30(3章7)
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対峙する女生徒が、思わぬ行動に出た。どんな手を使ったのか、自分と同等の装備品を一瞬で仕舞い込み、おそらく挑発の態度を取っている。貴族の男子として、また次期王国の頂点として、このような侮辱を断じて許してはならない。正直、所詮女生徒と侮っていたが、全力で叩きのめすことに決めた。
「見せてやろう、私の真の力を。加速!」
王太子は風の細剣を天に掲げた。鎧と細剣が、風属性のスキルに呼応して淡く光を放つ。装備のセットボーナスで、スキルの効果が20パーセント上乗せされる。
「参るッ!」
素早い踏み込みに、鋭い剣筋。よく訓練され、洗練されたものであった。
だが遅い。
遅すぎる。
当たらな、ければ、どうと、いう、ことは、ない。
王太子からの猛ラッシュを、最低限のステップでひらりひらりと躱す。王太子といえば、剣術にばかり励むわけにも行くまい。それでもなお、ここまで研鑽を積んだのは大したものである。大したものであるが、効かぬ…効かぬのだ王太子!
3分ほど立ち会いをして、王太子は明らかに焦っていた。加速の効果時間は10分、その後はしばらくクールタイムが発生する。この10分の間に決め切らなければならないのだが、一向に攻撃を当てられない。この女生徒は、一体どんな修行を積んだというのか。だがしかし、必ず勝機はあるはずだ。相手は女生徒、スタミナは王太子の方が優っているはずである。10分もの間、集中力を切らさずに、この猛攻を避けられたものではない。
そう思った矢先、女生徒の軸足がブレた。見えた!
一瞬の隙も見逃さず、王太子が必殺の刺突を仕掛ける。バランスを失い、わずかに傾く女生徒の首元に風の細剣が
「ちぇすと☆」
その瞬間、女生徒の姿が消え、背後から間の抜けた掛け声とともに、首元に軽い衝撃が走る。そのまま、王太子の意識は闇に沈んだ。
本当は、拳でリングに沈めてやろうかと思ったが、相手は王族。多くのギャラリーの前で、さすがにそれはマズい気がする。とりあえず、首元にチョップで落としておいた。何のスキルも要らない、徒手空拳で掴んだ勝利である。実に呆気ないものであった。
王太子の初期設定は、デイモン閣下と同じ、前衛寄りの万能型。攻略キャラに選ばれなければ、NPCは自動割振でパラメータが上昇していく。魔王討伐がなければ、彼のレベルは学園卒業時に最大30程度。卒業から約半年、たとえ現在のレベルが60だとしても、AGI140。相当パワーレベリングして、レベル90まで上げたとしても、210に留まる。そこにレベル5の加速で、3.5倍の735。さらに風属性装備のセットボーナス20パーセントを加えて、想定最大値は882といったところだろうか。
一方、今の私のステータスは、こんな感じである。
名前 アリス
種族 ヒューマン
称号 アクロイド子爵長女
レベル 413
HP 5,000
MP 5,000
POW 500
INT 500
AGI 2,630
DEX 500
属性 風
スキル +
E 学生服
E 風の腕輪
風のドレス
風のサークレット
風の細剣
まぁね。レベルもここまで上がっちゃうとこうなるよね。途中、もうアイススライム狩りも余裕になってしまったので、他のパラメータにもポイント振ってみたんだけど、なんせ風の超級ダンジョンに挑んだ際、飛翔スキルのスピードが使用者のAGI依存だと判明してしまった。おかげで各超級ダンジョンへの移動にも、周回アタックにも役に立ちました。別に風属性はAGI極じゃなくても運用方法はたくさんあるんだけど、一度この便利さを知ってしまうと、もう他のパラメータにポイントを振る気にはなれない。
静まり返った観客席から、ぽつぽつと拍手が上がり、やがて我に返った主審が「勝者、アリス・アクロイド」と告げる。すると会場は一気に熱気に包まれた。おい、王太子が負けたんやぞ。ジブンらそれでええのんか。
「おのれ、おのれ聖女めぇぇ…!」
一方、王室観客席から、怨嗟の声が上がる。王妃がものすごい形相で私を睨みつける。息子さんを無様に下したのは申し訳ないとは思うが、はて、聖女とは?と疑問に思う間もなく、王妃は立ち上がり、首元を飾っていたネックレスを引きちぎり、舞台へと投げ寄越した。王妃、いい肩してんな。
ネックレスは空中でバラバラに分解し、それぞれが紅い光を放ち始めた。ヤバい、これボス戦のエフェクトじゃん。ここで観客を巻き込んだら大変な被害になる。避難させる時間はない。とりあえず
「閣下!グラウンド沈めて!」
「よかろう。地形操作!」
閣下が腰を落として手のひらを地面に付けると、トラックの内側がエレベータのように20メートルほどみるみる下降していった。言葉の足りない指示に対し、私の言わんとすることを完璧に理解して、忠実に再現してくれる。閣下ナイス。
即座にパーティー全員に飛翔をかけて、上空から湧いた魔物を特定。ワイトキングにドラゴンゾンビ、そしておびただしい数のアンデッドの皆さんね。よし、飛行タイプがいないのはひとまず安心。
「セシリーちゃん、エリオット氏、二人は鎮魂。グロリア様はワイトキングに完全回復。ブリジットはドラゴンゾンビにファイアーボールね!」
「心得ました。鎮魂!」
「任せよ!完全回復!」
「いっけええ、不死鳥ストライク☆」
セシリーちゃんとエリオット氏の、息の合った鎮魂スキル。光属性と水属性に共通して回復スキルがあるように、こちらも光闇で同じスキルなのだが、光属性の白い羽のエフェクトに、闇属性の黒い羽のエフェクト。そして天から救済の光が降り注ぎ、アンデッドたちが安らかに地に還って行く。悔しいが、トラックの上空で二人して背中合わせでスキルを放つ様が、実に絵になる。
一方、鎮魂スキルだけでは、ボスクラスのワイトキングとドラゴンゾンビを削り切れない。グロリア様には完全回復でワイトキング、ブリジットにはファイアーボールでドラゴンゾンビにとどめを刺してもらう。いずれのスキルも、アンデッドにしか効かないか、もしくは敵単体を追尾する攻撃なので、観客にまで被害は及ばないはず。あ、ブリジットが調子こいて出力マックスで撃ってる。すかさず閣下がロックウォールを展開して爆風を封じ込めた。ナイスフォロー。ちなみにただのファイアーボールであって、不死鳥ナンチャラという技ではない。
ファイアーボールが炸裂する前に、私はトラックの内側に取り残された人たちに飛翔をかけて、無事回収。飛行形モンスターがいたら、主に私が相手しなきゃいけないので、全員回収できるか焦ったが、アンデッドばっかで助かったよ。
全部終わるまで、3分かかったか、かからなかったか。最後、閣下がモリモリとグラウンドを回復して試合終了。土属性マジ優秀。地味だけど。
あ、ファイアーボールのとこだけ、ちょっと焦げ臭くなっちゃった。許してちょんまげ。
戦闘シーンを書くのが苦手な私です。
これでも超頑張りました。
自分で見てもアレな出来ですが、お目溢しいただけましたら幸いです…。
ちなみに王太子の名前はアイザックに決まりました。
本当は王太子ままの放置する予定でしたが、どうしても「効かぬのだ」のところに名前を入れたかった。
アリスのA、ブリジットのB、セシリーのC、デイモンのD。
エリオットのE、フェリックスのF、グロリアのG、ハーミット家の皆さんのH。
そしてIでアイザックとなりました。
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