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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第7章 会員戦編
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102 フォルvsリンネ



 翌週の週末、午前九時半頃。


 試合開始時刻よりもだいぶ早めに、俺は虹の濫觴の建物の前に着いた。

 理由は単純、こんな大舞台で遅刻したくなかったからだ。



 でも、もしかしたら早すぎて開いていないかもなぁ。いつも休日は午前十時からしか開かないし……。


 そんなことを考えていると、見覚えのある女子生徒が入り口の前に立っていた。



「やっほ〜、フォルゼリーナちゃん……だよね?」


「リンネ先ぱい?」


「うん、そうだよ〜」



 リンネ先輩は俺に気づくと、建物に寄りかかっていた体を起こして、微笑みながら手を振ってきた。

 前回見た時と全く同じ格好をしている。個人的には、見た目でカンネ先輩と混同せずに済むので非常にありがたい。


 それにしても、今気づいたけど、この人おっぱいでけぇな……。



「フォルちゃん、やる気満々だね〜」


「あ、はい……おくれたら、先ぱいにももうしわけないので……」


「あら〜、いい子だね〜!」



 すると、先輩は俺を抱き寄せてよしよししてきた。めっちゃバブみを感じた。

 うへへ……いい匂いする……。


 いかんいかん、こんなことして恥ずかしくないのか、俺!


 というかこの人、三十分後には戦っている相手だぞ!


 俺は撫でられるのもそこそこに、顔を上げて先輩に尋ねる。



「たてものは、まだあいてないんですか?」


「うん。ジェラルド先生はまだ来ていないみたい」



 すると、ちょうどそのタイミングで、鍵をジャラジャラと鳴らしながら先生がやってきた。



「おう、お前らもう来てたのか。殊勝な心がけだ」


「「おはようございます、先生」」


「おはよう。待ってろ、今開ける」



 先生はドアを開錠すると、早速中に入っていく。俺たちもその後に続いた。


 そして、練習場に入ったところで先生は俺たちに尋ねる。



「まだ開始時刻は来ていないが、試合に参加するメンバーは揃っているし、観客もいない。もう始めるか?」


「わたしは構いませんけど……フォルちゃんはどう?」



 俺は少し迷った後、コクリと頷いた。



「よし、決まりだな。んじゃぁ、早速準備してくれ」



 俺たちは数メートルの距離を挟んで、練習場の中央で相対する。



「フォルちゃん、よろしくね~」


「こちらこそ、よろしくおねがいします」



 はたして先輩はどのように戦うのだろうか。いずれにせよ、俺は勝つために全力を尽くす!


 しばしの静寂の後、先生の声が響きわたった。



「それでは、第一回戦第一試合、リンネ・イール・ベルカナン対フォルゼリーナ・エル・フローズウェイを開始する!」



 ゴーン! と鐘の重低音が響き、ついに会員戦の初戦が幕を開けたのだった。






 ※






 最初に仕掛けたのは俺だった。


 身体強化魔法と同時に魔力視を発動すると、詠唱する。



「『ファイヤーボンバー』!」



 しかも、ただの『ファイヤーボンバー』ではない。二重発動(ダブルキャスト)である。


 こうして生まれた二つの火球は、俺の元から弧を描き左右から挟み込むようにリンネ先輩を襲った。


 ドドーン! と砂煙が上がる。


 しかし、俺はこの攻撃が当たっていないとすぐに確信した。



「あ、危なかった~」



 実際に、先輩は火球を間一髪のところで避けていた。身体強化魔法の魔力が彼女の全身を包んでいるのが見える。



 一度でダメなら何度でもやるまでだ!


 ルビ、よろしく!



『おっけー!』



 俺はルビの力を借りて、素早く移動しながら『ファイヤーボンバー』を乱れ打ちしていく。



「ひぃ~! フォルちゃん、容赦、ないね~!」



 先輩は危なっかしげにそれらを避けていく。俺はその様子を見て、自分の作戦が上手くいっていることを感じた。



「すばしっこいですね、先ぱい……!」



 だけど、次の攻撃は避けようがないだろう。


 俺は、ただ何も考えずに『ファイヤーボンバー』を乱打していたわけではない。それを避けた結果、特定の位置に来るように計算して発動していたのだ。


 そして現在、先輩には前後左右、そして上の全方向から『ファイヤーボンバー』が迫ってきていた。


 これなら避けられまい! 当たったら、相当のダメージを食らうだろう。



「きゃ~!」



 そして、着弾。一際大きな衝撃音が響き、その後に静寂が訪れる。



 ……勝負あったか?



