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【一般】現代恋愛短編集

仲の良い女友達に引っ越し先を探しているって言ったら、何故か人が住んでいるマンションの一室を勧められた

作者: マノイ

「え?衣川(きぬがわ)君引っ越しするの?」

「ああ、アパートが古くなってきたから壊すんだってさ」


 俺、衣川 翔也(しょうや)は高校二年生の一人暮らし。

 住んでいるアパートが三か月後に取り壊しになるのでそろそろ引っ越しをしなければならない。

 後一年ちょっとで卒業するのだから待って欲しいと思ってしまうけれど、俺の都合で決める事じゃないし、しゃーないか。


「マジで? じゃあ転校するの!?」


 などと話をしているのは前の席の女子、花木(はなき) 胡桃(くるみ)

 仲の良い女友達で、席が近い事もありこうしてフランクに話をする機会が多い。


「いやいや、近くで探すつもりだよ。親の都合で引っ越し、とかじゃあるまいし、んな簡単に転校なんてしないって」


 そもそもその親が居ないけどな。

 両親は俺が高校生になる直前に事故で他界し、それ以来俺は一人で暮らしている。


 遠方に住む母方の叔父さんが一緒に住まないかと言ってくれたけれど、高校の合格が決まっていたし、住み慣れた街を離れるのは嫌だったので申し訳ないけれどお断りした。


 今回の引っ越しについても叔父さんが費用を全額負担してくれることになっているのだけれど、申し訳ないからバイトして少しでも自分で払おうと思ったら、余計な事しないで学生生活を楽しみなさい、などと怒られてしまった。


「もう、焦らせないでよ。でもそれもそっか」

「ん?焦る?」

「何でもない、気にしないで」

「変なやつ」


 焦ってるのは俺だよ。

 そろそろ新居先を決めないとマズい時期なんだよな。


「引っ越し先はもう決めてあるの?」

「それがまだ。色々と悩んでてさ」

「悩んでる? 例えば?」

「叔父さんはもっとセキュリティレベルが高いところに引っ越しなさい、って言ってくれるんだけど、残り一年ちょっとなのにそんな家賃が高そうなところに住むのは勿体ないかなぁ、とか」

「相変わらず節約志向だねぇ」


 俺の家は裕福では無い家庭だったから、狭くて古いアパートで慎ましく暮らしていた。

 別に俺はあの雰囲気嫌いじゃないんだけどな。

 両親の遺産は多くは無いし節約するためにまたボロアパートで良いやとも思うけれど、叔父さんを心配させたくもない。


 ということで、そもそも間取りとかの前にどのクラスの部屋を選ぶか、というところから決められてないのだ。


「あんまり難しいこと考えないでさ、住みたい場所の近くで空いてるところ探せば良いんじゃない?」

「住みたいところ?」

「そう、例えば…………あ、あたしの家とか」

「はは、何言ってんだよ」

「少しは動揺しなよ!」

「いやだって花木のご両親が許すわけないだろ」

「そういう真面目な話じゃなくて……むぅ、もういい!」

「?」


 もしかして同棲を意識して照れさせるつもりだったのか?

