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天使の恩返し  作者: 桜雪
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第1話 再会 前半

 安いボロアパートの自宅に帰って来たらまずは風呂を沸かす、その後洗濯物取り込み元の位置へ。

 いつもと同じような事の繰り返し……いや、今日は違った。不思議な出会いがあった。

(運がいい、ねぇ。ホントにそうだったら嬉しいけどそんな簡単じゃないよな)

 運命が変わるような事を言われた気がするが流石の彼でもそんな簡単に信用はできなかった。

 そうしている間に機械の声で「お風呂が沸きました」との知らせが入る。用意しておいた着替えを持って脱衣所に。軽くお湯をかけてから湯船へ。

(それにしてもいきなり消えた? まぁ何か事前準備でもしてたんだろうな。うん、冷静になるとそうだ。おそらく何かのドッキリで、僕はターゲットになったんだろう。まぁ何か取られた訳じゃないからいいけど……。あ、でもあの玉は大丈夫か!? もしかしたら位置情報分かるとか盗聴されてる!?)

 一度変な考えが始まると呑気に風呂にいる場合じゃない気がして来た。洗っていた体に一気にお湯を流すと大慌てで体を拭いて着替えを済ませる。

 上着にしまっておいた玉を取り出すがその後の対処法が分からず困ってしまった。

 「どうしよう、コレ。燃えないゴミ? いや、その辺りに捨てる?ってダメじゃん! いや、そもそもコレ機械なのか?」

 何気なくその玉を覗き込むんだ、と、その時!

「な、何だ!? 急に光って。まさか爆弾!?そ、そんな。これが最後の光景!!」

 決まらない覚悟に震えて目をつぶった。しかし、爆発する様子はかけらもない。代わりに――。

「ご主人様……本当にご主人様なんですね、桔梗です」

 三つ編みヘアで丸いメガネの少女。

「ご主人様……また会えたなり! 友ちゃんなり」

2つのお団子頭と外バネしたヘアスタイルの少女。

「ご主人様、うぅ、会いたかったよぅ、佳だよ」

 ツインテールの少女。

「き、神達……まさか。いや、そんな訳ない! だって君達……」

 パニックしか起こらない、思考がまとまらない。

 17年前、高台から転落したはずの桔梗(ききょう。)

 14年前、遭難して行方不明になったはずの友代(ともよ)

 9年前、フグの毒にあたり死んだはずの(けい)。死んで、いなかった? 

 いや、それなら彼女たちの事を誰もが覚えていないのはおかしすぎる。

「ご主人様、私達はあの時確かに死にました」

涙を拭き、最年長の桔梗が説明を始まる。

「ですが、意識が切れる直前に声がしました『生きていたいですか?』と。私、いえ私達はそれに頷きました。まだこの世界に未練があったから、気がかりを残して死にたくなかったから――」

「もしかして……それが僕? 家族とかじゃなくて?」

「天使になる条件は家族以外に未練がある人物がいるかなんです。天使にならなかったら記憶は消えて次のモノに生まれ変わるんです」

「は、はぁ……」

「あーっ! 友ちゃん達の事疑ってるなり!」

次に口を開いたのは真ん中の知代だった。

「コレを見るなり!」

 煙が現れて消えた瞬間に衣装が変わっていた。

さっきまで奇妙なメイド服だったのが普通のパジャマに変わっていたのである。

「ってクツ! 2人は早く脱いで!」

「うわわっ! ごめんね、ご主人様!」

 やっと最年少の佳が涙を止めて話した。

「す、すみません。佳ちゃん、行くわよ」

 はーいと返事してまたまた煙幕が現れた。そして2人は普通の服(クツは当然なし)に着替えていた。

(いやいやいや、天使? 転生? そんなバカな。何かのドッキリで偶然この子達が昔の記憶に似てるだけだ! もしくは家出して行くとこがないとか)