 しかし次の瞬間、砂煙の中に人影が立っているのを、俺は魔力視で捉えていた。



「いたた……今のはさすがにきも……痛かったよ~」



 平然と現れる先輩。服は若干焦げているが、怪我をしていたりダメージを受けていたりする様子はない。


 無傷……だと? さすがに今の攻撃は身体強化魔法でもそこまでとはいかないはずだ。


 体がとんでもなく丈夫なのか、あるいはとんでもない『ヒール』の使い手か……。


 俺はそのどちらかを確かめるべく、更なる攻撃を加える。



「『ワールウィンド』!」



 俺は風系統の中級魔法『ワールウィンド』を発動。多めに魔力を注ぎ込んだそれは、エルの調整もあって暴風となる。

 先輩は風に抗って立っているのが精一杯といった様子だ。



「『ロックパイル』!」



 動けないターゲットを狙って、次に発動したのは地系統中級魔法『ロックパイル』。地面を変形させて細長い棒状の岩を勢いよく出し、相手を突く魔法だ。


 当然、先輩にクリーンヒット。岩の杭により後ろへ吹っ飛ばされる。


 その途中で俺は『ワールウィンド』と『ロックパイル』を解除し、魔力視に集中する。



「んおぁっ!」



 先輩はドン! と勢いよく背中から壁に衝突する。その一瞬だけ、彼女の体が魔法に覆われ、紫色に微かに光ったのを、俺は見逃さなかった。


 そして、何事も無かったかのように立ち上がる先輩。



「うへ、い、今のは良かったね~。突くのと壁にぶつけるので、二重のダメージを狙ったのかな?」


「先ぱい」


「ん?」


「ダメージをうけるたびに、『ヒール』でかいふくしていますよね?」


「あら、バレちゃった」



 結論は後者だった。つまり、先輩は俺からのダメージを、即『ヒール』することで回復していたのだ。



 しかし、それは簡単なことではない。そもそも、『ヒール』は怪我を治す魔法ではなく、あくまで『体の自然回復力を活性化させる』魔法だ。その結果、怪我や体調不良が治るだけである。

 そのため、どんな怪我をしても、ただ『ヒール』さえすれば回復するわけではない。


 例えば、骨折や脱臼などで、骨が本来の位置からズレた状態で『ヒール』を行っても、骨がズレたまま元の状態に戻るので、回復したとはいえない。


 また、体の部分部分に『ヒール』をするにしても、体のどこに何があるのか、どこが傷ついているのか、正確に把握しなければならない。


 つまり、先輩はそもそも『ヒール』を使えるような怪我におさえていて、さらに、怪我をしても即回復できるほど人体に関する知識や感覚を持っているのだ。



 ただし、この戦い方には明確な弱点がある。


 つまり、『ヒール』が使えなくなるほど巨大なダメージには対処できない、という点だ。


 例えば気絶。意識を失ってしまえば、『ヒール』を行う主体が無くなってしまうので、回復はできない。


 しかし、それはかなり難しい。

 ぶっちゃけ、俺は魔法の調整がそこまで得意なわけではない。特に、大きな事象を起こす場合はなおさら加減が下手だ。


 つまり、勢い余って相手を殺しちゃう可能性がある。それはさすがにダメだ。


 『パラライズ』とか使えればよかったのになぁ……。残念ながら、俺は未習得だった。



「ほらほら~、もっとダメージを与えてみなよ~」



 先輩はめっちゃ煽ってくる。正直ちょっと腹が立ったが、俺はなんだかその様子に違和感を覚えた。

 先輩の表情は、戦いを楽しんでいるというよりかは、もっと別の生々しい欲望のように見える。


 次の瞬間、俺の脳裏にこれまでの先輩の言葉が蘇り、一つの仮説とリンクした。



 いや……。まさかな……。



「先ぱい」


「どうしたの~、フォルちゃん?」


「つかぬことをおききしますが」


「なになに~?」


「もしかして、マゾですか?」



 いや、自分でもおかしなことを言っているのはわかっている。


 だけどさ!


 今の先輩、戦いを楽しむより、もっと自分にダメージを与えてよ! っていう顔をしているんだもん!


 そう考えると、今までの言葉も、自分にもっとダメージを与えて気持ちよくしてほしい! とも受け取れる。


 どうか俺の思い違いであってほしい……。



「……バレちゃった?」



 マゾだったー!



「やっぱりわかっちゃうのかなぁ……クリークの皆も、初めて戦ったときに皆見抜いてきたんだよね~……」



 どうやらこのことは、他のメンバーも知っているらしい。



「はてさて、フォルちゃんはわたしにどんなダメージを与えてくれるのかな~?」



 さっきと言っている内容はほぼ同じだが、自分の性癖を一切隠さなくなったことで、全身の鳥肌が立つような、ゾワゾワとした感覚が俺を襲う。


 と、とりあえずだ。どうにかして、先輩の『ヒール』を無効化する手段を考えないと……!



「フォルちゃ~ん」


「ひっ」



 次の瞬間、素早く移動してきた先輩が、俺の目前に現れた。


 反射的に身体強化魔法を発動すると、俺は先輩の鳩尾(みぞおち)にグーを喰らわせた。



「おぅふ!」



 リンネ先輩の動きが止まる。俺はその隙に、反動を利用して後ろに飛んで、距離を取った。


 よろけながらも、先輩は俺に向かって言う。



「い、今のは気持ちいいパンチだったね~」



 普通の人なら、思い切りのよいパンチ、という意味になるが、リンネ先輩のそれは、文字通り自分が受けて気持ちいいパンチ、という意味なのだろう。


 ド変態だよ、この人……!



「ふっふっふ、もう降参してもいいんだよ~」


「しません!」


「そっか~、でもそれだと、わたしの魔力が無くなるまで攻撃し続けることになっちゃうよ~」



 そうか!

 リンネ先輩を気絶させなくても、『ヒール』を使わせて、魔力切れにさせるという手もあるのか。



 そして、リンネ先輩は得意気に言う。



「わたしの魔力量は四千だからね~」



 それを聞いて、俺は自分の勝利を確信した。



「……それならよかったです」


「え?」


「わたしのまりょくりょうは、八千です」


「……うそ」



 俺は拳をボキボキと鳴らしながら宣言した。



「先ぱい! まりょくぎれになるまで、やりましょう!」



 さあ、消耗戦だ!


 身体強化魔法を発動すると、俺は先輩に勢いよく飛びかかったのだった。



 2024/05/19 更新

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