 いやいや、ないない。

 花木は俺の事なんて話が合う友達くらいにしか思ってないだろうしな。


「住みたいところならやっぱり学校やバイト先が近いとこかな」


 それなら今よりも家に帰る時間が早くなって勉強する時間がもう少しとれそうだ。

 いくら貧乏だからといってバイト三昧で成績が悪くなったら天国の父さんと母さんに叱られてしまう。


「それならさ、三好町の二丁目28番6号辺りが良いんじゃない?」

「妙に具体的だな。それってどの辺りだっけ」

「地図出して」


 スマホで地図アプリを起動して場所を教えてもらう。


「この辺りだよ」

「へぇ、確かに学校もバイト先も近いな」

「でしょでしょ。特にこのマンションなんかオススメだよ」

「だから何でそんなに具体的なんだよ」


 フレッシュメイト三好か。

 一応調べてみよう。


「マンションの入り口がカードキー無いと入れないのか。セキュリティはしっかりしてそうだが、これ家族向けのマンションだろ。俺には広すぎるよ」

「そうかな。でもどうせ大学生になったら狭い所に住むんだろうし、今くらいは広い家に住んでも罰は当たらないんじゃない?」

「そうは言ってもな。広いと掃除とか大変なんだぜ」

「掃除ちゃんとやってるんだ」

「当たり前だろ? 一人なんだから一通り家事は出来るぜ」


 両親が亡くなって途方に暮れていたけれど、自分でやってみると案外楽しく家事をこなせていた。

 限られた食費の中で美味しいお弁当を作るのとか考えるのがすげぇ面白い。


「バイトして自立してるし、テストの成績も良いし、運動もそれなりに出来るし、完璧超人か」

「はは、俺なんてまだまだだよ。その証拠に全然もてないから彼女いないしな。きっと顔が悪いからなんだろ。イケメンが羨ましいぜ」

「何言ってるの!? あたしがどれだけアピール……」

「ん? アピール?」

「な、なんでもない!」


 やっぱり今日の花木は何か変だ。

 いや、いつもか。

 特にここ最近は挙動不審というか、変なことを口走る回数が増えて来た。


 何か心配事でもあるなら相談に乗ってやりたいんだが、以前そう言ったら真っ赤になって断られちゃったんだよな。


「とーにーかーく、このマンションにしなさい」

「何故に命令」

「良いから良いから、503号室とかオススメだよ」

「何故にピンポイント!? まさか事故物件で有名な部屋とかじゃねーだろうな」

「勝手に人の家(ひとんち)を事故物件にすな!」

「え? 人の家(ひとんち)ってことはその部屋空いて無いの?」

「…………」


 なんで引っ越しするのに誰かが住んでいる部屋を勧めるんだよ。

 意味分からん。


「とりあえずここは無しな」

「え~」

「だって空き部屋の情報どこにもないから満室だろ」

「ちぇっ」


 なんでここに拘るんだよ。


「ああ、でも隣のアパートは空き部屋あるっぽいな」

「ほんと!?」

「だからなんで嬉しそうなんだよ」

「べ、別に嬉しくないし」


 家族でも一人でもって感じの広さで、間取りは……うん、うん、良いな。


「候補にすっかな」

「やった!」

「だからなんで嬉しそうなんだよ。二回目」

「べ、別に嬉しくないし。二回目。んでさ、そこって角部屋?」

「いや、違うな」

「違うのかー」

「俺は角部屋とか気にしないぞ」


 今住んでいるところも両隣いるし、不便はしていない。


「でも防音とか考えるとさ」

「角部屋の方がうるさい人が隣の確率が低いか」


 マンションやアパートの騒音トラブルってよくあるらしいからな。

 言われてみると少し不安だ。


「いや、そっちじゃなくて隣に迷惑かけちゃうかなって」

「うるさいの俺かよ! 自分で言うのもなんだが、俺は結構静かに生活してるぞ」

「またまたぁ、大音量でえっちな動画とか見てるんでしょ?」

「変態じゃねーか!」


 そんなことしたら壁ドン不可避だろ。


「見ないの?」

「黙秘します」

「見てるんだ。えっち」

「仮に見てたとしても俺の歳なら変じゃないだろ」

「う~ん、衣川君ってクソ真面目だからそういうのもしてなそうな印象がある」

「誰がクソ真面目か。つーか、なんでこんな話題になってんだよ。止め止め」

「逃げた」


 うっせ。

 女子の前でエロい話を自然に出来る程、俺は達観してねーんだよ。


「それじゃさ、引っ越し先決まったら教えてね」

「多分ここにすると思うけど、何で花木に言わなきゃならないんだよ」

「遊びに行くからに決まってるでしょ」

「はぁ?」


 こいつ自分が何を言っているのか分かってるのか?


「あのなぁ、良い歳した女子が一人暮らしの彼氏でも無い男子の家になんて行くなよな」

「どうして?」

「どうしてって、襲われても文句は言えないだろ」

「襲われちゃうの?」

「襲われちゃうな」

「マジで?」

「マジで」


 こいつが俺のことをどう思っているか分からんが、俺だって健全な男子高校生だぞ。

 しかも花木は女子の中では割と可愛い方だし、性格も好みだし、そんな女子がうちに来たら理性が耐えられるか分からない。


「そっか、衣川君もオトコノコなんだね」

「だからなんで嬉しそうなんだよ。三回目」

「べ、別に嬉しくないし。三回目。じゃあ絶対遊びに行くね」

「じゃあの意味が分からんし、この話の流れでどうして来ようとするかなぁ」

「…………分からない?」


 そう照れ臭そうに告げる花木の顔は、見たことも無い程に赤く染まっていた。

 その意味が分からない程、俺は鈍感じゃない。


 こいつ俺が何のエロ動画見ているか確認しにくるつもりだ!














 後日。


「やっぱり手を出してくれなかったじゃん!」


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