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北部

 トンネルとは山に穴を開けて、山の先にある土地への交通を容易にする行為である。


 第二部隊のトンネル工事も順調であることを聞き、リゲルとポルクスは自身たちが作った地下道を渡って北部の土地へ偵察に向かった。


 地下道には補強も必要だが、リゲルの放つ炎で岩や土の中に含まれている金属や岩そのものが溶け、固まったので、すぐに崩落するような作りとはなっていないが、いかんせん見栄えがあまり良くない。

 咥えて、地下には定期的に地上とつなぐ入り口を作っているものの、光がなく、暗闇の距離が長く続くので、灯りが少ない中、兵士ではないものが歩行をするには足元はゴツゴツしており、転倒の恐れが尽きない。


 リゲルとポルクスはリゲルが手から生み出す火のおかげで暗闇すぎて困ると言うことはないが、課題も多そうであることは確かであった。


 地下道の終盤である光を見つけ、外に出ると、驚くほど真っ白な銀世界が広がっていた。


 元々人が通りそうにない場所に地下道の出口を作ったが、人の足どころか動物の足跡すらもない雪を見て、リゲルは呟いた。

「真っ白だな」


 リゲルは吐いた息のあまりの白さからそう言った。


 ポルクスは寒そうに身を縮こまらせる。

「北部の冬は毎年こんなものだ。他の土地と断絶しているから、冷えた海風が冷山にぶつかり上昇し、この地域に雪を降らせる」


 ポルクスは足跡のついていない雪を踏む。


「そうして雪のせいで余計断絶する。冬場の北部はこの国の中ではそう言う扱いだ」

「そう言うって?」

「貧乏人や物乞いは金持ちからは人として扱われない。見向きもされない。だから、何がなんでも這い上がるしかないんだ」


 リゲルはポルクスの後を歩く。

 ザクザクと雪を踏む音が周囲に響く。


「だから、中央の官吏の学校へ来たのか?」

「底辺から這い上がるのに一番簡単かつ最速で効果的な方法が勉強だ。勉強さえできれば機会は自ずとやってくる」


 なるほど。


「ポルクス、わざと地下道とトンネルを作らせたな」

 

 ポルクスは立ち止まり、後方を歩くリゲルを見る。


「わざと、ではないよ。トンネルも、地下道も中央と北部をつなぐ交通の要所になるし、再利用ができるものは再利用する方がいいよね」


 ポルクスの顔は明るかった。

「国のお金を使って、交通手段を得られたのは今回の遠征で1番の得策だよ」


 リゲルはなんとも言えないような表情を見せる。

「そうだな」


 雪を踏む音が周囲にただ響いていた。


☆彡☆彡☆彡


 リゲルとポルクスが雪の中をしばらく歩いた後、銀世界からポツポツと家屋が見え出し始めた。

 

 しかし、辺りに人の気配はなかった。おそらく、すでに避難が済んでいるのか、鳳国へ難民として移民となっているのだろう。


「一軒一軒、確認して行くなんて骨が折れる」

 ポルクスが空き家となっている部屋の戸を叩きながら愚痴った。


「じゃあ、周りに火を放って人がいたら出てくるのを待つか?」

「それも一つ。だけれど、ここでの問題は人海戦術かな」


 ポルクスは周囲をキョロキョロ見回す。


「海から入る第一部隊はいつ頃北部に入れそうか、アルデバランから連絡はあった?」

「今日にも着くと思う」

「それなら、海側は彼らに任せよう」


 ポルクスの提案にリゲルは頷く。


 暫く待ったが、家主が現れることはなかったので、二人は別の家へと足を運ぶ。


「第一部隊で冷山を超えた部隊もいくつか出てきた。だが、人数の揃っていない彼らを散り散りにさせるのはリスクがある」

「だね、第二部隊は?」

「トンネル工事はほとんど進んでいない。雪崩を起こさないで掘るのは難しいだろうな」

「鳳国の間者がどの部隊にいるかわからないから、やっぱりトンネル工事は続けたいところだけれど、難しいなあ」


 ポルクスは頭を掻いた。

 リゲルとポルクスは二軒目の家につき、戸を叩く。


「カルトスは?」

「相変わらずだよ。もしかしたら、第二部隊を海から北部へ移動した方がいいかもね」

「いまや、冷山を越えるよりもはるかに早くて安全だし、効率が良いな」

「そうだね」


 口では同意しつつ、ポルクスの表情はなんとも言えないような、腑に落ちていないような顔を覗かせている。


「なんだ?」

「僕らは騒ぎすぎるほど騒いではいないけれど、かと言って、戦争を起こそうとする国がこんなに簡単に兵を送り込んでいるのを見過ごすだろうか、と思っている」


 リゲルがポルクスを見る。


「それはあまり考えたくない想像だが、現状、この寒空の中、家屋から全く煙が出ていない状況を考えると、おそらく大多数の人間がこの地を離れているだろう。彼らはどこに行ったか、を考えると、鳳国に移民となった、と考えるのが至極当然だ」


 ポルクスが「そうなんだけど、兵が侵入する術も、海と山のふたつに一つしかないし、そこを全く抑えていないってのも妙な話で」とリゲルに話す。


「では、患者は兵の中にいないことになるぞ?」

 ポルクスは首を縦に振る。


 二人が、返事のない家から離れようとすると、ゆっくりとその扉が開き、リゲルとポルクスは同時に扉を開けた者を見る。


「あの………」


 少し甲高い声で、扉越しに半分だけ顔を覗かせる家主は、初老の女性だった。


「なんですか?」


 彼女は目の前の少年と青年を見て恐る恐る尋ねる。


「周囲の人は? 避難したのですか?」


 女性が不安に思わないようにリゲルは騎士の印を見せ、そう言った。


「ああ、騎士様ですか。みんな、この季節になると中央にいったり、鳳国に行くんですよ」

「毎年?」


 リゲルは思わずポルクスを見る。ポルクスは知らないと言わんばかりに首を振る。


「ええ、そうです。薬師や医師は中央や鳳国に行けば、この地域の漢方はよく効くし、たんまり稼げますが、みんながみんな薬や医術の知識があるわけではないので、こうやって、行くあてのない者は数人で集まって、餓えを凌いでいるのです」


 女性はそう言って、戸を大きく開けて、家の中を見せてくれた。


 女性の家の中には十数人が、肩を寄せ合い、座っていた。


「この地域にも芋や、南瓜はできるし、米や麦もできる。春になって植えた種が秋には穫り、枯れた根や茎は生薬になるのです。春から秋にかけて我々が医師や薬師に食べ物を分け与え、冬は彼らの稼いだ金で過ごす、そういう暮らしをしています」


 ポルクスもリゲルも参ったな、と顔を見合わせる。


「移民ではなく、商売として、鳳国に行っていると?」

「はい」


 女性は迷いなくそう答えた。


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