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「堕ちた精霊には特徴がある。
羽が変化するんじゃ。
今のフィーの羽の様にな」
「…これっすか?」
「そう。
本来ならば薄い蝶々の様な羽が精霊族の特徴じゃ。
だが堕ちた瞬間羽は蝙蝠型へと変わる。
人間と堕ちた精霊との間に生まれたその子供もな」
「……」
「そして堕ちた精霊族は自我が保てなくなる。
精霊としての理から外れたんじゃから、生きて行けなくなるんじゃな。
その内に消滅するんじゃよ」
「……ではフィーの父君は」
「消えたよ。
わしにフィーを預けた後すぐにな。
今の東の眷属はその後継者じゃ」
「………なるほど」
アルフォンスにじっと見詰められシルフィーは目を逸らした。
別に父親に会いたいとも、死んでいた事が悲しいとも思わない。
だがこの胸の奥に燻る何かは、一体何なのだろうか。
小さいしこりの様に消えてくれないこれは、一体何なのだろう。
「そしてレイモンド殿下は恐らく突然変異型じゃな。
エルフの子供がハイエルフである事は稀にある話じゃ。
先祖返りでそれが起こるのは初耳じゃがな」
「なるほど…」
「赤子になってしまったのはハイエルフの成長速度に変わったからじゃ。
ハイエルフは魔族の中でも寿命が長い。
元の大きさ程度に成長するのは…そうじゃな…500年後位かの?」
「ゴヒャっ………!?
無理です!!!!」
「分かっておるわい。
ハイエルフ自身も魔素が操れる様になると肉体の時間を動かす物じゃ。
赤子だと生活しにくいからの。
レイモンド殿下もそうすれば良いだけじゃ」
「…魔素が操れなくなってるんです」
レイモンドの言葉にアルフォンスは首を傾げ立ち上がる。
そしてレイモンドの頭から足の先までじっくりと眺めるとうーむと唸った。
「魔素の減少は見えぬ…。
寧ろ魔族性が引き出された事で増加しておる…が、肉体との距離が少々離れておる…。
…精神が肉体と分離しておるが故に従わなくなっておるのか?」
「分離?」
「分からんがな…。
魔素は魔族にしか従わぬ。
レイモンド殿下の精神が人間に近付いておる為に魔素が戸惑い従わぬのかなとな」
「人間に…?」
「先程堕ちるという話をしたろう。
魔族としての理から外れた者は魔族として生きられぬのじゃ。
代表的なのが恋だ愛だという感情じゃな。
あれは魔族には無い感情じゃ。
それを持つ者は魔族として見なされぬ」
「………」
「思い当たる節は?」
「…………分かりません」
俯いてそう答えたレイモンドの頭をアルフォンスが撫でる。
大丈夫だとでも言うかの様にふしくれだったその手は酷く優しい。
「大丈夫じゃよ。
悪い事ではない。
むしろ半魔でありながらその感情を得られた自分を褒めてやりなさい。
間違いなく幸せな事じゃ」
「………はい」
「じゃがまあ魔素は操れる様にせねばならぬな。
魔族が堕ちると厄介じゃが半魔ならばそこまで厳しい事にはならぬ。
魔素も力こそが全てじゃ。
操ろうとせず、捩じ伏せるつもりでかかれば自ずと従うじゃろうて」
「捩じ伏せる…?」
「今までは共に戦う、共に歩むという意識で操って来た物を、従えと言う意識で操る様にすると言ったら良いかのう。
こればっかりは練習するしかないがな」
「…はい頑張ります」
「師匠。
私のこの羽はどうしたら良いっすか?」
「……そもそもどうしたいんじゃ」
「消すか色を変えたいっす」
「消せぬし色を変えたいならペンキでもぶっかけなさい」
「えぇぇ…………」
「羽は精霊族の象徴だぞ。
簡単に消せるわけがなかろう。
見せびらかしながら生きたら良かろうが」
「だって……ダサいし…」
「まあ確かにダサい上にキショいが」
「ですよね。
私もそう思うっすもん」
ヤケクソ気味に返すシルフィーにアルフォンスがケラケラと笑う。
目尻に皺を作ったとても優しい顔で。
「そうじゃな…。
常に自分に幻視を纏えば他人からは羽が見えなくなる様には出来るじゃろうて。
無意識下でも出来るようにやってみなさい」
「はい…」
「んで次は…あぁそうか隷属の契約についてだったかのう」
また長い話になるとアルフォンスは頭をガリガリと掻きむしった。
面倒臭いのだろう。
その気持ちはとてもよく分かる。
「…先に飯にしようかの。
話は食事をしながらじゃ。
フィー、手伝いなさい」
「いや台所汚いんで嫌です」
「その掃除も含めて手伝えと言っとるんじゃ」
「えー……」
「えーじゃない。
ほらさっさと立つ」
アルフォンスに言われシルフィーは渋々椅子から立ち上がったのだった。




