平民は公爵令嬢と仲良くなりたい〜しかし王子様が付き纏ってくる件
「新入生代表、ヒイロ〓レイナール前へ」
そう言われ、私は壇上へ行く。
心臓はドクドクと不思議なくらいに音を立てるが、
表面上は取り繕っている、と思う。
壇上に立つと、見たこともない数の貴族、そして私と同じ平民で席はきっちり埋まっていた。
私は、いつも通りを意識しながら、
息を深く深く、吐く。
「…新入生代表、ヒイロ〓レイナールです。」
「なんで、あんな子が…」
動揺で俯くと共に、彼女の美しく手入れされた黒髪が波打った。
小さな声は、ヒイロの声にかき消された。
「ここが、私の教室…」
私は、1一1の純白の教室をみて、あぁ、綺麗だけど汚さないようにしないと…と思った。
中には、平民と貴族たちが1:3くらいでいた。
グループはもうだんだんと出来ている。
一人の女の子が手を振る。
私は振り返して、その子の元へ近づく。
「良かったぁ…女の子がいて」
ホッとした様子でつぶやいた。
「私は、メメ。よろしくね、新入生代表の挨拶してたよね?凄いなあ…」
「ありがとう。メメって呼んでいい?私も、ヒイロでいいよ」
「分かったわ、ヒイロ」
「ふぅ…終わったぁ〜!
以外と簡単だし、先生の説明も分かりやすかったから、1位をキープしてお金免除は狙えそう」
放課後になり、ホッとして呟く。
これできっと、私の夢も……
「ヒイロ〓レイナールさん」
「え?」
私は、顔をあげると、黒髪に黒い瞳のツリ目の美少女がいた。
この独特な雰囲気は、貴族だろう。
冷たい印象がして、顔の表情は怒っているよう見えた。
気づくと、周りは遠巻きに私たちを見ている。
メメは心配そうだ。
「放課後、少し付き合ってくれないかしら?」
「分かりました…」
私は、少し顔が強張るのを感じたのだ。
なにか、私が怒らせるようなことをした?
分からないけど、行ってみるしかないだろう。
「こっちよ」
私は、黒髪の彼女、マリリア〓グランドールに早足で手を引かれていく。
「あの、グランドール様」
「さん、よ。」
「え?」
「グランドールさんと呼びなさい」
「グランドールさん、どこに向かって…」
「着いたわよ」
「図書室?」
「ええ、あなた、自習道具は持っているわよね?」
「はい、ありますが…」
「わたくしに、勉強のコツを教えてほしいの。
身勝手なこととは、分かっているわ。
でも、どうしてもお願いしたいの。
お金でも、欲しいものでも、私のできる範囲ならいくらでも、あげるわ。」
「そ、そんな大層な勉強はしてませんよ、私!」
「それは、私が見てから決めることよ。だからどうかお願い!」
「え、ええっと…」
彼女の後ろから、金色の瞳と髪の、この国の第一王子殿下が見えた。
どこからどう見ても、完璧な王子様だ。
「マリリア〓グランドール」
「殿下!?」
「平民を、それも主席を虐めるととはどういうことだい?
君もこの国には優秀な人材が必要なことくらい分かるだろう?
ヒイロ〓レイナールさん、怖かっただろう、もう大丈夫だ。
さぁ、こちらにおいで。」
そう言って、美しい殿下は柔和な笑みで、私に手を差し伸べた。
何となく、貼り付けたような笑みだ、と思った。
だって完璧すぎるから、それが逆に違和感なのだ。
「私、グランドールさんに、いじめられていません。お気遣いありがとうございます、第一王子殿下」
殿下は、意表を付かれた少年のような表情をした。
こちらの方が、私には自然に見えた。
「グランドールさん、一緒に勉強する予定でしたよね。早く行きましょう?」
「え、ええ。それでは、殿下、失礼いたします。」
彼女は私の耳元で、ありがとう、といった。
私も如何致しまして、と返した。
「面白い……ヒイロ〓グランドール、か」
第一王子の呟きを聞くものはなかった。
「そして、ここが、こうです。」
「ええっと…どうしても、こうとは思えないのよ。」
「では、もう一度説明しますね」
「ありがとう、でも、本当にいつもこんな感じの勉強しかしないの?」
「はい。無理なことは、続けれませんから。
自分のペースでやることが、大切なんです。」
「そう…」
グランドールさんは、不満そうだった。
「ねぇ、また教えてもらってもいいかしら?」
「いいですよ、私も復習になりますし」
「何がほしいの?」
「…へ?」
「それとも、お金がほしいの?」
「何も、いただけませんよ!」
「…どうして?お金を払わないと、釣り合わないでしょう?」
「そんなことありません!友達に、お金なんていりませんよ!」
「ともだち?」
「あっ…ごめんなさい、グランドールさんはそう思っていませんでしたか?」
「ええっと……友達って、お父様やお母様に紹介される人のことでしょう?」
「え?貴族の方はそうなんですか?
