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野営

 龍国北部への旅は極寒の旅となった。

 集まった兵士はおよそ一万にも及び、武人や、その子供、農民とさまざまであった。


 ただ、皆が薄い衣を着る中で自分だけがぬくぬくと暖かいのが気が引けた。

 なるべく宿に泊まるようにしていたが、場合によっては野営もする。冬の野営は寒く、北へ行けば行くほど寒さが堪え、火がなければ凍死してしまう。


 リゲルは火起こしが得意と称して、野営の際の火おこしを一手に引き受けていた。

 実際、リゲルの火おこしは早かった。異能を使っているので当然だが。


「リゲル殿下は本当に火おこしが得意なんだな、いつもすぐ暖かくしてくださる」

「ああ、寝る時に寒くないのは有り難いことだ」


 集まった兵士達は口々にそう言うので、リゲルも悪い気はしない。むしろ人に喜んでもらえたことが嬉しかったし、自分の能力は人々を幸せにすることができる自信にも繋がった。


 リゲルにとって、概ね、この遠征は期待通りであったが、ただ一つの誤算はポルクスも来ていたことだ。


「リゲル、本当に火おこしが得意なんだね」

 ニコニコとリゲルの隣で火に当たる少年をリゲルはなんとも言えない顔で見る。


「どうしてついてきた?」

「生まれ育った地域が大変な時に勉強もないでしょ? それにカルトスと連絡が途絶えてしまったから、気になるしね」

「なら、尚更ポルクスは残るべきだ」

「それはリゲルも同じだよ?」


 リゲルは火を起こした焚き火の側から立ち上がり「ついて来てくれ」と言って自身の天幕にポルクスを呼ぶ。

「ついてくるな、だったり、ついて来いだったり、どっちだよ」


 文句を言いつつもポルクスはリゲルの後を追う。


 リゲルは天幕に入ると、人払いをさせる。

「お前は、口で言っても聞きはしないし、こちらの矛盾をついてくるような奴だ」


「突然ひどい暴言を言われている気がする」

 ポルクスの返答に苛立ちながらも、リゲルは意を決して、ポルクスに向けて左の掌を見せようとする。

「私の秘密を教えてやる。それを見たら、ポルクスは戻れ」

 

 リゲルがポルクスに中指の印を見せようとした時、ポルクスが顔を背けて制した。

「だめだよ、リゲル。そんなことをしてはだめだ」

「お前がいうことを聞かないからだ。これを見たら、お前は納得するだろう?」


 ポルクスは目を閉じて首を横に振る。

「代わりに、僕の、僕たちの秘密を見せる」


 ポルクスの言葉にリゲルは硬直した。


 ポルクスの右手の小指の付け根に星が半分だけ痣となっていた。

「僕らは星宿の子で、動物に変形できる」

 そう言った後、ポルクスが馬の姿に変形した。


「これは見事だ………」

 リゲルがポルクスの立髪を撫でると、ポルクスが言う。

「君は皇子だ。簡単に秘密を見せては行けないよ。僕は君の楔だ。君はすぐに無茶をするから、それを制する楔となろう」


 ポルクスの言葉にリゲルは首を縦に振る。確かにそうだ。

「そうだな……」


 話を聞くとカルトスは鳥に化けて鳳国に偵察に行っているらしい。だが、カルトスは戻ってきていない。

 人の姿に戻ったポルクスは髪をバサバサ整える。


「最後にカルトスから連絡が来たのは3日前で、両親は中央に移動した後だった。カルトスからは鳥だったり、猫だったり動物を介して連絡が来る」


 リゲルは「ふむ」と言って、頷く。

「正確にはカルトスの力が動物に化けることができて、僕は記憶が人並み外れているのが能力だの思う。例えば一度見たものを絵のように記憶できる。そして、僕ら二人は互いの能力を共有できる」


 双子とは言え、天賦の才を持ったものが同時に二人も出るとは俄に信じられなかったが、同じ教育を受けているのであればそれもあり得るのか、と思っていた。

 だが、リゲルの違和感は正しかった。


「官吏の試験の不正疑惑は概ね正しかったのだな」

「それも才能のうちと言って欲しいけどね」

「ものはいいようだな」


 ポルクスはリゲルに地図を出すように伝える。リゲルは天幕の隅に無造作に置いた荷物から地図を取り出し、ポルクスに手渡した。


「僕らがいるのは今ここ。北部と中央の狭間にある『冷山』の麓にいる。この山を越えるとついに北部だが、2日前のカルトスの知らせによると、鳳国は我々がここを越えるのを待っているということらしい」

