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新連載を始めました。

読んでくださって、ありがとうございます。

「えー、昨日、学園のダンジョンから、モンスターがあふれました」


 担任教師が開口一番、そんなことを言った。幸い、弱い魔物が少し出てきたくらいで、教師が無事鎮圧したこと。そして数日間ダンジョンは閉鎖され、冒険者ギルドから冒険者が派遣されて、調査されること。調査が終わったら、これまで通り実習ダンジョンは解放されること。


 これを聞いて、ふと思った。あれ、このイベント、ヒロインと攻略対象が片づける奴じゃない?今は二年の九月、もう誰かのルートに入っているはず。そうでなければ、友情ルートで親友の男爵令嬢と…




 ルートって何だ。


 イベントって何だ。


 そこで唐突に思い出した。私は、この世界を知っている。今この世界を生きている、アリス・アクロイドではなく、どこか遠くの世界でまったく違う人生を生きていた私が、この世界を物語のように冒険していた記憶がある。


 その記憶によると、この世界にはヒロインと言われる平民がいて、世界を救う聖女となること。世界を救うにあたって、パートナーとなる恋愛対象候補が何人か存在して、聖女の選択によってそれが変わること。恋愛対象はなぜか上級貴族の子息ばかりで、恋愛を進めていくにあたり、身分差や恋敵に阻まれるのだが、聖女と判明して世界を救うことで全部チャラ。なお、友情ルートの男爵令嬢っていうのがまた曲者で…おっと、これ以上のネタバレはやめておこう。




 この物語のダンジョン氾濫イベントは、前述のとおり、二年の九月に発生する。現在、私もこの学園の二年生であり、この物語の主人公たるヒロインと同い年である。ふと同級生を振り返ってみると、確かに平民から特待生でこの学園に入学した生徒が、何人かいる。そのうち、髪がピンク色で光魔法が使えて、というと、きっとセシリー・クラムという生徒だろうが、特待性はみな、至極常識的で勉強熱心で、とても上級貴族と浮名を流すようなタイプではない。


 また、相手役たる上級貴族の子息たちも、平民に手を出すほど迂闊な者はいない。彼らは、爵位を金で買ったような名ばかり貴族ではなく、由緒正しい正真正銘のお坊っちゃまたちである。遊びなら遊びで、それにふさわしい場所にも相手にも不自由はしない。まかり間違ってご落胤らくいんなんてことがあれば、ちょっとしたおいたでは済まない、家や領地や諸々にまでアレがアレして超面倒臭いことになる。そんなことくらい、よく教育されて、分かりきっているのだ。


 なお、上級貴族の子息たちには、もれなく婚約者が定められているが、彼女らもまた、そんな子息にふさわしく、至極常識的な子女であった。徒党を組んで誰かを罵ったり、水を掛けたり教科書を破ったり階段から突き飛ばしたり、そんな姑息でみみっちい失態を犯すことなどない。本物の貴族、もっと怖い。


 そう、みんなマトモなのである。


 だから、物語のように、キャッキャウフフの青春群像劇なんて、なかった。


 まだ何も始まっていなかったのである。




 だがしかし、ダンジョンの氾濫は起きてしまった。本当は学園の実習用ダンジョンの最深部で、ヒロインと攻略対象が放課後デート、もとい実習をしていたところ、コアに異常を発見し、普段出現しないはずのモンスターを倒し、そこから物語が魔王討伐へと進んでいくのだが、昨日は誰も最深部まで行かなかったらしい。


 コアの異常とモンスターの討伐は、プロの冒険者がやってくれるとして、これって、物語は始まっていなくても、魔王復活は始まってるってことなんじゃないの。


 翌日、冒険者が派遣されたが、ちょっとコアの調子がおかしいっスね、コボルトソルジャーが一匹湧いてましたが倒しときましたんで、で終了。ちょっと待て、何だその水道修理業者みたいな。じゃあよかった、またダンジョン再開しますんでじゃねぇよ、学園も学園だ。


 この世界で、これが魔王の復活の予兆と知っているのは、多分私一人。そして、これが魔王復活の予兆ですって言っても、誰も信じてくれる予感がしない。なぜならゲームでは、ヒロインと上級貴族の子息が、方々を説得して回っても、誰も信じてくれなかった流れなのだ。王太子でさえも。そして上級貴族の特権で禁書を読み漁ってやっと魔王の出現場所を特定し、討伐してからやっと「あれって魔王復活だったのね」ってなるんで、子爵令嬢たる微妙な立場の私が「これ魔王の復活の予兆なんです」って主張を始めると、どこか遠い教会の修道院に送られる可能性しか見えない。


 なお、上級貴族の特権で禁書庫から伝説の魔導書を持ち出して禁呪を習得し、同じく宝物庫から伝説の武器防具を持ち出して、復活して間もない魔王をポップ即キルしたからセーフだったんで、魔王なんて普通とても貴族学園の生徒が倒せるような代物ではない。そして貧乏子爵令嬢の私には、伝説の禁呪も武器防具もございません。今あるのは、学園から最初期に配布されたローブ、杖、そして一年で習った初期魔法のみ。手持ちのお金はごくわずか。ラスボス魔王戦は来年の十二月。これってもう詰んでるのでは。


 いや、まだだ。まだ終わらんよ。このゲーム、全対象者攻略に、隠しキャラ隠しルートまで全クリして、一体何周したと思ってるんだ。本編に出ないモブだからって、諦めたらそこで試合終了ですよ。乙女ゲーの廃プレイヤーの底力を見せてやる。まずは仲間探し。


 俺たちの戦いは、これからだ!


 アリス先生の次回作にご期待ください。

既存の連載の続編がまとまらないので、気分転換に新連載を始めました。

短い話で終わる予定ですが、よかったらおつきあいください。


評価、ブックマーク、いいねなど、いつも温かい応援ありがとうございます。

とても励みになります。

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