私は友達は自然に一緒にいる
仲の良い人と思っていましたが…」
「その、仲の良い人がわたくしでいいの?」
「もちろんです!」
「…わたくしのこと、怖くない?」
「最初はちょっと…でも、話すうちにグランドールさんがいい人だって、すぐに分かりましたから。」
「リアでいいわ。わたくしの愛称よ」
「私のことは、ヒイロって呼んで。私にも、愛称があったら良かったんだけど…」
「ふふふっ…無理に考えなくていいわよ」
「あ!リアやっと、笑った」
「え?」
「だって、ずっと沈んだ顔だったから」
「そういえば…そうね。久しぶりに笑ったわ」
「あっ!そろそろ、寮に行かないと…」
「あら、確かにそうね。急ぎましょうか」
次の日
「あ、ヒイロ。大丈夫だったの?」
「何が?」
「グランドール様のとこよ」
「大丈夫、友達になったから。マリーって呼ばせてくれたの。」
「えっ……ホントに?」
「ええ」
「でも、彼女は冷徹の公爵令嬢って呼ばれているのよ?」
メイは尚も不安そうだった。
「冷徹?きっと、皆勘違いしているのよ。
昨日は一緒に勉強していただけだし。」
「う〜ん、でも、ヒイロなら大丈夫かな…」
メイは、独り言のようにつぶやいた。
「どうして?」
「ヒイロは強そうだから」
「どういう意味?」
「そういう意味」
そう言って、メメは微笑んだ。
放課後
「ヒイロ〓グランドール、少し話しをしないかい?」
第一王子殿下が、まだ人の多い教室へやってきて、開口一番そう言った。
拒否できる雰囲気ではなかった。
「あの、第一王子殿下。
このあとは、図書室へ行く予定なのですが…」
「すぐに終わらせるよ。」
王子は、ずんずん進んでいき、使われていない古い校舎の中へ入っていく。
古い校舎、と言っても整備だけはされているようで、チリ1つ積もっていない。
流石、貴族も通う学園だと思った。
王子は、廊下の行き止まりで止まると、こちらを振り返った。
優しい、完璧すぎる微笑みだった。
「僕の、側室にならないか?」
「…え」
「一目惚れなんだ、どうだろうか?
不自由はさせない。
この国の前進のためにも
平民でありながら前代未聞の主席である
君には期待しているんだ。」
「…ごめんなさい、お断りします。」
「どうして?」
「私は、実家の食堂を継ぎたい。
そして、大きくしたいんです。」
「それなら、僕が何とかできるよ。
最高の食材と設備を用意しよう。
人材だって派遣できる。」
「自分の力でやり遂げたいんです。
私は平民です。
平民には、平民のやり方があるんです。
強制というのなら、私は逆らえません。
ですが、任意と言うなら、私はその道を選びません。
ご期待に添えず、申し訳ありません、第一王子殿下」
私は、頭を下げた。
「そうか……いや、僕の方こそ悪かったよ。
君のことを考えていなかった。」
私は、頭を上げかけたが…
「でも、これで終わるとは思わないでね」
第一王子殿下は、最後に、引き止めてごめんね、と言いながら去っていった。
私は、しばらく固まっていた。
「何で……」
マリリア〓グランドールは、授業が予定より早く終わったために、ヒイロを教室へ迎えに行ったのだ。
しかし、ヒイロが第一王子に連れて行かれたと聞き、追いかけたのだ。
マリリア〓グランドールは走る。
図書室へ行くことなど、遠に忘れていた。
次の日もその、次の日もマリリア〓グランドールは図書室へ来なかった。
代わる様に、王子が図書室にきて、ヒイロにこの国の政情や他国のことを教えていた。
時々、側室にと言う話もあったが、ヒイロはその都度断っていた。
そんなある日…
「殿下、ヒイロ…」
「リア!」
「…」
三人は、鉢合わせた。
マリリアは、暗い顔をしている。
ヒイロが初めてあったときよりも、酷く疲れていた。
第一王子は、周りの生徒を無言で統制する。
マリリアには、それがヒイロを愛しているために思えて仕方なかった。
「殿下、なぜ、ヒイロばかり構うのですか!未来の、王妃はわたくしですよ!」
「そうだね、王妃は君だ。しかし、ヒイロには側室になってもらいたい。
僕は、君よりヒイロの方に期待しているんだ。」
マリリアは、いつも周囲から期待されてきた。
第一王子への密かな恋心もあった。
だからこそ、その期待に答えるために、お后教育も黙って受け入れてきた。
マリリアの心はいとも簡単に、折れた。
マリリアは逃げる。
まだ、15歳のマリリアにとって、それは酷く受け入れがたいことだった。
ヒイロは、王子が止めるのも聞かずに、追いかけた。
「リア!」
「ヒイロ…なんで来たのよ!放おって置いて!どうせ、笑いに来たんでしょ!?」
「友達にそんなこと、するわけないじゃない!」
「友達なんかじゃない!わたくし………
……わたくしはヒイロに嫉妬、ばっかりで!
