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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第7章 会員戦編
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100 王暦761年度入会試験②



 ダイモン先輩が受験者チームの内野にボールを投げ、入会試験が始まる。


 その直後、俺の予想通りのことが起こった。


 投げ込まれたボールを、一人の受験者がキャッチをする。そのままその人が投げるのかと思いきや、数人の近くにいた別の受験者も、横からボールを掴んだ。



「俺が投げる!」


「貸せ! オレなら当てられる!」


「押すな押すな!」



 そのまま、ボールは最初にそれをキャッチした受験者ごと、集団の中に紛れて見えなくなった。



「やっぱりこうなるわよね……」


「ですね……」



 その様子を見て、俺もキャサリン先輩も、ギャラリーでため息をついた。


 普通、ドッジボールはチーム戦だ。同じコートの仲間と協力して、相手チームを倒しにいくスポーツである。


 しかし、今回は違う。ジョン先輩が提示した、『先輩にボールを当ててアウトにした最初の一人』しか合格できないのだ。


 それには、一つしかないボールを持つ必要がある。そのため、こうしてボールの奪い合いが起こるというわけだ。


 チームスポーツに個人戦の要素を導入すると仲間割れが起こる。去年にもその傾向はあったが、今年はチームスポーツがベースになっている分、状況はより酷くなっていた。



 そんな受験者同士での醜い争いを、ジョン先輩は無表情で、ダイモン先輩はニコニコしながら黙って見つめている。


 あの人たち、絶対こうなることをわかっていたよな……。


 もしかしたら、こんな状況からボールを奪って当てにくるような、知略に長けた生徒を選抜したい、という狙いがあるのかもしれない。



「おい、貸せ! オレが投げる!」



 ふと、俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 視線を向けると、ボールを求めて争う集団の中に見覚えのある生徒を見つけて、俺は思わず顔を顰めてしまった。


 ちょっと小太りで、テカテカと顔が輝いている少年。ヴォルデマールだ。

 なんか見ないうちにさらに丸くなってないか……?


 というか、なんでここにいるんだ! 去年はいなかったのに……。


 まさか、目の敵にしている俺がここに入ったのが気に入らなくて、自分も入ろうとしているのか⁉︎


 いや、それは流石にないか……。自意識過剰というやつだ。

 きっと、どこかから聞きつけて参加したのだろう。



 一向に攻撃が始まらず、内輪揉めが続いている受験者たちに、ダイモン先輩は拡声の魔道具で呼びかける。



「皆さーん! 先ほどもお伝えしたとおり、他人へのボール以外での攻撃は禁止ですからね! 受験者同士であってもダメですよー! 発覚次第、失格となりますので、ご注意くださーい!」