 あれこれ考えていたらぐーっとお腹がなった。

「あ」

 生きてる以上どんな時でもお腹は減るものだ。

「す、すみません。ご主人様、お食事はまだ……」

「は、はい。今日はお風呂上がってから軽く食べようかな、と思ってただけなので……」

「じゃあじゃあ、友ちゃん達で作るなり!」

「待っててね、ご主人様!」 

「え? う、うん、お願いします」

 小さな台所で料理を始める。基本は桔梗で手伝いで友代と佳といった感じだ。男の独り暮らし、ましてやそんなに料理好きでもないため豊富な食材や調味料に恵まれている訳ではなかったので期待はしていなかった。が、出されたものは余り物を上手く使った親子丼とインスタントのみそ汁であった。

「美味しい……」

 3人はとても嬉しそうに笑った。特にメインで動いた桔梗は1番嬉しそうであった。

 色々と言いたい事はあった。が、今日は疲れた。

 彼女達に悪意はなさそうだし、何より夜遅く女の子を放り出すのは気が引けた。絆町の治安はかなりいいがそれでも何があるか分からない。

洗い物をしてくれたり色々話を聞いていたらだんだんと眠くなってきた。

「あ! しまった! 布団の予備ない……」

 独り暮らし、おまけにそんな広い場所ではないので荷物は最低限に留めてある。

「大丈夫だよ、ご主人様。ボク達ドールになって休むから」

「どーる?」

「私達天使の体を小さくする事です。その間、話をしたり動いたりは出来ないんですけど目と耳の機能だけはつかえるんですよ」

 3人は「おやすみなさい」というといきなり小さなフィギュアのようになってしまった。

「……うん、夢だな! 疲れが出たんだ。さて、歯磨いたら寝るか」


「ご主人様! 起きて! おはよーっ!!」

「ぐっ! お腹痛い……」

 昨日の事は夢ではなかったのだと、目の前の少女と痛みが教えてくれた。

「お、おはよう。友代姉さん、佳。次からはダイブしないで声だけで起こしてくれると嬉しい、な」

「はーい!」と一応返事はしてくれた。

「ダメじゃない、2人共! そんな乱暴に起こしちゃ。ご主人様、申し訳ありません」

「いや、大丈夫ですよ。桔梗姉さん」

「いえ、それでも申し訳ありませんでした。あ、改めましておはようございます。朝食の準備を始めますがよろしいでしょうか?」

「あ、ありがとうございます。いただきます」 

 洗面で顔を洗いうがいを済ませ戻るとマーガリンを塗ったトーストとミニトマトが並べてあった。

「飲み物どうするなり?」

「あ、牛乳でお願いします」

「何で友ちゃんとキョウちゃんだけ姉さんなり!? 友ちゃんも呼び捨てがいいなり!」

 カップに入れた牛乳を勢いよく置いて怒る。

「い、イヤ! と言われても、その……」

 出会った時は2人の方がお姉さんだったのだ。そんな急に呼び方を変えられるものではない。

(ん? 何で僕はこの子達の天使とか転生とかを簡単に受け入れてるんだ?) 

 食事をして頭も回ってきた。やはりこれはドッキリ企画。もしくは家出少女の演技だ。偶然自分の記憶の中だけの少女達と特徴が一致しただけだ。

(困ったぞ。ドッキリならその内ネタバレするだろうが家出してる場合だ。警察? 児童相談所? どちらにしろ親戚でもない僕の側にいるのはまずい! 誘拐犯にされてしまう可能性もある! 見た感じ外傷はなさそうだが……)

 「ねーねーご主人様。お仕事行かないの?」

 子供ながら当然の、ストレートな質問に心が痛い。

「昨日までの契約だったんだ……。だから今は仕事ないんだ、ハハッ。情けないよな――」

「か、重ね重ね申し訳ありません!」

「じゃあ、今日ひまなりか? だったら友ちゃん達とお出かけなりー!」

「さんせーっ! ボク出かけたい!」

「ふ、2人共! 失礼でしょ」

「いや、いいですよ。どうせ家にいてもゴロゴロして終わるだけなんで」

「やった! ボク、公園がいい!」

「友ちゃんは、美味しい物があるとこなら何でもいいなりよ」

「桔梗姉さんは?」

「えっと、それならお買い物が出来る所に行きたいです」

「OK。じゃあ着替えたら出かけよう」

 今回は唯一カギのあるトイレで着替えた。万が一女の子に着替えを見られたら恥ずかしいので。

 着替えを終えて出ると3人はすでに玄関に立っていた。友代だけはパジャマから私服に変わっていた。

「お待たせしました、じゃあ行きましょう」

 カギをかけ初の外出へ。

 

