24(3章1)
今回も、読んでくださってありがとうございます。
夏休みもそろそろ終わり、ぼつぼつ王都に帰らなければならない。ここでグロリア様ともお別れ、と思いきや、
「妾も王都へ赴くゆえ」
と、結局また帯同することとなった。秋は社交シーズン、辺境伯も年に一度は上京しなければならない。いつもは豪奢な辺境伯家の馬車で、何日もかけて優雅に移動していたのだが、ゴーレム馬車の速さと快適さを知ってしまっては、もうあのような移動は無理であるらしい。
一応大名行列には、通り道の領地の様子を視察することと、街道沿いの街々にお金を落とす意味合いもある。今回は行列は夫一人に任せ、「妾は先に王都で待っておりますゆえ」と言い放った。もちろん辺境伯の答えは、「はい」か「イエス」である。
今回も、途中まで辺境伯家の馬車で送ってもらい、そこからゴーレム馬車に飛翔掛けてぶっ飛ばし、王都近くの人目につかないところで王都の辺境伯家の馬車に拾ってもらい、帰還する形となった。
気が重い。非常に気が重い。
なぜかというと、近々王宮主催の舞踏会に参加する羽目になったからだ。グロリア様のご命令…もとい、ご提案なので、断るわけには行かない。
話は属性ダンジョンの攻略まで遡る。
午前と午後は迷宮攻略(という名の一方的ジェノサイド)、夜は砦でまったりタイム。何度も言うが、さながら修学旅行のようであった。かつて私たちと同じく学園に通っていたとはいえ、グロリア様は筆頭侯爵の令嬢、寄り子の太鼓持ちはいても、ご学友というものは居なかったらしい。いち早くタメ口を聞くようになったブリジットを甚く気に入り、女子会と女子トークをことのほか喜ばれた。
自分の胸中をざっくばらんに語るということをしたことがなかったのだろう。貴族にとっては情報が命、何か不用意な一言を漏らそうものなら、それで全てを失うこともある。自分の息子の学友、それもあまり地位が高くなく、そのくせどのような組織からも縛られないほどの力を持ち、しかも自分を対等な友人として扱ってくれるパーティーメンバーに、やがて話の流れから、自分の身の上話を、とつとつと語り出した。
彼女の話をまとめるとこうである。
筆頭侯爵家の長女として生を受けた彼女。長らく彼女以外の子に恵まれず、かといって夫婦仲は良いので、貴族界の慣例である側室などは取らなかった。とりわけ母親が厳しい人で、このまま行けば女侯爵として家を率いなければならないため、彼女には厳しくもしっかりとした貴族教育を施した。
ところが学園入学とほぼ同時に、歳の離れた弟が生まれる。彼女の縁談は、入婿を前提に話が進められていたが、これらは全て白紙に。代わりに、いずれかの家へ嫁ぐという方向に話が変わった。次期女侯爵として周りに侍っていた取り巻きは去り、嫁入り先に付いて行っても十分利があると踏んだ下位の貴族の娘たちと入れ替わった。学園の同学年には当時の王太子もいて、既に別の侯爵令嬢が婚約者候補に上がっていたが、年齢が微妙に離れていたため、彼女が王妃になる可能性も十分にあった。
不幸なことに、産後の肥立の悪かった母親が間もなく逝去。弟は乳母が育てていたが、気がつくと乳母の遠縁という未亡人が侯爵家に出入りしており、そこから彼女の運命が大きく変わる。
あれだけ母を溺愛していた父が、母を亡くした悲しみからか、未亡人に入れ込むようになり、やがて未亡人は後妻の座に収まった。義母には連れ子がおり、なんと彼女と同い年。微妙に誕生日が後になるので、期せずして義妹ができることとなる。何を思ったか、父は義妹を正式に養女に据え、中途入学という形で学園に送り込んできた。そして紆余曲折は省くが、その義妹があれよあれよという間に王太子の寵愛を受け、現在王妃として君臨していると。
次期女侯爵として厳しい教育を受けて、突出した才気と美貌を兼ね備えた彼女。しかし、男の庇護欲をかきたてるばかりの平凡な母娘がやってきて、全てを奪って行った。幸い、学生の頃から高嶺の花の彼女に憧れていた次期辺境伯ことダニエルが、これ幸いに猛烈なアタックを仕掛け、周囲からは熱烈に愛される花嫁として寿がれ、辺境伯家へ嫁ぐこととなったが、いつも愛らしい笑顔を欠かさない義妹が、出立前夜、見たこともない邪悪な笑みを浮かべ、こっそりと耳元で言い放った。
「ごめんなさいねぇ?お義姉様」
「なんか、あらゆるネット小説を煎じて煮詰めたような」
とは裕貴くんの感想である。もしかしたら、この世界は「ラブきゅん学園」とは違う物語もオーバーラップしているのかもしれない。
で、この話がなぜ舞踏会へ繋がるのかというと、「全員で属性装備を着て出席して、義妹の度肝を抜いてやる」ということなのだそうだ。何それやめて。巻き込まないで。
「ほほほ、なぁに、一張羅で挨拶しに赴くだけぞ」
あの後、盛大な結婚式を催し、大々的に王妃の座に収まった義妹。王妃としての資質を疑問視する声も少なくはなかったが、何しろ筆頭侯爵家の後ろ盾があり、最終的には王家が決めたことなので、誰も表立って異を唱えるものはいなかった。
義妹は、社交の時期には必ず招待状を送りつけてきた。半ば貴族の義務であり、全て無視するわけにはいかないので、何度かは渋々参加したものの、毎回何かと恥をかかせ、貶めようと画策してくる。そして必ず「次回も是非、一族郎党でお越しになって」と言い放つのだ。
「ならば行ってやろうではないか、一族郎党で」
その一族郎党に、私をカウントしないで欲しい。まあ私やブリジットは寄り子の娘なので仕方ない部分はあるのだが、裕貴くんは完全にもらい事故である。
なお、当の裕貴くんは、
「私、お城で舞踏会なんて、心細くて…」
とエリオット氏にしなだれかかっていた。
「だ、大丈夫です。貴女は既に十分なマナーを身につけていらっしゃいますし、いざとなったら、わ、私がフォローします、ので…」
へどもどしながら、エリオット氏が漢気を見せようと頑張っている。だが、美少女の上目遣いに視線を合わせられない。向かい側の席の私たちから見たら、猛禽にガッシリ掴まれた子ウサギのようであるが、頑張れエリオット。
かくして、既に魔王を倒して、物語が完全に終わったところで、乙女ゲーが始まっていたのであった。遅ぇよ。
乙女ゲーをベースとした話であるはずなのに、今更になってようやく恋愛要素的な話が持ち上がってまいりました。
恋愛、というとちょっと違うかもしれませんが…。
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