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12(1章完結)

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 セシリーこと裕貴君は、お姉さんが乙女ゲーを好んでプレイしていたため、乙女ゲーとは大体どういうジャンルのゲームかは知っていたが、この「ラブきゅん学園♡愛の魔王討伐大作戦♡」というゲームについて、詳しいことは知らなかったそうである。この学園に入学してから地味に不可解なイベントに巻き込まれ、じわじわと前世の記憶を思い出して行ったとのこと。自分が光属性で、髪の色がピンクということで、なんとなく自分がヒロインなんじゃないかと思わなくもなかったが、気づかないふりをしてここまで来たと。


「乙女ゲーに転生とか、ネット小説じゃないんだから…」


「まあ、せっかく有能美少女に生まれ変わったわけだし、ログアウトできないVRMMOだと思って楽しんだら」


「よくありますよね、そういう話!他人事だと思って…」


 裕貴君はさめざめと泣き出した。だって他人事だし。


「まあさ、魔王倒したら教会から聖女様って崇められて、地位も名誉も思いのままよ。教会が嫌なら冒険者なって旅に出たっていいし。教会や王宮から取り込まれそうになったら、デイモン閣下に雇ってもらったらいいんじゃない?」


 その代わり、辺境伯家には取り込まれるだろうけどね。まあデイモン様の人柄からして、悪いようにはしないだろう。とりあえず、来年の12月までにレベルアップと装備を整えて、魔王倒して、そっから考えてもいいんじゃなかろうか。


「えっとアリスさん、その魔王の討伐なんですけど…魔王って、復活しないと倒せないんですか?」


「と言いますと?」


「えっと、魔王がポップする前に復活を阻止するのって、できないのかなって…」


 その発想はなかった。




 次の土曜日、辺境伯家の馬車で、王都近くの小高い丘までやって来た。この丘の中腹に、ちょっとした廃墟跡があるのだが、実は地下には結構な規模の神殿が埋まっており、その祭壇がまさに魔王の復活降臨地点である。この遺跡の中に至るには、伝説の宝錫ほうしゃくや古びた鍵などが必要なのだが、閣下には地質や地形を操作するランドスケイプのスキルを取っていただき、遺跡を塞ぐ土砂をどけてもらった。なんだ、伝説のアイテムがなくても、土属性スキルで入れるじゃないか。


 中はラストダンジョンになっていて、どんな魔物がポップするのか、場所も道順も覚えているのだが、まだ準備中なのか、魔物が湧く気配がない。トラップは作動するようだが、念の為、エリオットうじに解錠スキルとトラップ除去スキルを取ってもらったところ、難なく解除して事なきを得た。さすがDEXきようさお化け。


 ゲームのスチルで見た通り、祭壇には宝玉がまつられており、周囲にはちょっと嫌な空気が漂っている。宝玉めがけて、裕貴くんにホーリーレイを浴びせてもらうと、閃光が走り、宝玉が割れた。途端に神殿が揺れ、壁がポロポロと崩落を始めたので、全員にアクセラレイトを掛けて一気に脱出。外に出たところで、ズウウン…と地響きがして、丘の中腹の地面が陥没。これ、ゲームで見たわ。ゲームと違うところは、これがゲームよりも一年早く起こったことと、主人公セシリー以外、名前も出てこないモブ未満しかいないことだ。


「終わった…のだろうか…」


「あー、多分。ゲームのエンディングで見たのと同じ感じですから」


「お疲れ様っした〜☆」


 ブリジット以外、みんな何となくしょっぱい顔をしている。裕貴君含む男子組は、魔王の復活を阻止しに来たにもかかわらず、どこかしら「魔王と戦って倒す俺」に憧れていたらしい。なんかごめん。




 かくして、魔王討伐というか、魔王の復活阻止は、誰も知らない間にひっそりと完遂された。王宮と学園から何人か失踪者が出て、ちょっとした騒ぎになったが、それも数ヶ月もすれば忘れ去られて行った。春休みが終われば、ブリジットは飛び級して、全員揃って三年生に進級することになっている。


