26(3章3)
今回も、読んでくださってありがとうございます。
※風の鎧を風の革鎧に訂正しました
さて、残り消化試合のようになった学園生活はつつがなくこなしつつ、あれよあれよと舞踏会の日を迎えてしまった。学園生活の方は、取れるスキルを取れるだけ取って、レポートや定期考査などは片手間で終わらせる。ゲームの内容を隅々まで思い出した私に死角はない。全学年の一学期、二学期、三学期、中間考査も期末考査も、どんな問題が出て何が正解なのか、全部知っている。特待生の在学資格を奪うわけにはいかないので、全教科96点くらいに調整。結果、特待生以外の1位から4位を閣下、エリオット氏、私、ブリジットの順で占めることとなった。まあ私以外の3人は、最初から努力家で優秀であり、そう大した順位の変動はない。二年の九月から、なぜか私だけ成績が爆上がりしたことに、担任教師が首を傾げていた。なんかスマンね。
舞踏会の日は、朝から辺境伯のタウンハウスに缶詰になり、体の隅々まで磨き抜かれた。
「はへぇ、いつもは施術する側っスけど、エステって気持ち良いモンっスねぇ☆」
ブリジットは肝が据わっている。メイドさんに「それどこのオイルっスか」「なるほど、指の腹を使って」などと話しかけ、ちゃっかり技術を盗むつもりだ。これから冒険者として稼ぐなら、エステの技術など必要ないと思うんだが、「何が飯の種になるか分かんないっスよ」だそうだ。この子はどこででも逞しく生きて行ける。
「女子って、こんな感じなんスね…」
裕貴くんもうっとりしている。いや、こんな一流エステなんて普通受けらんないから。前世でも受けたことないから。裕貴くんと違って、前世のことはゲームの知識以外ほとんど思い出せない私。だがそんな私でも分かる。これは、広告やネットにも上がらない、上級国民の一部しか知らない類のヤツだ。
デイモン閣下やエリオット氏も、パリッと盛装している。元々割とイケメンの部類ではあるが、今日はイケ度が3割増しだ。結局、男子組は属性装備を着込んで行くのを諦めた。まず、土の腕輪が入手できていないので、閣下が変身モードが使えないこと。また土属性はローブか鎧しかなく、闇属性の革鎧は上下のレザースーツである。カッコいいといえばカッコいいが、舞踏会ではトガり過ぎているだろう。その点、女子は全員腕輪にドレス、サークレットがある。結果、男子は通常の舞踏会用の衣装で。女子は無難なドレスを着込んで行って、その場で変身してやろうということになった。
困るのが、このコルセットというヤツだ。窒息するかってくらい、ぎゅうぎゅうに締め上げられる。腕輪で「装備」して属性装備に変えると解放されるが、装備解除するとまた「グエッ」となるのだ。しかも腹立たしいことに、私には特にキツい仕様らしい。凹凸がないところにメリハリを作ろうと思ったら、貧相なボディでもなお締め上げなければならず、そして無いところから肉を集めなければならない。内臓が口から飛び出しそうである。私以外の女子たちが「いやーんキツい」などとホザいているのが憎くてたまらない。こうなれば何度でも呪ってやる、リア充爆ぜろと。
そうして一同、辺境伯家の馬車に乗り込む。王宮はそう遠くないものの、コルセットで○にそうになってる私、目の前でイチャつくセシリー(呼び捨て)を生暖かい目で見る余裕はない。爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ…と呪っているうちに、ほどなく王宮に到着。魔王討伐後に湧いて出たくだらないイベント、早く終われ。
会場には、身分の低い者から入場する。公爵家は王家と共に入場、当主が心神耗弱している筆頭侯爵家のギャラガー家は欠席のため、今回はダッシュウッド辺境伯家が最後の入場になった。後から合流したデイモン閣下の父上と、グロリア様のペア。その後ろに、晒し者になりながらぞろぞろと入場する。会場からはヒソヒソと、「あれは誰」という声と、学園生の「なんであの子が」みたいな声が聞こえる。コルセットが苦しくて愛想笑いが持たない。誰か助けて。
やがてファンファーレが鳴り響き、王家一族のおなり。開会の挨拶ののち、王太子と婚約者の公爵令嬢のファーストダンス。それが済むと、今度は上位貴族より王家に挨拶に参上する運びになる。
「お義姉様、ようこそ舞踏会へ。遠い田舎から、さぞお疲れでしょう」
王を押し退けて、王妃がまず口火を切る。戦いのゴングである。
「王妃様におかれましてはご機嫌よろしゅう。我ら一同、精一杯の盛装にて参上致した」
グロリア様が応戦する。貴族はプライドの生き物、売られた喧嘩は買わなくてはならない。彼女が目配せをすると、一同合わせて「装備」と唱和した。
水の女神と見紛うばかりのグロリア様、隣には炎ゆらめく紅い鎧のダニエル様。おめぇ鎧仕込んで来たんかよ。その後ろには、同じく紅く煌めくドレスのブリジット、緑のドレスの私、そして神々しいばかりの白いドレスのセシリー。そう、風のドレスは地のドレスに次いで地味なのだ。エルフの姫君でも着たらピッタリな可憐なドレスなのであるが、いかんせんこのメンバーでは引き立て役に過ぎない。コルセットの地獄の苦しみから解放されたことだけが、せめてもの救いである。
「なっ…!」
王妃様はワナワナしている。王家には風の革鎧と風の剣があると聞くが、私たちの装備が何なのか、なんとなく理解したのだろう。
「いつも田舎臭いだの流行遅れだの厳しいお言葉を頂くのでな、一張羅で罷り越した。その様子だと、気に入ってもらえたようじゃなぁ」
グロリア様が扇で口元を隠しながら、優雅にマウントを取る。今や会場全体の視線が私たちに集まり、王太子と公爵令嬢のお披露目パーティーのはずであった舞踏会が、もはや王妃対義姉のプライドの殴り合い、しかも義姉圧勝のシーンに釘付けであった。
その後は極度の緊張や混乱で、どんなやりとりが行われたのか詳しくは覚えていない。ただ、王妃の一言だけが記憶に残っている。
「よろしい、ならば戦争よ!」
今回はコルセットがあまりに苦し過ぎて主人公が色々錯乱しております。
そして私ごとではありますが、通院や何やかやで、ストックが尽きました。
毎度馬鹿馬鹿しいお話ではありますが、頑張って続きを書きたいと思います。
ちなみにグロリア様の脳内CVは沢城みゆき様です。(*´﹃`*)
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