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お前らちゃんと攻略しろ〜AGI極振り子爵令嬢が魔王討伐のアップを始めました  作者: 明和里苳


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33(3章10)

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 草とはどこにでも生えているものである。隠密おんみつを飼っているのは、なにも辺境伯家だけではない。貴族の身辺には、いつどこに耳目じもくがあるのか分からないものだ。それが王都の政治の中心施設なら尚更。今、何かと話題の貴族学園の敷地内は、大草原不可避であった。


 感動的なスチルの回収劇が、翌朝には学園中で話題になっていた。


 ただし、セシリーちゃんのこれまでの猛攻は、既に皆に知れ渡っているところ。しかもしばらく前、学園祭での息の合った鎮魂スキルに、観客の全てが釘付けになったばかりである。お似合いカップルの恋愛イベント発生に、女子生徒は「きゃあ〜♡」となり、男子生徒は「セシリーちゃん…(泣)」となった。


 その日から、裕貴セシリーちゃんのアプローチは鳴りを潜めた。何かとB組のエリオットうじを訪ねては、ボディタッチを繰り返し、上目遣いでお願い事をする…といったいつもの光景は見られず、代わりに、どちらからともなく待ち合わせては、よく手を繋いで歩いている。二人とも無言ではあるが、時折視線を合わせて、頬を赤らめて微笑み合う。




 何それ悔しい。腹立たしい。


「お嬢様、もう廊下の角からハンカチくわえて呪うのやめましょうよ…」


 ブリジットが呆れている。やかましいわ。お前だって閣下がいるだろうよ。


「お嬢だって、俺がいるじゃないっスか…」


 うるさい黙れ。フェリックスうじ、てめーは所詮しょせん辺境伯家のハニトラハニートラップ要員だ。


「ハニトラは酷い」


「だって、小娘にイケメン宛がって辺境伯家に引き留めとこうって、そういうことでしょ。もう書類上で結婚でもなんでもしてあげるからさ、花街のお姉さんとでも遊んで来なよぉ」


「お嬢はどうしてこんな、色恋に関してかたくななんスかね。なんか男に騙されたりしたんスか?」


「いや、あーしの知る限り、それはないっていうか」


 うーん。二人は考え込んでいる。




 本日は卒業記念パーティーのドレスを買いに、ショップまで足を伸ばしている。秋の舞踏会で、コルセットでにそうになった私に、いっそコルセットの緩やかなドレスをオーダーしてはどうか、というご提案があって、グロリア様行きつけの一流クチュリエへ。最近のドレスのトレンドとは異なるが、闇属性のドレスを参考に、凹凸の控えめな私に優しい、可憐なデザインに仕上げていただいた。


 よく考えれば、あの属性ドレスはどれも着用者の体に自動でフィットして、動きを妨げず、かつボディラインも美しく見せてくれる。よく出来たドレスである。ああ、元王妃をギャフンと言わせるために、あの時舞踏会で風のドレスを着なければよかった。一流貴族は同じドレスを何度も着回したりはしないのである。まあ、あれを着て行ったから、いろいろ一件落着したんだけども。


 とりあえず、闇属性ドレスのイロチいろちがいで、私の瞳の色に合わせて、緑のドレスを作ってもらった。普通、お相手がいたら、相手の髪の色や瞳の色に合わせて作るモンだそうだが、今回のパートナーはフェリックスうじ。彼は黒髪黒目なので、彼に合わせたら、まんま闇のドレスでいいんじゃないかということになる。確かに闇のドレスは可愛いが、卒パで黒というのも地味だし、またいつか冒険で着るだろうし。


 ただ、オーダーとは違い、リボンや締め色、チョーカーなんかは、黒のベルベットに変更されていた。シックな感じで格好良くはあるが、今のアリスにはちょっと大人っぽ過ぎるかも知れない。


「まあ、お二人ともお似合いですよ」


 マダムが、フェリックスうじの黒のタキシードと対になるように、気を利かせてくれたようだ。鏡の前で並ぶと、あたかも本当にお似合いのカップルのように見える。また彼が無駄にイケメンなのが腹立たしい。「似合ってますよ、お嬢」じゃねぇよ、このハニトラ野郎。


「あんまりペアで色がちぐはぐだと、不自然っスよ。せっかく弾除たまよけになってくれてるんだから、仲のいい婚約者アピールしとかないと」


 そういって、ブリジットが肘でつっ突いてくる。なお、彼女はデイモン閣下の瞳の色に合わせた、スカイブルーのドレスだ。いつもはポニーテールできゅっとまとめた火属性っぽい赤毛が、背中まで豊かにウェーブしていて実にきらきらしい。まるでディニープリンセスに居そうな感じである。この子、本気出したらマジで化けるんだよなぁ。そりゃ、玉の輿もゲットするわってことである。




 なお、学園の屋上は人気の告白スポットとなり、夕食後の屋上で舞踏会に誘うカップルが多発。雪の積もる屋上は足跡だらけになり、順番待ちの行列まで出来る始末。学園側も、貴族の縁談は大事なものだと理解しているので、見て見ぬふりを決めている。こうやって、学園の伝説って作られて行くものなのだ。


 伝説を作った当人は、


「あれから二人きりになると、ユウキって呼ばれるようになったんス…♡」


 裕貴くん、絶賛お花畑中である。そのダーリンエリオットも、


「あなたが私のドレス姿を評価してくださったのも、なんとなく分かる気がします。その…いけないことをしているようで…」


 だそうだ。うん。貴腐人のお姉様方が、泣いて喜びそうなシチュエーションだね。


「姉貴がいたら、絶対ネーム切りに来るっス…」


「あ、お姉さん、そっちも行ける方なんだ」


「俺、永遠のタダ働きのアシアシスタントでしたから…」


 裕貴くん、いつもの遠い目だ。その分だと、売り子やら、最後尾のプラカードやら…あ、遠い目が更に遠くなって行く。彼の苦労がしのばれる。


「ここにいらしたら、きっとエリオットうじつかまえて、あんなポーズやこんなポーズを取らせたりすんだろうね…」


「…ッ!その発想はなかった…ッ!」


 裕貴くんがガバッと立ち上がり、「アリスさん、マジでありがとうございます!ありがとうございます!」とドップラー効果を起こしながら、猛ダッシュで去っていった。その後、彼らの間に何が起こったのか、推して知るべしである。


 彼奴きゃつら似合いのカップルめ。ぜろ。

ああ、アリスがどんどんやさぐれていく…。

次回でやっと最終回です。(´Д⊂ヽ


今回も、読んでくださってありがとうございます。

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