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王宮

 5つの国の一つである龍国は5つに分かれている。


 北部、東部、南部、西部、王帝都がある中央である。王都では、王帝の住まう王帝宮を中心に放射線状に道が伸びている。この国では王帝は太陽とされているため、そのような造りとなっているとされている。


 王帝宮には皇子や皇女が住まう屋敷、王帝の妾が住む後宮、王帝と正妃が住む本宮、政務を行う政務所がある。


 公主の住まう屋敷は各々の公主毎に設けられている。生母と住むには、王帝が存命の時と限られている。ただし、リゲルに至っては、王帝が死んだとき、リゲルの年齢が幼かったため、母と暮らすことを認められた特例である。


 中央にある第一公主の別邸で男は酒を飲んでいた。

 リゲルの兄であり、現王帝の弟であるカイルは眉を寄せて酒の入った杯を眺める。


 現王帝が末弟のリゲルを可愛がっていたのは知っていた。だが、それは、幼さ故の愛しさと思っていた。だが、それは思い違いかもしれない。


 現王帝には子供がいない。だから、現王帝の死後、私がその玉座に座るものと思っていた。

 私が玉座に座る事が叶わなかったとしても、息子は座れるだろうと信じて疑わなかった。


 だが、たまたま聞いてしまったのだ。

 政務所内の王帝の謁見の間で、リゲルと現王帝の会話を聞いてしまった。


 現王帝はリゲルを養子にしたいと願っている。だが、リゲルは突っぱね続けていた。それでも、あの日見た末弟はあまりにも兄に酷似していた。

 

 胸の中を闇のような真っ黒な疑念の感情が埋め尽くし、兄がなぜリゲルにこだわっているのか、腑に落ちていった。


 そんな事、黙認できるわけがない。


 だから、一つの噂を流した。静かな水面に一石を投じ、水面の揺れが岸へとたどり着き、周囲に波紋を生じさせる。


 カイルは杯の中に残っている酒を飲み干し、本宮へ赴いた。


☆彡☆彡☆彡


 本宮では寝巻き姿の王帝が、現れた。案内されたのは寝屋の隣にある続き間だった。

 王帝は何故か護衛を払うと、カイルと二人だけで、続き間にいることにした。


 中央に卓と二脚の椅子がある。

「普通は謁見の約束をするものだ」

 王帝は椅子に腰掛け、髪をかきあげる。


「王帝様だからですか?」

 カイルは王帝が差し出した椅子に腰掛ける事なく、立っていた。


 現王帝は眉を寄せる。

「一般的な事だと思うが?」

「そうですね。貴方が私ではなく、リゲルを特別視するのは真っ当な事だと?」

「どういう意味だ?」


 卓の上に手を置くと、王帝がカイルを睨め付ける。

「リゲルは貴方の子ではないのですか?」


 暫く沈黙した時が流れた。

 

「それはどういう意味だ? 見たところ、お前は酔いすぎている。今のは聞かなかったことにしておく」


 カイルの言葉に王帝は取り合うことなく、椅子から立ち上がった。


「貴方の息子を認めるわけにはいかない、と言っているのです」


 王帝はカイルを静かに見る。

「私が投じた手で、そのまま北部で死に腐ってほしいものですよ」

「自分の欲に駆られ、自国の民を殺す気か? そんな考えだからお前に玉座は似合わない」

「なんとでも言えば良い。リゲルは北の大地で冷たい骸となるか、他国へ攻め入った責を負う。そして、それは貴方も同罪となる」


 王帝はくすり、と笑った後に空を見て、声を上げて笑う。


「お前は本当に頭が悪い子で助かるよ」

 王帝は先刻まで座っていた椅子に、再び腰を下ろした。


「いやいや、そんな言葉は酷いな。余はむしろ、お前に感謝をしなくてはならないね。あの子たちが私の手元にやっと戻ってくるのだから」

「なんだと?」

「あの子は北部へ行く前に余に会いにきた。北部へ出兵するのを許す代わりに、余の養子となった。あの子は次期国王帝だ」


 カイルの表情は曇った。

「愚かなことを。だが、北部でどうせ命を落とす」


 王帝は卓の上に置かれた水差しを一口飲むと、楽しそうに笑った。

「あの子を殺せる手練れは、この国にはおそらくいないだろうね」

「リゲルは武術を習ったことなどない。頭がよくても、武術がなければ戦場では、なんの意味もなさない」


 王帝はカイルの話に興味がないと言いたげに、自身の指にはめていた指輪をくるくると弄びながら、カイルに応える。


「ああ、だとしてもあの子には敵わないだろうね。だから、あとは、カイル次第ということだ」


 王帝は唇を自身の指でなぞり、水差しを一口飲んだ。


「知っていたか? この部屋には敢えて二人だけなのだと」


 カイルは何かを気がついたように王帝が弄んでいた指輪を見た。指輪の内側に白い粉のようなものがついていた。


「これは砒素か」


 王帝は口から血を流し、青ざめた顔を見せる。


「余が命を落とせば、お前はいい逃れができない。ここは二人だけだからな。これは他の者への牽制となる」


 王帝は口から血を流しながら、笑った。


「そんなにも、私が憎いか?」

 

 カイルは血を吐く王帝に恐怖を感じた。すぐさまこの場から離れたいが、恐らく兄と話すのが最後と思うと妙に名残惜しく感じ、部屋を後にできないでいる。


「如何なることがあろうとも、民を危険に晒すなど、あってはならない。愚策だ。自国で争いなど愚か者のすることだ。それに、お前は余のものを奪ったからな」


「リアンか」


 吐き捨てるように、その一言を言った。

 徐々に虫の息となる王帝を見ながら、カイルは部屋を後にした。


 王帝はわざと寝室の扉を開け、そこに控えていた兵に弟を捉えさせた。

 カイルは素直に捕まると、ベッドに横たわる兄を見る。


「命をかけてまですることだったのですか? 兄上」


 王帝は息を上げながら寝室の天井絵を見ていた。


☆彡☆彡☆彡


 20年前、リアンを自身の后に迎えたいと思っていたシリウスは、父である国王帝にリアンを謁見させた。


 リアンの美しさに父が目を奪われていたのは知っていたが、息子の妻となる女をとるほど節操がないわけではない。

 だから、シリウスはリアンを紹介した。


 だが、カイルが父を誑かした。


リアンでは身分が低いからと言って、この婚姻を破断し、右大臣の娘をシリウスの正妃に差し出した。

 

 そうしてリアンは王帝の妾となり、シリウスは別の者と結婚した。


 だが、リアンが父に抱かれることはなかった。父の正妃である母が娘のように可愛がっていたリアンを色欲の王帝に触れさせなかった。


 母である正妃の計らいで後宮にいるリアンと一度だけ会ったことがある。

 シリウスは後宮の隅で花の手入れをしているリアンを見た時、彼女の唇に触れずには居られなかった。


 暫くしてリアンが身籠もったと母から聞いた。

 父が気がつく前に、他の妾が妊娠に気が付く前にと、母は自ら毒を口にした。


 母が具合が悪くなり、父は後宮には行かず、母の世話をするようになった。

 そうして後宮の騒ぎから父を隔離し、リアンを敢えて後宮の隅に隠して、孫となる腹の子とリアンを守りぬき、死んだのだ。


「私はその女の息子だ。子のために自ら命をかけるなど容易い」

 

 息を上げながら、小刻みに震える身体でシリウスはそう呟いた。

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