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成人

 リゲルが北部のからくりに気がついたとき、次兄のカイルは国王帝を弑逆しようとした罪で捕らえられ、その家族も王帝族の身分を剥奪されていた。


 それでも、カルトスの使いの鳥がポルクスに連絡をくれなければ、その全容を掴むことは出来なかった。


 北部に鳳国から襲ってくるものはなく、民の暮らし向きも豊かとは言えないが助け合って生きていた。


 せっかくトンネル工事をしているので、他の部隊も手伝いつつ、民に物資を提供した。


 民への物資の供給には、リゲルが作った地下道を補強しながら、行うと効率的で良いと評判だった。


 北部に行くため、ポルクスに馬の姿になってもらい、道々を走った。


 次兄は何故このようなことをしたのだろうか。ずっとそのことを考えていたが、答えは出ない。


 リゲルが王帝宮へ到着した際、王帝は寝所で寝ている、と臣下から聞いた。


 王帝の側近の一人がリゲルに説明をした。


「カイル殿下が、王帝に毒を持ったと、北部の動きもカイル殿下が仕組んだデマであったと聞き及んでいます」

「そうか」


 態と泳がせていた、か。


 王帝である兄が次兄の動きの裏を取らないとは思えない。だが、敢えて泳がせた。


 リゲルを養子にするために。


 リゲルの治世を盤石にするために1番の邪魔な石となる次兄を排除するには北部の件よりも最も簡単なことは、自らの命を差し出せば良い。


 だが、何故そのようなことをする必要があるのか。


「王帝と二人になりたい。下がっていてくれ」


 リゲルが皇太子の指輪を臣下に見せると、臣下はリゲルに急いで頭を下げ、王帝の寝室から下がった。


 王帝の寝台に近づくと、黄土色をした皮膚が目に入った。肝臓を悪くすると人の皮膚はこのような色になると書物で読んだ。


 毒を飲んだのは間違いないのだろう。

 リゲルは寝台の側で腰を下ろし、黄土色となった王帝の手を取り、両手で包みこむ。


「私の母を呼びましょうか?」


 王帝の手を取り、リゲルが言うと王帝が手を握り返した。


「……リゲルか、頼む」


 王帝の言葉が思いの外、明瞭だった。


 リゲルの母リアンは本宮から使いがきて、王帝の寝所に呼び出された。リアンはかつての恋人が横たわる姿を見て、涙ぐんだ。


「リアン………会いたかった」

「陛下………」


 王帝は寝台の上で横たわっていたが、上体を起こすと、リアンの涙を拭いた。


 リゲルは母の編んでいたレースが誰のものであるかを察知した。そして、自分が何者であるかも。


「私は下がります」


 リゲルは王帝の寝所を出るとふー、と息を吐いた後、本宮の廊下を歩く。

 王帝は、リゲルを呼び止めようとしたが、引き止めて何を言うのだと考え直し、ただその後ろ姿を見ていた。


「一つ言い忘れた」


 王帝はそう言って、自身の指についていた、涙を拭った水滴をみた。何やら、肌色のような濁った茶色に滲んだその水滴を服で拭う。


「なんですか?」


 リアンの問いに、王帝は「いや………話すには早すぎるか」と、自身の考えを訂正する。


 シリウスの右手の親指の付け根には星形の痣が現れていた。


 シリウスも星宿の子だが、その存在を誰にも探られることがないよう、わざとこの痣を隠すために幼少の頃から化粧を施し、隠している。


 この痣の存在を知るのは父と母、リアンの母である乳母、そしてリアンだけだ。最も、今はリアンだけである。


 シリウスは再び寝台に身を預けた。


「解毒に少し時を要した」

「何のことやら、私には」


 リアンはそう言う女だ。自分が聞いてはいけぬと思ったことは聞かないふりをする。


「私も失礼します」

「何故?」


 首を垂れるリアンに王帝は手を差し出して、引き留める。


「私は陛下のお側にいて良い者ではございません」

「手元から失った物が返ってきたのに、それをまた手放すような男ではない」


 リアンは首を横に振る。


「民のことを、そして私とリゲルのことを思うならば、どうか賢明なご判断を」

「リアン………、愛している」


 リアンはニコリと笑って、シリウスの前で膝を折り、顔を両袖で隠す。

「陛下の御身、どうかご自愛下さいませ」


 シリウスは掴んでいたリアンの腕を離す。

()はお前を愛している」


 リアンは首を横に振り、王帝の寝所を後にした。


 ☆彡☆彡☆彡


 時は流れ、リゲルの成人の儀が行われることとなった。リゲルは地下道とトンネルの建築の功を誉め称えられ、成人になったと同時に12ある勲章のうち、2つ勲章を与えられた。


 血赤珊瑚の玉と青金石の瑠璃色の玉の腰飾りを下賜された。その後、王帝族の成人であることを現す宝石が散りばめられた宝剣を下賜された。



 紫色の衣に漆黒の髪を結い上げたリゲルは、瑠璃色の瞳を瞑り、王帝と王帝妃の前で三跪九叩頭(さんきゅうこうとう)の礼を行う。


 リゲルが出席者の上手に座る母を見ると、母のドレスの一部に母が編んだレースが使われていた。


 妻のいないリゲルは成人の儀に母が付き添う決まりとなっており、リアンはリゲルと並んだ時のレースの具合を鑑みていたらしい。


(とは言え、事実は変わらない)


 リゲルは陛下の目前から離れると、王帝が玉座から降りてきて、リゲルの右肩に手を置く。

 王帝に付き添われて、儀式を執り行った部屋からでる途中で、母が寄り添い、リゲルの左肩に手を置く。


 王帝族が成人すると、父に右肩、母に左肩を守られ、民の前に参じる。

 成人の儀でのリゲルの父はとして、養父となった王帝が務める。


 三人は儀式を執り行った間から下がると、民衆が待つバルコニーへ姿を現した。


 バルコニーでは、眼下に広がる広間に集まる民が良く見えた。民は歓声を上げて、リゲルのために祝ってくれた。


「民も喜んでいる」


(だが、敢えて言う必要もない)


「私は幸せ者です」

「そうだな」


「お前が守るべき者の顔を良く覚えておきなさい」


 王帝は息子に諭すと、民に微笑んだ。


「お前の作った地下道やトンネルを通って、北部からも来てくれた。物資も通りやすくなった。北部が発展すれば、国全体が潤う。民の暮らしを守るのがお前の仕事だ」


 民に手を振っていると、真っ青な空に一筋の長い雲が、線を描き、時間が経った尾の方は羊雲のように形成していった。


 リゲルには、王帝家の務めや責任がまだ明確にわかっていないのかもしれない。

 それでも羊雲形が一つ一つ異なるように、各々、家庭や幸せがある。それが束となって、一筋の形を形成し、国となる。


 守らなければならない。彼らの幸せを。


 リゲルの気持ちを後押しするように、風が吹き、龍国の国旗が青空にはためく。


☆彡☆彡☆彡


 リゲルは成人の儀の後、皇太子の務めを果たしていた。政治や国の抱えている問題を各省庁の長から報告された。


 リゲルが復学したのは、春のことで、その時にはポルクスとカルトスは卒業していた。

 およそ10ヶ月での卒業となり、学校が始まって以来の最短記録を打ち立てた。

 

 官吏としてそれぞれ中央に配属されたが、リゲルが彼らと共に仕事をするのはまだまだ先の話となる。


 龍国 シリウス暦16年、皇太子リゲルが成人した。それは、他の5つの国へ伝えられた。


 リゲルが王帝位を継いで国を統治するまで、あと12年。


 それはまた別のお話。

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