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肌触りの良いシーツが身体を包む。
柔らかな羽毛布団がまるで雲の様である。
久々の柔らかな寝具にシルフィーは清々しい気分で目を覚ました。
身体がバキバキ鳴らないって素晴らしい。
「……おはよう」
「おはようござ…えっ怖っ」
心無しか隈も消えたシルフィーとは正反対に、レイモンドの目の下には真っ黒な隈が出来ていた。
白目も充血している。
こんな赤ちゃん見た事がない。
そして見たくもない。
「どっどうしたんすか」
「………いや別に」
「人が横にいると眠れないタイプとか…?」
「……そうでもないはず」
良く考えたら移動中はテントで雑魚寝だった訳である。
外で寝られる位だ。
人が横にいようと関係あるまい。
では何故…と考えた時にふとある会話を思い出した。
…そういえばこいつ清らかだとかガウルと言っていなかっただろうか。
いやそんなまさか。
「………レイモンド様」
「なに?」
「……女性慣れして無かったりします?」
「…………………は?」
「いやその…ガウル様とそんな話をしてたなとふと思い出しまして」
「今すぐ忘れなさい」
「だからその…寝られないとか…?
その…初心過ぎて…みたいな…」
「それ以上言ったら身体戻った時に本気で嫌がらせするからね」
「すいません」
どうやら当たっていたらしい。
目が本格的に据わっている。
初心過ぎて寝れないとか…とシルフィーは頭を抱えた。
純情ボーイはこれだから面倒臭いのである。
こんなモテそうな顔しておいて初心とかそんなんいらないのである。
逆に女なんて飽きてますけど何か?と言うスタンスでいてくれた方がまだマシだ。
と言うかこれだけ初心でよくぞまあ今まで生きて来られた物である。
「…ご飯にしましょっか。
そうしましょう」
「違うからね」
「いや大丈夫です。
分かってますから。
誰にも言いません」
「違うから」
「分かってます。
大丈夫です」
「違うから…」
レイモンドはとうとう不貞腐れてしまった。
よほど恥ずかしいに違いない。
純情ボーイだと思えば昨日の風呂もおんぶの件もなんとなく理解が出来た。
これからは気を付けてやろう。
ピュアボーイの扱いは難しいのである。
サイドボードに置かれたベルを鳴らし朝食を運んで貰う。
サクサクのトーストとバターの香りが食欲を誘った。
「…レイモンド様、口開けて下さい」
「いや自分で食べれるから」
「いや、ボロボロこぼしてます。
布団の上が大惨事です。
使用人の方々カチキレ必須です」
「………」
「ほら口開けて下さい」
自分では手と口のサイズが足りなかったらしい。
しばし悩んだ後、諦めた様にレイモンドは口を開いた。
その中にちぎったトーストを押し込んでやる。
「…美味しい」
「ですよね。
私もそう思います。
次サラダ行きましょうか。
はい、あーん」
「……」
「ほら開けてください」
「いや…なんであーんって言ってるフィーの方が口開けてるんだろうって思って」
そう言われて口元を思わず抑えた。
確かにパッカリ開いていた。
不思議な現象である。
自分でもおかしくなりシルフィーは口元を抑えたまま笑ってしまう。
変な現象だなあとふわりとした笑みを浮かべた。
「確かに…なんで私まで口を開けてるんすかね?」
「…………」
「レイモンド様?」
一瞬だけ硬直していたレイモンドはハッと目を見開き、シルフィーからツイッと視線を背けた。
シルフィーは首を傾げる。
「レイモンド様?」
「………ちょっとだけ待ってね」
「えっあっはい」
レイモンドは大きく長い溜息を吐く。
何か辛い事でもあったのだろう。
悩みを抱え易い青少年には多々ある事である。
「フィー、私の分も食べてくれるかい?」
「へ?」
「そしてさっさと書庫に行こう。
よく分かった。
この体を何とかしないと私の精神衛生上良くない」
「はあ……?」
よく分からないままに早く食事を済ませろと急かされてしまった。
赤子とは我儘な生き物である。




