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塔の前には騎士がズラリと整列していた。
何人いるのだろうか。
数える事すら出来ない程にその数は多かった。
前回は4人だけだったというのに。
あまりの景色の差に少しだけ驚く。
騎士達の前にはキース達が並び、レイモンドの姿を見付けると視線をこちらに向けた。
「…本当に戻ったんだな。
だがこの馬鹿は何故羽が出たままなんだ?」
「無理だと悟ったっすね」
「もう少し頑張れ馬鹿者!!」
「いや無理な物は無理っす。
むしろいつか皆に受け入れられる様に見せびらかす方向で頑張ります」
「前向きなのか後ろ向きなのかはっきりせんか!!」
キースに叱られ何となくこんな感じだったと思い出す。
たった数日離れていただけなのに何故か酷く懐かしい。
キースが眉間を抑え溜息を吐いた。
「…まあ良い。
お前達も並べ。
話をせねばならん」
「話?」
「最後の命令の様な物だ。
黙って並べ」
「……うっす」
シルフィー達がキースに促されガウルの横へと並ぶ。
披露目の式典もこの並び順だったとふと気が付いた。
きっとこれが正しい勇者御一行の並び方なのだろう。
キースはぐるりと周囲を見渡した。
一人一人の顔を脳裏に刻むかの様に皆に視線をゆっくりと合わせていく。
そしてすぅっと息を吸い込んだ。
「見知った顔も多いな。
……兄弟揃って皆を死地へと送ってしまう事。
本当に申し訳なく思っている」
そう言ってキースは深々と頭を下げた。
誰も何も言わない。
ただただ静寂が広がっていた。
キースはゆっくりと頭を上げると再び口を開いた。
「すぐ近くでアリオクの目撃情報があった。
ここも直に戦地へと変わるだろう。
その前に、貴殿らに言葉を送る。
だが知っての通り、俺は仕事柄も文官だ。
騎士の気高い挨拶には慣れていない。
上手く書ける気もしなかった。
だからきっとぐちゃぐちゃだと思う。
……けれど聞いて欲しい」
キースは頬を強ばらせた。
自分の言葉に怯えるかの様に。
「……貴殿らには、本来死んでもこの地を守れと言うべきなんだろう。
だが俺にはそんな事言えない。
それはきっと俺が弱いからだ。
貴殿らに死んで欲しくないと、そう思ってしまう」
だが…とキースは真っ直ぐに前を見た。
戸惑いなど、躊躇いなど振り払う様に。
「だが。
我々は国を守らねばならん。
この国は先祖が作った国だ。
先祖が愛し、守った国だ。
俺達を守れとは言わない。
俺達が死んだとしてもこの国を守ってくれ。
この国が守れたならそれで良い。
貴殿らは、貴殿らの背負う家族の為に戦ってくれ。
それがこの国の力になる」
そこでキースは唇を噛み締めた。
皆が沈黙する。
そんな中、彼は怒鳴るように叫んだ。
「死ぬな!!
頼むから生きてくれ!!
無様であろうとも!!
恥であったとしても!!
生きていてくれたならそれで良い!!
だが逃げるな!!
見捨てる位なら死を潔しとしてくれ!!
友を見捨てて逃げる様な真似はするな!!
我々を見捨てたとて、貴殿らの信念を曲げたりはするな!!
自らの弱さを言い訳にはするな!!
貴殿らの高潔な魂を穢す様な真似だけはするな!!
そして守ってくれ!!
この土地は我々の宝だ!!!!
ここは先祖を受け入れてくれた土地だ!!
我々の同胞が暮らす地だ!!
貴殿らの護る後ろには国民がいるのだと胸に刻んでくれ!!
我々が敗けたならこの国は終わると覚悟を決めてくれ!!
だが生きてくれ!!
だが戦ってくれ!!!!
絶念だけはしないでくれ!!」
キースは大きく息を吐いた。
そして優しく、だが泣きそうな顔で彼は笑った。
散り際の桜に似た、消えてしまいそうな笑みで。
「……もしここで息絶えたなら、平安の地にて再び会おう。
生まれ変わってまた会おう。
共に行く場所が地獄だろうが天国だろうが、文句ならいくらでも聞いてやる。
最期まで共に行こう。
だから…共に歩んで欲しい。
そして。
…そして願わくば、皆で生きて帰ろう。
以上だ」
本来であれば士気を上げ怒号を上げるその行為だったが、今回は皆が沈黙していた。
時折誰かが鼻を啜る音だけが響く、静かな場だった。
だがそれは死地に相応しい言葉だったのではないかと、シルフィーには思えたのだった。




