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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
渇望した物は
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馬を飛ばし山道を駆け上がる。

少しだけ色付き始めた木々の葉が秋の到来を告げていた。

レイモンドに連れられ旅立った時は青葉だった事を思い出し、時間の経過を実感させられる。


もう数ヶ月と思うべきか、まだ数ヶ月しか経っていないと思うべきなのか。

あまりにも毎日が濃すぎてそれさえも分からない。


シルフィーは赤兎馬を柱に繋ぐとノックもせずに山小屋の扉を開けた。

そのまま真っ直ぐに階段を目指す。


「一応ノックとかしなくて良いのかい?」


「師匠がこの時間に起きてる訳がないんでノックなんかしても無駄っす」


「そうなんだ…」


トットットッと階段を駆け上がり部屋の扉をガンガンと叩いた。

返事がない事を確認するとドアを開けベッドの布団を引っ剥がす。


「うぉっ!?

なんじゃっ!?」


「起きて下さい師匠。

用事があります」


「うぇっ!?

フィー!?」


「はい私です」


「待てお前。

はいじゃない。

何でここにおるんじゃ」


「だから用事っす。

下で待ってるんでさっさと降りて来て下さい。

茶でも飲んでるんで」


「はぁ………?」


黒い目を見開き首を傾げるアルフォンスを放置しシルフィーは階段を降りた。

抱っこ紐を外し、レイモンドを椅子に座らせると台所へと向かった。


がキッチンはホコリを被っておりシンクにはカビが生えている。

多分シルフィーが出てから一度も使っていないに違いない。


シルフィーは見なかった事にし、お茶を飲むのを諦めた。

カバンの中から水筒を取り出し、温くなったお茶で喉を潤す。


「お茶が出せる台所状況じゃ無かったんで水筒のお茶で我慢して下さい」


「あぁうん、ありがとう。

まあ男性の一人暮らしになるとそうなるのも仕方ないよね」


「私がいた頃は夕飯だけは台所に立ってたんすけどねえ」


「フィーがいたからしてくれてたんだね。

自分1人だとしないのにさ。

良い家族だね」


「そうなんすかね?」


シルフィーが首を傾げるとレイモンドはそうだよと優しい顔で頷いた。

何故そんな顔をするんだろう。

よく分からない。


その意味を考えていると寝癖も治さないままにアルフォンスが降りて来た。

ローブもしわしわである。

シルフィーは小さく溜息を吐いた。


「……生活力が皆無過ぎる」


「フィーがいたから頑張ってただけなんじゃないかな」


「1人でも頑張って欲しいっすね」


「フィーが彼の全てだったんだよ」


「………」


何と言って良いのか分からず口を噤む。

アルフォンスは階段を駆け下りると改めてシルフィーの方を見た。

羽に気が付いた彼は一瞬目を見開いた。


そして目を伏せると何かを納得したかの様に頷き、黙って椅子に腰掛ける。


「……何を聞きたいんじゃ?」


「全てです」


「全て?」


「師匠が知っている事の全てです。

まずは…そうですね。

師匠は魔族なんすよね?」


シルフィーの言葉にアルフォンスは暫く黙る。

そして諦めた様に目を開くと小さく頷いた。


「さよう。

わしは魔族じゃ」


「隷属の契約を専属契約だと偽ったのは何故ですか?」


「待て。

その言葉を何処で聞いた?」


「魔族に聞きました。

西の眷属アリオクに」


「…ちょっと待て。

最初から聞かせなさい。

話が全く見えぬ」


アルフォンスの言葉にレイモンドとシルフィーは経緯の説明を始めた。

その長い話が終わる頃には窓の外の日は落ち、夜の帳が降りていた。

部屋の中を照らす蝋燭の明かりがゆらゆらと揺れ、アルフォンスの顔に影を作る。

話が終わるとアルフォンスは腕を組んで目を閉じたまま口を開いた。


「なるほどの…。

いつかはバレるとは思っておったがお前達の時とはなあ。

これも因果と言う事か」


「因果?」


「4眷属とは西のアリオク、東のジルウェストル、北のハイエルフに南のラハブを指すんじゃよ。

アリオクが偶然とは思えんと言ったのも無理はない」


「それはどう言う意味で………?」


話が読めず眉間に皺を寄せたレイモンドにアルフォンスの方が今度は首を傾げてしまった。

そしてぽんと拳で掌を打つ。


「………あぁなるほど。

お前達に今起きている事から説明せねば分からんと言う事じゃな。

まずお前達の身体が変化した理由はレイモンド殿下の予想で間違っておらん。

人間の血によって抑えられていた魔族性を引き出されたんじゃなアリオクに。

殿下はハイエルフの血を、フィーはジルウェストルの血を」


「……………は?」


「……ジルウェ……?」


「なっ?

お前達もそういう反応になるじゃろ?

引き出した張本人であるアリオクが驚いたのも無理はあるまいて」


確かに偶然とは思えんからなあとアルフォンスが呟く。

ジルウェストルって何だとシルフィーは別の事を考えていたが。

魔族大図鑑を持って来れば良かった。


「師匠」


「ん?」


「ジルウェってなんすか」


「…ジルウェストル。

勝手に省略するんじゃない。

東の眷属じゃよ。

風の精霊王じゃな」


「精霊王?」


「そう、お前の父ちゃんじゃ」


「………………は?」


「わしが預かったもん。

お前の父親から3歳のお前を」


「……………………は?

えっ孤児院は?」


「あれは嘘じゃよ。

父ちゃんに会いたいって言われると困るからの。

ちょいちょいっと記憶を封印したんじゃ」


「…何故、会いたいと言われると困るんですか?」


レイモンドが静かに問いかけると少しだけアルフォンスは目を閉じた。


「…堕ちたからじゃよ。

彼奴は禁忌を犯し、精霊としての理から外れたんじゃ」


「堕ちた?」


「人間と番ったんじゃ。

彼奴は人間を愛した。

精霊は絶対にそれをしてはならん。

穢れてしまうからの」


「穢れ……」


シルフィーは小さく呟いた。

それでは自分は。

自分という存在は。


穢れその物じゃないか。

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