剣士として大成するだろう。今日は良い模擬戦だった」


「ありがとうございます」



 すると、今度はオーウェンさんが声をかけてくる。

 かなり真剣な表情をしていた。



「フォルゼリーナちゃん、まずは勝利おめでとう。まさかユージーン曹長を負かすなんて、想像以上だったよ」


「ありがとうございます」


「今はどこの学校で学んでいるんだい?」


「えっと、王立学園のまほうかです」


「そうだったのか……いや、てっきり軍学校に通っているのかと思ったよ。もしそうだったら、ぜひ軍に入ってほしいと思ったんだけどな」


「あー……ぐんではないですけど、しょうらいなりたいものは、ぐんに近いかもしれません」


「何になりたいんだい?」


「『宮廷魔導師団』です」



 俺がそう言うと、オーウェンさんを含め、周りの人がざわつく。と、そこにハルクさんがさらに燃料を投下してきた。



「実はフォル嬢は、昨年夏にドルディアに出現した竜を斃した張本人なんです」


「それは……本当ですか⁉」


「ええ……にわかには信じられない話ですが、事実なのです」



 当然、兵士たちのざわめきは大きくなる。俺は全身に視線を浴びて小さくなっていった。



「これは、将来が楽しみですな。フォルゼリーナちゃん、ぜひ宮廷魔導師団に入ってください。応援しているよ」


「はい!」



 こうして、練習場で突発的に始まった模擬戦は終わり、俺たちはオーウェンさんに基地の案内を再開してもらったのだった。



 2024/09/13 更新

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