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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
渇望した物は
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その夜。

シチューを堪能した後、部屋でレイモンドと魔素を扱える様になる為に足掻いていると、窓ガラスがコツコツと叩かれた。

開けると白い鳩が窓辺に立っている。

くるぽ~と啼くその鳩は丸々と太っていて美味しそうである。


「ありゃま。

食材が向こうから来るとは。

飛んで火に入る秋の鳩」


「鳩?」


「見て下さい。

このだらしない肉々しいフォルム。

間違いなく美味い鳩です」


「……あっ!!

待って食べないでそれ!!」


「え?」


さっそく捕まえて捌こうとナイフを手に取ったシルフィーを慌ててレイモンドが止めた。

レイモンドが鳩を抱え脚首を見せる。


「これ伝書鳩だよ。

食用じゃない」


「……えー」


「さっきご飯食べたでしょ。

我慢しなよ」


「その美味そうな鳩ならまだお腹に入る気がします」


「入れないで本当に」


そう言ってシルフィーを止めながら脚首に括られたボトルを開ける。

中には折り畳まれた羊皮紙が入っておりレイモンドはそれを広げ目を走らせた。


「…キース兄上からだね。

聖水は何とか出来る様にするから早く身体を元に戻せってさ」


「へーい」


「後は調べたけれど総力戦になるだろうから覚悟しとけって」


「総力戦?」


「騎士団も動かすって意味だろうね。

簡単に言えば戦争になるって事だよ」


「戦争…」


「私達だけでは無理だと判断したんだろうね」


「まあ実際無理ですよね」


「確かに無理だとは思う。

そして…」


続きを読もうとしたレイモンドが口を閉じた。

眉間に皺を寄せ、唇を硬く噛み締める。

どうしたんだ?と首を傾げるシルフィーをちらりと見ると軽く誤魔化す様に笑って言葉を続けた。


「…ガウルから追伸。

ゼッペルの死の行軍って何?」


「何すかそれ」


「……」


レイモンドは答えずにテーブルに手紙をパサリと置いた。

そして鳩を外に放すと窓を閉める。

暗い硝子に反射して映るその顔はどこまでも仄暗い絶望を抱えている様に見えた。


「…生存者3901人。

内、重傷者2658人、軽傷者1243人」


「へ?」


「死者1万6821人」


「…?」


「戦地入りした騎士の約8割が死んだ。

それがゼッペルの死の行軍だよ」


「…」


キョトンとしているシルフィーにレイモンドが小さく笑みを浮かべる。

そして新しい羊皮紙をテーブルの上に差し出した。


「…自分では上手く書ける気がしないから、フィーが書いてくれるかい?」


「えっ?

あっはい」


レイモンドに促され、慌てて羊皮紙にペンを走らせる。

レイモンドは椅子に腰掛けると両手を握り締めた。


「その軍を率いたのは私だ」


「……え?」


「私が死なせたんだよ。

私が殺してしまったんだ」


誰も私を罰しないけどねとレイモンドは自嘲気味に笑う。

その声はあまりにも苦しげであった。


「…昨年の冬にね、人間の国シュタール帝国との国境沿いに大規模な魔獣の群れが出たんだよ。

500年に一回有るか無いか位の規模だった。

そこで我が国とシュタール帝国どちらが殲滅に動くのかで揉めたんだよ。

被害の規模が大きくなる事は分かりきってたからね。

痛み分けで両国とも兵を出すって話をこちらは通す予定だった。

…だが」


「…だが?」


「…側妃の1人が待ったをかけたんだ。

魔獣が来るのは忌み子のせいじゃないのか、とね」


「………は?」


「忌み子がいるから魔獣なんて穢れた獣が現れるんだから、忌み子が自分で尻拭いしろとね。

そう言って来た」


「なんちゅー無茶苦茶な…」


シルフィーが呆然と呟くとレイモンドが滅茶苦茶だよねと頷く。


「勿論兄上達は鼻で笑ってその話を蹴った。

だが貴族の中には同調する者もいたんだよ。

確かにその可能性もあるとね」


「……」


「そしてその側妃は兄上に話を蹴られたからか、母国であるシュタール帝国にその話を語った。

そしてその理論をシュタール帝国は受け入れた。

シュタール帝国とは数年前に漸く国交を樹立し、その証として側妃を娶ったばかり。

揉めたくは無かった。

その上こちらは王が亡くなる直前で意識は無く、兄上はまだ王太子。

強く出る事が出来なかったんだよ」


「狂ってる……」


「忌み嫌われると書いて忌み子だ。

忌み子と言われる意味を考えれば分かる話だよ。

人間の国での差別意識を甘く見ていたこちらのミスだ。

これを断ったとしても結局は魔獣殲滅はしなくてはならない上に、与太話であったとしても疑惑を払拭しなければ余計に差別を受ける様になるだけ。

それならばと、魔術師に対する差別を少しでも減らせるならと、私は志願したんだよ。

価値があると認めて欲しくて。

…同じ人間だと認めて欲しくてね」


「……」


何と言えば良いのか分からず、シルフィーは呆然と羊皮紙を見詰めた。

ペンを走らせてはいるが、どう書いたら良いのか分からない。

怒りで震えそうになる手を抑え必死で書き綴った。


「その軍の構成は数少ないがいた魔術師の騎士はほぼ入れられた。

側妃の指示もあったけど、むしろ志願して来た者の方が多かったよ。

自分達を軽視したシュタール帝国に目に物見せてやるとね。

人間だと解らせてやるとそう言ってね」


「……」


「魔獣と対峙したのはシュタール帝国にあるゼッペルと呼ばれる渓谷だった。

本当に膨大な数の群れだった。

ただそれ以上に問題だったのは…」


「…?」


「…人間の地を甘く見ていたんだよ。

魔素がない土地をね、私は知らなかった」


そう言ったレイモンドは無表情だった。

だがその表情にシルフィーは悟る。


どうして死の行軍と呼ばれる程に被害が出てしまったのか。


ーー何故自分が殺したとレイモンドが言ったのか。


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