「はい上がり〜☆」


「何だとッ!」


「相変わらずブリジットさんの強さは神懸かってますね…『ラスイチ』」


「あの閣下、お気を悪くなさらず…リバース」


「ありがとうございますセシリーさん、上がりです」


「ぬおおお、出すカードがない!」


「そんだけ手札お持ちなのに…『ラスイチ』」


 閣下の弱さも神懸かっている。あれから私たちは相変わらず、アイスを狩りながら、ブンカーでまったりと過ごしていた。


「魔王倒しちゃったし、やることないんですよねぇ…」


 卒業後、閣下とエリオット氏は辺境伯領に帰ることになっている。彼らは高レベルでないと取れないスキルをうっかり取ってしまったため、学園から実家に成績通知で知られてしまった。辺境伯家からは、兄ではなくてお前が継ぐか、みたいな手紙が来て、「帰ったら揉めそう」ということで憂鬱顔。エリオットうじも、これまで散々冷遇しといて、手のひらクルーだそうだ。スキルを取らせたのは私なので、一抹の罪悪感。まあ、ゴーレムもいかずちも、本人ノリノリで楽しんでたんだから、許してちょんまげ。


 ブリジットは、当初の予定では王都で貴族に見初められる計画だったが、下手な貴族に輿入れするよりも冒険者の方が儲かんじゃね?ってことで、王都に残る予定である。私も同感だ。これから同家格の貴族に嫁入りして、慎ましく暮らすビジョンが見えない。うちもブリジットん家も大した家柄でもないし、家は兄弟が継ぐ予定なので、実家には帰らずに冒険者になって出奔しようという計画である。


 セシリーちゃんこと裕貴君からは、「それなら僕も混ぜてください」ということで、参加表明をいただいた。正直私たち二人では戦力的に不安だったので、渡りに船。コンゴトモヨロシク。


「ならさあ、店売りの装備じゃショボいから、属性の武器防具を取りに行かなきゃね」


 店売りどころかほとんど初期装備の我ら、冒険者になるならそれに見合った装備を揃えておかなければ。


「属性の、ですか?」


「火・土・風・水・光・闇の各属性超級ダンジョンがあってね、そこでそれぞれの属性の武器防具が取れるのよ。ホラ、主人公と攻略対象には伝説の武器防具があるけど、NPCには無いじゃない?そこで揃えるようになってんだよね〜」


「なるほど!」


「あっ、ずるい!私にも属性の武器防具が!」


「私も欲しいです!」


 辺境伯組が食いついた。ならもういっそ、みんなでこのまま冒険者やるのもいいかもしれない。


「とりあえずじゃあ、春休みの間に、風のダンジョンから回ろっか。風属性には土属性が有効だから、閣下のゴーレムで一気にゴリ押すのが一番楽かなって」


「よし、それで行こう!」


「ちなみに風の超級ダンジョンってどこにあるんですか?」


「王都の西の、ワイバーンの谷んとこ」


「「「「ワイバーンだって(ですって)?!」」」」


 そう、各超級ダンジョンは、竜が守るダンジョン。亜竜がワンサカ出て、ラスボスの竜を倒すと、その属性の武器防具が一つもらえて、出口に戻される。それを地獄の周回マラソンするのだ。もちろん、ワイバーンは雑魚敵であって、ボスはトルネードドラゴンという強敵なのだが、


「道順も攻略パターンも、まーかせて!」


 安心してください、覚えてますよ!


 アリス先生の次回作にご期待ください。

おかげさまで、完結まで書き終わることができました。

これもひとえに、このお話を読みに来てくださった皆様のお蔭様です。


今回も読んでくださって、ありがとうございます。

拙い作品ですが、評価、ブックマーク、いいね、心の支えにさせていただいております。

温かい応援、心から感謝いたします。

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