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17(2章5)

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 辺境伯家の滞在は一泊限りで、早々に追い立てられるようにして辞去することとなった。実家のアクロイド子爵家もバートン準男爵家もスルーである。もっとも、子爵家も準男爵家も、小さな村を治めるだけの質素な一族なので、辺境伯子息御一行が来られても、もてなしようがなくて困ってしまうのである。「立ち寄らずに帰るけどごめんね」と伝えてもらったが、「どうぞどうぞ」という返事が来るに違いない。いわんや平民のセシリーちゃんの実家をや、である。


 追い立てられるように、というのは比喩表現でも何でもない。結局、辺境伯家の首脳陣は、一人ずつ順繰りで私たちのパーティーに入り、「是非強化していただきたい」とのことである。私たちの冒険者生活に水を差すようなことさえなければ、一人くらい連れて回るのはやぶさかではない。ただ、帯同は夏休みの間の超級ダンジョン巡りだけにしてもらった。王都の上級ダンジョンの隠し部屋については、情報を公開するかどうかは未定である。スキルの種子を3つほど譲っただけで大騒動になったのだ。いずれどこからか漏れるかもしれないが、それまでは慎重に行こうという閣下とエリオットうじの判断である。そもそもみんな、あの第二の我が家とも言えるブンカー生活を手放したくない。あのマッタリ感は離れ難い魅力がある。




 さて今回、ジャンケンに勝って晴れてパーティーの6人目のメンバーに加入したのは、現・影の長のフェリックスであった。


「すっげええ!すっげええっすよ、坊ちゃん!」


 胸まである黒髪を、左前で一つに結んで垂らしている。黙っていれば目つきの鋭いイケメンなのだが、口を開くと愛嬌のある人懐こい兄ちゃんであった。称号には「ダッシュウッド伯爵家筆頭隠密」とあるが、過去ログをさかのぼると、もっと物騒な称号が付いている。人間、見た目に騙されてはならない。


「はしゃいではいかんぞフェリックス。舌を噛んでしまうからな」


 ゴーレム馬車を超速でブッパする閣下が、前方を注視しながら振り返らずに言う。私や裕貴セシリーくんは、これより速い乗り物に乗った記憶があるし、エリオット氏やブリジットも閣下の飛ばし屋気質には慣れているのだが、初めて乗った人には、このスピードは新鮮に映るのだろう。


「ほへぇ、あの『兄ちゃん兄ちゃん』って俺の後を付いて回ってた可愛い坊ちゃんが、一端いっぱしの男の顔になって…」


 フェリックスの頬は緩みっ放しである。閣下、愛されてんな。


 これまで念の為に辺境伯家の馬車で移動していた私たちだが、辺境伯家がゴーレム馬車のことを既に掴んでいるようだったので、ならば遠慮なく、ゴーレム馬車を出すことにした。念の為に領都のはずれまで馬車で送ってもらい、街道から逸れた場所から馬車を出す。ゴーレム馬車は、パッと見普通の馬車のように見えなくもないが、閣下が尋常じゃない速度で飛ばすので、人目につかない方がいいだろう。


 今回の目的地である水のダンジョンは、北にある山脈の奥地の滝の裏にある。王都からはふもとの村まで50キロほど、乗合馬車で丸1日。辺境伯領の領都からは直線距離で200キロほど、途中山脈を横断する険しい道のりであり、馬車で移動しようとすると、大きく迂回して500キロほどの道のりになるのだが、


「じゃあこっからは飛翔フライで行くね」


 ということで、完全に人里を離れたところで馬車に飛翔スキルを展開。これまで何回か椅子や板で実験してみたけど、大丈夫、ちゃんと飛ぶね。これはゲームにはなかった運用方法だから、成功すると無駄にテンションが上がる。飛翔のスキルは使用者のAGIすばやさ依存なので、200キロならば1時間とかからないだろう。初めての馬車飛行に一行は大興奮、ただフェリックスだけが真っ青になっていた。




 風のダンジョンでもそうだったが、ここ水のダンジョンも入るのに水のスキルが必要になる。いや、絶対必要かといえばそうでなはい、風のダンジョンも飛翔フライスキルがあればすぐに突入できるが、そうでなければ「ワンサカ湧くワイバーンに気付かれずにロッククライミング」が必須。そしてひとたびワイバーンに見つかろうもんなら、身動きが取れない中、集中攻撃を受けるのだ。辺境伯家の皆さん、優れた隠密とはいえ、よくあそこに付いて来ようと思ったもんだ。


 水のダンジョンの潜入に必要なのは、水の羽衣スキル。火属性の炎の羽衣とついをなし、炎ダメージと水ダメージを軽減または無効化する。この羽衣で体の周囲を水で覆うと、それより外側の水の影響を受けない。回り道のない大瀑布の裏側にあるダンジョンに入ろうと思ったら、必須のスキルである。私たちのパーティーには水属性はいないので、正直水属性装備は諦めるか、風属性スキルの暴風トルネードなどで水を巻き上げてゴリ押しして入るか、どっちかだと思っていた。


 ところが半年前、閣下の地形操作ランドスケイプスキルで最終ダンジョンに入り、魔王を倒したばかり。その後閣下もエリオット氏もパーティーに残留することが決まり、今回水のダンジョンの周回を決めた。


「ランドスケイプ」


 閣下の一声で、滝の底の岩が盛り上がり、形を変え、滝の裏までのトンネルができた。こんだけ大規模に地形を変えると、MPをバカみたいに消費するが、INTかしこさを中心にステ振りしている閣下には問題にならない。無事トンネルが出現したところで、滝のほとりにブンカーを建て、そこからトンネルまでを遊歩道でつなぐ。閣下マジ便利…いや優秀。


「さ、レッツラゴー☆」


 今回まったく役に立つ予定のない火属性のブリジットが先頭に立つ。なお、フェリックスうじ(彼もうじに格下げ)は、相変わらず青い顔で、存在感を消してついて来ていた。ああ、弱いので殿しんがりはダメだからね。真ん中くらいでついてきてください。

飛び飛びの更新になりますが、もしよかったらお付き合いください。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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