でも、ヒイロは優しくてぇ、それが
ヒック、余計に、苦しくて…」
「ごめんね、リア」
「……ぐすっ、謝らないでよ。
駄目なわたくしが、勝手に…ヒック、泣いて、喚いているだけ…だからっ」
「リアは駄目なんかじゃない!
リアは私より真面目で、ちょっぴり不器用だけど、
頑張り屋で…
それが、周りからは冷たい人だと見えても、私はリアがとっても素敵な人だって知ってるから!」
「でも、わたくしはヒイロより、勉強も出来ないし
殿下の婚約者としても半人前で、すぐに感情的になってしまうし…」
「ねぇ、リア。私は料理が好きなの。
食べるのも、作るのも。
リアの好きなものって、なぁに?」
「…わたくしは……そうね、あまり考えたことがなかったわ」
「何でもいいのよ。自分の心が暖かくなるものだったら」
「…花が好きかも。わたくし、ガレージに花を植えているの。
時々触ったり、香りを感じたり…」
「なら、リアはお花をもっと、楽しみましょう?
后教育も大切だけれど、一番大切なのはリアの気持ちよ。
気持ちが、満たされていないと、どんどん自分を見失ってしまうの。
自分を見失ってしまったら、あとに残るのは自分だった抜け殻だけ
そんなのって、つまらないじゃない?
リアは十分がんばってるよ?
背負い込みすぎないで、人には限界があるの。
私だって、そう。
私、第一王子殿下とお話しているとき、中々理解できなかったわ。
第一王子殿下は、私よりも沢山のことを知っていたの。
学園の入学テストでは、手を抜いていたみたい。
だから、私が主席だった。
ね?リアも第一王子殿下や私のように、適度に手を抜いてみない?」
「ヒイロ」
「どうしたの、リア?」
「ふふふっ、何でもないわ。呼んでみただけよ」
「ヒイロ、マリリア」
第一王子殿下の声がした。
「あら、殿下、また来たのですか?」
「つれないなぁ…前は殿下、殿下と言っていのに」
第一王子殿下はリアの言葉に苦笑いする。
「自業自得ですよ、第一王子殿下」
「これまた、手厳しいね。なら、差し入れは要らないかな?」
「是非お話しましょう!」
「もう、リアったら」
マリリアは笑った。
「マリリア、そろそろ名前で読んでくれないかなぁ?」
「ふふふっ…嫌ですよ、殿下」
第一王子殿下は、項垂れた。
「…でも、リアと呼んでくれたら構いません」
「……リア、見る目がなかった僕を許してほしい。
そして、ヒイロ。リアの友人になってくれてありがとう。
どうかこのまま、友人としてリアを支えてほしい」
「もちろんです!」
「質言は取ったからね?」
「殿下」
リアは第一王子殿下を睥睨する。
「っ…冗談だよ」
「冗談には見受けられませんでした、けれど?」
「あはは、悪者は退散するよ」
第一王子殿下は、両手を上げてお手上げの表現をしながら、席を立ち上がる。
「私、リアとは一緒にいたい。」
「ヒイロ?」
「殿下、私は家を自分の力で立派にしたいです。
その後でいいなら、私を側室にしてくれませんか?
平民が、貴族に会うのは難しいですが、貴族が平民に会うことは、そこまで難しくありませんよね?」
「そうだね、城下にお忍びに行く貴族は以外と多いよ。」
「なら、私は側室になります。」
「本当に、いいの?ヒイロ」
「ええ、私はリアが大好きだから」
「ヒイロ…わたくしも大好きよ」
──End
久しぶりの投稿です。