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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
渇望した物は
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一方その頃。


「レイモンド様レイモンド様」


「ん?」


「それ毒キノコです」


「あっごめん。

じゃあこっちは?」


「毒キノコです」


「…これは?」


「毒」


「こっち」


「毒」


「………じゃあこれ」


「毒無し」


「やった!!」


「但し食用に非ず」


「えぇ………」


ダメじゃん…とレイモンドが肩を落とす。

可愛らしい1歳児がキノコ片手にしょげている姿は中々にシュールだ。

シュール可愛い。


「いや凄いっすよ。

毒キノコ集める才能はあります」


「何時使えば良いのか分からない才能だよねそれ」


「薬に使うんで良い才能っすよ。

下剤とかに使うんで」


「あっそうなんだ。

ならまあ…良いのかな?

晩御飯の食材は集まらないけど」


「かわりに私が集めてるんで安心して下さい」


「凄いねフィー」


「それに野菜の収穫手伝ってくれたじゃないすか。

見て下さい籠もパンパンです」


「おー本当だ」


「これなら美味しいシチューが食べられます」


によによとしながら籠を眺めるシルフィーにレイモンドは優しい笑みを向けた。

穏やかな秋風が2人の間を流れる。

あまりにも緩く穏やかな空間であった。


「…フィーの気持ちが分かるな」


「んあ?」


「役目が終わったら隠居して家畜の世話でもしたいって言ってたでしょ。

その気持ちが分かるなって」


「良いでしょ。

のんびりしてて」


「……うん」


どこまでもゆっくりで、優しくて、穏やかで。

レイモンドが経験した事がない程に心地好い空間だった。

このぬるま湯にいつまでも浸かっていたいと思ってしまう程に。


「レイモンド様も褒賞で農家や牧場主に転職したら良いじゃないっすか」


「そうだね…」


それも良いかもしれないねと小さく呟く。


あぁでも。

この子がいるからこんなにも心地好いと感じるのだろうとレイモンドは頭の片隅で思う。

1人ではただの作業でもこの子がいるからこんなにも楽しいと感じるのだろうと。


「…1人では…つまらなそうだ」


「そっすか?」


「うん…。

フィーと一緒だから毒キノコを集めてしまっても楽しいけどね」


「…ありがとうございます?」


「いや、こちらこそありがとう。

…偶然だったけど、フィーに賭けて良かったよ」


「賭け?」


「うん。

フィーに専属契約して貰えて良かったなってさ」


「私はあんま良くなかったですけど」


「分かってるよ。

無理させてごめんね。

これからも無理をさせちゃうけど」


「……まあもう妥協と諦めの末に了承します」


「うん。

ありがとう」


…本当に偶然だったのだろうか。

アルフォンスが言っていた言葉をレイモンドはふと思い出す。

アルフォンスは自分に「開道」という祝福を与えたと語っていた。

困難が立ち塞がった時に、必要な物が得られるのだと。


レイモンドに必要だったのは、専属魔術師ではなくシルフィーだったんじゃないだろうか。

開道がシルフィーを与えたのではないだろうか。


アリオクが殺さずに一度去ったのも、ジルウェストルとハイエルフの血を持つ者が偽の4眷属の中にいると分かったからである。

これは本当に偶然だと言えるのだろうか。

アリオクですら言っていたではないか。

奇跡だとしか思えないと。


だとするならばそれは最早偶然ではない。

仕組まれた巡り合わせだと言うならば、それを人は定められた運命と呼ぶのではないだろうか。


「…だったら嬉しいんだけどな」


「何がっすか?」


「……何でもない」


小さく首を横に振って笑うレイモンドにシルフィーは首を傾げた。


「あっそう言えば」


「ん?」


「私は助けられたんすか?」


「………え?」


「最初に言ってたじゃないすか。

私を助けて下さいって。

何からか知らないっすけど、この役目の事じゃないんでしょ?

別にこの役目、レイモンド様を助ける訳じゃないですし」


「………」


「私はレイモンド様を助けられたんすか?」


シルフィーの言葉に目を見開いた後、レイモンドはふーと長い息を吐いた。

そして暫く黙ると思い悩む様に目を閉じる。

もしかしたら何から助けて欲しいのかこいつも忘れたとかじゃないだろうなとシルフィーは半目で眺めた。


暫くして目を開けると、レイモンドは両手で顔を覆って俯いてしまった。

何やら忙しない。


「……あー…ちょっと待ってね。

考えた結果、助けては貰った。

うん。

うん助けて貰ってた」


「そうなんすか?」


「願いは叶ってた。

うん。

いつの間にやらだけど。

いや、でも、ちょっとフィー離れてくれる?」


「……は?」


「いや本当にごめん無理」


「無理……?」


「いや…………あー………今すぐ枕に顔埋めたい。

叫びたい」


「情緒が不安定になった…」


アイザックの言っていた通りである。

奴は今とても不安定だ。

気を付けて接してやらねばなるまい。


まあ知らぬ間に助けていたらしいしそれでいっかとシルフィーは立ち上がる。

そのままレイモンドに声をかけた。


「何でも良いですけど帰りましょ。

師匠のシチュー、めちゃくちゃ美味しいんすよ」


「……うん」


夕焼けが沈みかかった空は、やけに綺麗だった。

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