 きずな商店街。時代的に珍しく結構な人が集まっている。八百屋や魚屋と行った昔ながらの店から安くてオシャレな店があるのが若者にも人気の店が並んでいるのが理由だろう。

 「ひっ!」

 何かにびっくりしたのか佳が抱きついてきた。

「ど、どうしたの? 何かあった?」

 指差した方向には魚屋、フグの置物があった。

「ふ、フグ怖い……」

(もしかして、前世の記憶!?)

 佳は9年前旅館で出されたフグの毒にやられて死んだ――はずだ。周助も毒に当たったが、量が少なかったのが幸いして大した事はなく退院した。

(いやいやいや! 冷静になれ!)

「大丈夫だよ、あれは本物じゃないから」

 手をつないであげたら震えは止まっていた。

「ずるいなり、次友ちゃんなり。それより早く食べる物買うなり、お腹ペコペコなり」

 3人は朝食を食べていなかったのを周助は思い出した。

「えっと、近くに……って友代姉さんっ! どこ行くの!?」いきなり引っ張られる。それを遅れて桔梗と佳が追いかけていた。

 そして近づく度にいい香りが近付いてきた。中華料理店のようだ。

「『大盛りチャレンジ、これを全て30分以内に食べ切ったら無料の上に賞金2万円プレゼント』?」 ポスターを読み上げる。

「そうなり! 友ちゃんはこれに出るなり! タダの上にお金までもらえるなんてすごいなり!」

「いやいや! 失敗したら1万円だから! 貴重だから!」

「任せて欲しいなり! 友ちゃんがいっぱい食べるのをご主人様は知ってるはずなり!」 

(確かに友代姉さんはよく食べてたな。そんな大きくないのに……でも……)

 改めてポスターを見る。チャーシュー、味玉、メンマ、野菜増し増しのとんでもないみそラーメンがそこにあった。

(これだぞ! いくら昔から大食いだからって……? 待てよ。これはドッキリを終わらせる合図なのでは? これで司会者が出てくるとか)

「よし! 友代姉さん、チャレンジしよう!」

 勢いよく扉を開けると、それに応えるように店員にいらっしゃいませ!と言われる。そのまま席に案内され大盛りチャレンジを注文した。

 数十分後、ポスターとは比べ物にならないように感じるラーメンが現れた。香りは、いい。

「どなたがチャレンジを?」

「友ちゃんなりよ」

「えっ!? い、いえ失礼しました。ではただいまより1時間以内に完食してください。当然汁もです」

「いただきますなり!」と箸が動き出す。周りの視線が友代に集中する。チャレンジするのが細い女の子なのにすごい勢いで量が減っていくからだ。

「美味しいなりー」

 勢いは止まらない。そして、あっという間に平げてしまった。まだ半分時間は残っていた。

「お、おめでとうお嬢ちゃん。まさかこれを完食するとは……」   

 店主は震えながら賞金を手渡した。まさかこんな幼い少女が完食するとは思っていなかったのだ。

 ちなみにこれをクリアしたのは友代で4人目だ。

「はい!」

 外に出るなりいきなり賞金袋を渡された。

「え?ぼ、僕はいいよ。友代姉さんの出した結果なんだから……」

「いーなり! 友ちゃんはご主人様に喜んで欲しかったなり。それにラーメン美味しかったからいいなり」

 ぐりぐり押し付ける。

「わ、分かった、分かった。ありがとう」

 とりあえずカバンにしまっておく。

(あれ、これで終わりじゃないの?)

「ご主人様、ボクお腹すいた……」

「す、すみません。ご主人様」

「わわっ! と、とりあえず近くにパン屋があるから行こう」

「友ちゃん、菓子パン食べたいなり!」

「まだ食べるの!?」


 終わり 後半へ続く。












 

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