 すると、その言葉が効いたのか、混乱が少し落ち着いたように見えた。

 そして、受験者の中で一番背の高い人物が前に出てくる。手にはボール。どうにかして手に入れたのだろう。



「オレがやろう。……いくぞっ!」



 そう言って、彼は勢いよくボールをぶん投げた。


 真っ直ぐに、弾丸のようにジョン先輩へすっ飛んでいくボール。あまりの勢いに、風を切る音がこちらまで聞こえてきそうだ。


 だが、ジョン先輩はその場から一切動くことなく、落ちついた様子で右手を前に突き出す。


 普通なら、あのボールを片手でキャッチできるとは思えない。


 しかし、俺は直感的に、先輩がアウトになることはない、と確信していた。


 次の瞬間、先輩の目前に迫ったボールが急に減速する。綺麗に、スムーズに、まるで徐々にスロー再生をかけていったかのように見える。


 そして、十分な速度まで減速したボールを、先輩は難なくキャッチした。



「なん……だと……」



 あまりにも不可解なボールの動きに、受験者がざわめく。それもそのはず、先輩の周りには、魔法を使ったときに見えるはずの魔力の残滓の光が、全く見えなかったからだ。


 だが、俺にはきちんと見えていた。きっと、隣のキャサリン先輩もだろう。



「……今の、視えたわよね?」


「はい。まほうをはつどうしていましたよね」



 普通に見れば、わからない。しかし、魔力視を発動していた俺には、ジョン先輩が魔法を発動していたのがしっかりと視えていた。



「何の魔法だったかは?」


「……かぜけいとうですか?」


「正解よ」



 相変わらずふんぞり返りながら、キャサリン先輩は説明してくれる。



「ジョン先輩は、風系統の天才よ。それに、魔法の発動がおそろしく丁寧(・・)正確(・・)なのよ」


「へぇー」


「だから、さっき先輩が魔法を発動した時、ほとんど魔力の残光が見えなかったでしょ? 普通はどんな魔法を発動するにせよ、発生するものなのに」


「そうですね」


「つまり、それだけ魔力を無駄なく魔法に変換できているってこと。練度が凄まじいのよ。その丁寧さはまさに魔法陣並みね」



 ジョン先輩はそれだけの技術を持っているのか……。これから会員戦で戦うことになるだろうが、間違いなく強敵になりそうだ。



「それに、正確さも先輩の大きな武器ね。ああいうボールに風を当てて減速させるなんて、よっぽど上手く当てない限り、思いもよらぬ方向へ飛んでいくわよ」


「たしかに……」



 そんなことを話している間に、先輩はボールをダムダムとバウンドさせる。



「いくか」



 そして、思いっきり振りかぶって投げる。

 その手からボールが離れた次の瞬間、ボールの後ろ側で魔法が発動したのを、俺の魔力視は見逃さなかった。


 その結果、ボールは手から離れた時より遥かに速いスピードで受験者に向かっていく。

 当然、受験者らは避けようとするが、狭いコートにたくさんの人数が押し込められているため、思い通りに動けない。


 バンドンバン! と鈍い音が響き、ボールが受験者の間を舞う。


 そして、ボールが地面に落ちたのを機に、ダイモン先輩が笛を吹いた。



「はいはい! アウトになった人はコートの外に出てくださーい! 五番と十七番、四十八番と六十一番、あと七十二番の人ですよー!」



 言われた人たちは肩を落としてコートの外に出ていく。

 今ので五人一気にアウトになったのか……。えげつないな……。



 その間に、ジョン先輩は風系統の魔法を発動して、自分のコートの中に転がってきたボールを回収する。

 そして、再び同じようにぶん投げた。



「おい、どけよ!」



 その先にはヴォルデマール。他の受験者に両脇から挟まれて、ボールの矢面に立たされている。

 彼は抵抗するも、体勢を大きく動かすには至らない。そうこうしている間に、ボールが彼の顔面にクリーンヒットした。



「ぐぺっ!」


「はーい、六十六番の君! それと三番と二十七番もアウトでーす!」



 くそー! と地団駄を踏みながら、ヴォルデマールは他の受験者とともにコートの外に出る。

 それを見て、俺は少し胸の空くような思いがした。



 それからは、しばらくジョン先輩のターンが続く。

 先輩がボールを投げて受験者数名に当て、さらにそのボールが自分のコートに返ってくる。


 だが、それも永遠に続くわけではない。

 受験者の人数が三十人程度まで減ったとき、先輩のボールをキャッチする者が現れた。



「ようやく僕のターンだ……」



 そう言うと、彼は全身に魔力を行き渡らせる。身体強化魔法だ。



「くらえっ!」



 そして、投げる。

 身体強化魔法により飛躍的に向上した身体能力により、速球が先輩に飛んでくる。


 しかし、先輩はそれも魔法で弱めると、難なくキャッチした。



「ようやく身体強化魔法を使ってきたか。これで僕もやっと本気を出せる」



 ジョン先輩は、両腕を交互に数回回してストレッチをすると、身体強化魔法を発動した。

 そして、受験者に向けて思いっきり投げる。



「うわっ!」


「きゃっ!」


「ああっ!」



 ボールが飛び回り、受験者を面白いくらい次々にアウトにしていく。



「十番、十一番、六十九番、それからええと、四十五番、一番アウト!」



 あまりにも速く、たくさんの受験者をアウトにしていくので、ダイモン先輩も判定に苦労しているようだ。


 一方、魔力視を発動しながら会場の様子を眺めていた俺は、思わず感嘆の言葉を漏らしていた。



「すごい……」



 一見すると、複数の受験者がアウトになるとき、受験者に当たったボールが偶然進路上にいた別の受験者に当たって……というのを繰り返しているように見える。


 しかし、本当は違う。ボールの周りで時々魔法が発動されている。

 つまり、ボールが偶然受験生に当たっているのではなく、空中にあるボールの軌道を魔法で修正して、ボールを受験生に当てているのだ。


 どれだけの練習を積めば、あんな芸当が可能になるのだろうか。神がかった空間把握能力と計算能力である。



「……今年はダメみたいね。誰も視えてないわ」



 俺の横で、キャサリン先輩はつまらなさそうにため息をついた。


 そして、その言葉は数分後に現実となる。



「うわっ!」


「はい、五十七番の人、アウトー!」



 ダイモン先輩にそう宣言された人は、肩を落としてコートの外に出ていく。


 そして、受験者チームの内野には誰もいなくなった。


 残ったのは、反対側の内野にただ一人佇むジョン先輩のみ。



 七十二名の受験者を、ジョン先輩はたった独りで全滅させたのだ。


 そして、ジョン先輩はダイモン先輩から拡声の魔道具を受け取ると、淡々と宣言する。



「これで入会試験を終了します。今年度の合格者は〇名です。皆さん、お疲れ様でした」



 2024/06/08 更新

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