レグルス
第3部隊。
中央にある王都と北部の入り口を往復し資材を運搬している。
薬、武器、トンネルを掘る為の道具、水、船の調達までこの部隊が担っていた。
カルトスはここにいた。
ポルクスと連絡が途切れたのは能力が消えてしまったからだ。
その原因はカルトス自身、今ではよくわかっている。
このまま能力が消えるのか、と思いながら、とぼとぼ歩いてポルクスのいるであろう北部へ向かっていた。
そんなことを思いながら歩いていると、空が真っ青で美しかったので、カルトスは、伸びをして右掌で雲を掴むように、鳥に変化したいと願った。
すると、いつの間にか能力が戻っていたのだ。
カルトスは嬉し泣きをして空を飛び回った。すると、国の紋章をつけた部隊の一部をみつけたので、湯浴みをしている部員の服を借用し、、ちゃっかり小隊の中に紛れ込んだのだ。
部隊に潜り込んだ2日後の早朝、小鳥が伝えてきた伝言を聞いたカルトスは、嫌そうに頭をかく。
「なんだってこんなことに」
それを見ていた立派な、髭を蓄えた隣人が楽しそうに「戦場に一目散にいきたかったのか? 血の気が多いなあ」と笑い飛ばした。
背丈が6尺はありそうなこの同僚はふさふさの髭が特徴的で、一見愚鈍そうに見えるが、実は剣の名手である。この男--レグルスが2本の剣を器用に扱っているのをカルトスは昨日、見たからだ。
遡ること、昨日の早朝。
カルトスはポルクスとの連絡をするため、鳥に化けて木々に止まる小鳥に情報を伝えていた。そこにレグルスと5人の男が現れた。
カルトスは情報を伝え終わると小鳥にすぐ飛ぶように伝えた。そして、なるべく静かに音を立てぬようにとも付け加えた。
戦果を上げらると思っていたら、この部隊はただの下っ端業務しか回ってこず、安全だが、それ故に物足りないと思ったものがいるのも事実である。
鬱憤ばらしに鳥や動物が殺されるかもしれないとおもったからだ。
男たちの声がだんだん大きくなり、醸し出す雰囲気も濁ってきたので、カルトスもゆっくりとこの場を立ち去ろうとした矢先、金属音がしたので、カルトスは地上の動向に目をやる。
5人の男は背中に担いでいた鞘から剣を引き抜くとレグルスに刃をむけ、襲いかかった。
レグルスは両側の太ももの外側に弓形状の鞘をぶら下げており、そこから剣を取り出した。
どちらの剣も鞘と同様に弓形状であり、両手を巧みに使い、まるで踊るように襲い掛かる男どもを切っていた。
カルトスは息を呑み、その光景を上空から見ていた。
(この速度と正確性、一撃で仕留めているところから、かなり腕が立つのは容易に理解できる。だが、そんなことよりもこの男、わざと剣を抜かせたように思えた)
5人の男が地面に倒れ、レグルスが剣についた血を振り払い、そっと鞘に納める。
カルトスはレグルスが去っていくのを見て、自身もこの場から飛び立った。目立たぬように岩と岩の間に隠れ、人の姿に戻り、身なりを整えて岩場から出てくると、目の前にニコニコと微笑んでいるレグルスがいた。
カルトスの背筋は悪寒が走り、動悸もバクバクと激しくなった。
「ああ、なるほどね。うん、大丈夫」
(何が大丈夫だと言うのだ)
カルトスは気持ちを落ち着かせるためにただただ視線を地面に落とし、頭上から降り注ぐ声と恐怖心から逃げていた。
レグルスは「これを見てよ」と言って瞳を無理やりカルトスに見せてきた。
カルトスは無理やり見させられたレグルスの瞳を見ると、一瞬固まった。そして、力の限り後ろに退けずり、尻もちをついた。
「すごい反応いいね。そう。僕はロイヤルスターなんだよ。王が現れたとアルデバランから知らせがあってね、もしや、とは思ったけど、君は星宿の子かな?」
レグルスは尻もちをついているカルトスに右手を差し出し、カルトスはレグルスの右手に自身の左手を乗せた。
レグルスはカルトスの左手をぎゅっと握ると、そのままカルトス上肢を起こし、岩場から外へ出した。
「大丈夫。本当。それに、きみ………」
レグルスが、何かを口にしようとした時、カルトスがレグルスに右手を差し出した。
その小指には星形の痣が半分だけあった。
「わあ。なほど、なるほど」
「お察しの通り、星宿の子です。力も、ご存じですよね?」
「うんうん、ご存じ。さっき見たからね」
カルトスはレグルスのまるで友達に接するように、軽い発言や態度に違和感を感じつつ、受け入れることにした。
二人は歩きながら第二部隊に戻る。
「カルトス、君、来月はどうするつもりだよ?」
「来月のことはまた来月にでも考える。それに、もう決着がつくんじゃないかな」
「そうかもね。ま、その時は僕がいるしね」
レグルスはふふふと楽しそうに笑っている。
「そういう騎士みたいなの、やりたかったから嬉しい」
自信満々のレグルスの姿を尻目にカルトスは複雑な心境になった。
☆彡☆彡☆彡
野営をしているポルクスの元に小鳥が訪れ、ポルクスは小鳥を天幕に招き入れる。
ポルクスは右手の小指に小鳥を乗らせると、小指はピチチチと囀っている。
同じ天幕にいたリゲルはその光景をみながら、書類に署名と印を押していく。
「ええ!」
ポルクスの大声にリゲルが手を止めて「なんだ? どうした?」と書類から顔を上げ、筆を置く。
「いや、その、カルトスから連絡が来て……」
「何! 無事か?」
リゲルから詰め寄られ、ポルクスは気まずそうにする。その態度にリゲルは更に訝しみ、眉を寄せる。
「いや、その無事です……」
「では、なぜ半月連絡ができなかった?」
ポルクスは視線を逸らす。
「なんだ? 答えろ」
リゲルはジリジリと詰め寄り、ポルクスは天幕の橋へと追いやられれた。
「カルトスに月のものが来て、能力が発揮できなかったのです」
リゲルは固まった。
月のもの? 月のもの?
ポルクスの指に止まっていた小鳥は無言で飛び立ち、リゲルはポルクスの言っているものが何を指しているのかを理解し、硬直した。
「女の子だったのか?」
「黙っていただけで、騙していたわけではないです」
ポルクスも上手い言い訳があっただろうが、ポルクス本人も戸惑っており、上手な言い訳が思いつかなかった。
「そうかもしれないけれど………。月のものは7日程度だろう。なぜ半月も連絡が途絶えるのだ」
「それは、僕も疑問。だから、会ったら聞いてあげて。でもさ、考えてみてよ。親とは離れている状態で初潮が来るだけでも戸惑っているのに、能力も使えなくなっている。それこそ最初は何度も連絡を取ろうとしたのにうまくいかないんだよ?」
リゲルはストンと腰を下ろす。
「無事で安心した」
「そこは同意」
ポルクスは天幕の窓から外を見る。
空が真っ青だった。