「この山ごと吹っ飛ばせば一万の兵と皇子が勝手に死にくさる、というわけだな」


 リゲルは眉を寄せる。


「そんなところだね。で、わかると思うけど、何故、僕らの動きは見えているのだろうか?」

 ポルクスは続ける。

「おかしいと思わない? この冷山は北部側は吹雪がすごいから北部からは見ることができないし、ましてやそれよりさらに北側に位置する鳳国から見ることは不可能だ。それなのに、僕らが山越えをしている最中に攻撃することが本当に可能だろうか? そこで見えるとしたら、隊の中または、ここから以南ということになる」

「内通者がいる、と?」


 ポルクスは地図をしまいながら頷く。

「その可能性もある。だから、隊をできれば5つ、少なくとも3つに分けて北部に入るのか良いと思う。もし、内通者が低い位ならば、分けた小隊の動きしか知らされないから、派手に動けなくなるし、仮に内通していても、指示した情報を位によって変えてやれば、特定できる」

「そうだな」

 リゲルは紙と筆を取り出し認めて行く。


「もっと言ってしまうと、何故、ここまで即座に北部の状況が悪化したのか、というのも気になるところだよ」

「向こうにも異能の者がいる、と?」

「もしくはそれと匹敵するほど頭がキレる者がいるか、だ。だってポンポン星宿の子が生まれるとも思えないし。いずれにせよ、リゲルの能力はなるべく黙っていたほうがいい。貴方はこちらの切り札だ。だから、必要以上に能力の安売りをしないでくれるかな」


 リゲルは筆を止めて、紙をくるくると丸め、紐で縛った。

「善処する」

「頼むよ」


 リゲルは紙を外で待機している家臣に渡し、再び天幕に戻る。


「本当に戦が始まるのだな。本来ならば、冷山の雪を溶かして鳳国もろとも(ほふ)りたいところだ」

「できるよ」


 リゲルはポルクスを見る。ポルクスは確信があるらしい。

「簡単なことだよ。けれどリゲルが想像するやり方だと犠牲者が出る」

「わかっている」


 人為的に雪崩を起こすことは容易である。それこそポルクスと二人でひっそりと隊を抜け出し、北部側に回って、冷山の麓に炎をあてがってやれば良いのだ。


 だが、そこには未だに避難しきれていない民も巻き込まれる。


 もっと簡便で良い方法はないだろうか。

「これは僕の考えだけれど、意表を突いて確実に一気に攻められる策がある。けれどそれにはリゲルの力が不可欠だし、相当きついと思う」

「私のことなど気にせずとも良い」


 ポルクスは、首を縦に振る。

「わかった。じゃあ、説明するよ」


 ポルクスの案はふた通りある。一つはトンネルというものを作ることらしい。山の麓に穴を開ける行為である。ただし、雪崩が起きないように少しずつ少しずつ山を削っていく。


 二つ目が地下道を作る行為だ。物には溶け出す温度があるという。土は概ね1200℃である。土壌に熱を加えることにより、地熱となって、北部の土地に押し寄せる寒波の影響は軽減するという。


「僕としては二つ同時にするのが望ましい。地下道については、最後まで僕と君だけの秘密とするつもりだけどね」

 ポルクスはリゲルが使っていた紙と筆を使い、スルスルと文字を書いてゆく。


「地下道の建設はまずはリゲルが地下に穴を掘るか、異能で土を溶かしてもらう。最初はなかなか溶けないから、そこが体力勝負なんだけど、君が開けた穴を気づかれては困るから、そこに氷を詰め込む。そして。また火をつけて、穴を大きくする。詰め込んだ氷は気化するから、気体は固体よりも容積が大きくなり、ある程度まで掘れたら、地下道の構築は一気に進むと思うよ」


 紙に書いている少年の構想を見ながらリゲルは舌を巻いた。

「これは、ポルクス一人で考えたのか?」

「地下道の話? 昔読んだ本に書いてあったよ。麒麟国の言葉で書いてあったから、他の人は読めてないのだろうね。お陰でこの国でも、鳳国にもその文化は浸透していない」


 ポルクスは筆を置き、リゲルを見る。

「どうする? やるの?」

「勿論だ」


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