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「何をそんなに嫌がる必要があるんだ。
同じ人体だろうが。
裏も表も変わらんと割り切れんのか」
「割り切れる訳がないと思います兄上」
「首がもげるよりかはマシだろうが!!」
「究極の二択過ぎます。
どちらも嫌に決まってます」
「…レイモンド。
お前今大分めんどくさいぞ」
ガーンと効果音が付きそうな顔をしてレイモンドは固まった。
なんの事はない。
あの後アルフォンスを訪ねようとなり、馬で行く事になったがアイザックがストップをかけたのだ。
おんぶではさすがに危険だと。
前抱きに変えろと言われた結果が今だ。
それに対し嫌だとレイモンドが拒否の姿勢を貫いているのだ。
何でも良いから早く出発したい。
「何を躊躇う必要があるんだ。
今まで散々押し付けられて来ただろう」
「…そう言うのとはまた別でしょう。
私は好き好んで触れた訳じゃありません」
「面倒な奴だなお前…。
何とか言ってやってくれ魔術師殿」
「何とか…?」
「そう。
何とかだ」
アイザックに無茶振りをされシルフィーは首を捻った。
何も思い浮ぶ気がしない。
「…えっと、私は気にしませんよ。
胸の1つや2つ触れられた位で訴えたりしませんから」
「そこは気にしようよ。
即座に警察に駆け込もうよ」
「でも前抱きじゃなきゃ危ないんですから諦めましょうよ。
終わったら忘れたら良いんです。
私も忘れますから」
「いや気にして。
私もさすがにそれは傷付くかもしれない」
「思春期男子かあんたは」
「ーーーーっ」
「私が良いっつってんすから良いんすよ。
触られた事を気にするか決めるのはあんたじゃなくて私。
触った事が不快なら後で全身消毒でもして下さい」
「………」
「ほら来て下さい。
紐結んじゃいましょ」
シルフィーが声をかけるがレイモンドは固まったままである。
「…ほらおいで」
「ーっおいではやめて」
「は?」
「照れるからやめて」
「意味合いは一緒じゃないすか。
両方カモンすよ」
「同じ意味でも言葉によってニュアンスが変わる事は普通にあるからね」
「じゃあ何て言って欲しいんすか」
「………」
「もう結びますからね」
「………」
口をへの字にしてしまったレイモンドを放置し、シルフィーはおんぶ紐をだっこ紐として装着する。
「魔術師殿の方がよほど男らしいな」
「まあ赤ちゃんになってる側の方が色々戸惑いがあるのはしゃーないっすよ」
「………」
「…なんすか?」
「…いや。
貴女は何かあっても幻滅したりしないんだなと思ってな」
「最初からそんな期待値高くないっすからね」
「私の側妃になるか?」
「は?」
「魔術師としての貴女の能力や性格的にいて欲しい人材だと思ってな。
側妃なら数年も耐えればその後は避暑地で悠々自適なスローライフも可能だぞ?」
「兄上っ」
「…何故お前がキレるんだ」
「……フィーは私の専属魔術師ですから」
「……だそうです」
目線を地面に落としながらそう答えたレイモンドをアイザックはぽかんと見詰めた。
暫くすると口元を抑え、アイザックは破顔する。
眉間に皺を刻んだ厳しい表情が一瞬にして笑顔に変わる様は少しだけドキリとしてしまった。
「これがギャップ萌え…。
確かに威力が凄い」
「兄上だけはやめて」
「レイモンド様全員ダメって言うじゃないすか。
今の所ダメ率100%っすよ。
というか王太子もダメだとこの国の結婚可能候補0になりますよ多分」
「……でもダメ」
「娘の結婚に反対する父親みたいっすね。
思春期に洗濯物を一緒に洗わないでって娘に言われるタイプの父親」
「父親……」
その会話を聞きアイザックはもう一度笑うと早く馬に乗れと促した。
アイザックの愛馬だという赤毛の馬は赤兎馬と言うらしい。
なんかカッコ良い。
「キースに手紙で聞かねばならんな」
「……何をですか」
「お前の情緒不安定についてだ」
「弟で遊ぶのはやめて下さい」
「遊ばれる方が悪い」
わしゃわしゃと大きな掌でアイザックはレイモンドの頭を撫でる。
兄にとってはいくつになっても弟は弟なのだろう。
少しだけ微笑ましくなってしまった。
「気を付けて行って来なさい」
「………行って参ります」
「失礼します」
こうしてシルフィーとレイモンドは滞在日数2日で城を後にしたのだった。




