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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
狗のお仕事とは
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6

翌日。

白目を血走らせた状態でレイモンドを出迎えたシルフィーは大樽を指差しながら淡々とポーションの説明を行っていた。


「温室に世界樹の幼木がありましたのでそちらの葉も加えた所効果が上昇致しました。

というか上昇し過ぎたので薄めて使う方が良いかと思います」


「へえ、上昇ってどんな風に?」


「本に書いてあった通りならば心臓が止まっていれば無理ですが飲めば内臓破裂位なら治せるかと。

傷口にかければ四肢の欠損までは治せると思います。

多分なくなった部分に新しい四肢が生えます。

生憎私は五体満足ですので試してはいませんが」


「そりゃ凄いね…」


「凄いのは世界樹の幼木があるあの温室です」


「私の母の先祖がエルフでね。

私が生まれた時に先祖返りしたって事で、あちらから祝いに苗が贈られてきたらしいんだよ。

ずっと私の庭に植えてたんだけどせっかくだから温室に植え替えてみたんだ」


出産祝いに世界樹の苗を送る親族とか頭がおかしい。

あれは伝説級の代物であって普通に王宮の庭の片隅に生えていて良い物ではないはずだ。

多少げんなりしてしまうが効果が上昇した事は良い事なのだから気にしない方が良いのだろう。

気にしたら負けだ。


「というわけで大樽3本分作り終わりました。

つきましては」


「つきましては?」


「寝ます」


「うん?」


「寝るんでちゃっちゃと持って行って下さい」


そんで出てけと念を飛ばすとレイモンドはニッコリ微笑んだ。


「まだダメだよ?

魔術師たるもの効果を確認してない上に用法用量も分からない、副作用も分からない物を渡して納品完了なんてあってはならないと思わないかい?」


「…………」


「というわけで検証の為に行こうか。」


「……着替えてくるんで待って下さい」


「うんいいよ」


キラキラしい笑顔を恨めしげに睨みつけながらヨレヨレの作業着から着替える為、シルフィーは背中に哀愁を漂わせながら寝室へと向かうのであった。


着替えたシルフィーがレイモンドに連れて来られたのは救護所であった。

中に入ると白衣を着た壮年の男性がこちらに急いでやって来る。


「レイモンド殿下お待ちしておりました」


「その件なんだけど少々手違いがあってね。

今から検証するからサントス殿にも立ち会って欲しいんだ。

今すぐ始めたいんだけど大丈夫かい?」


「立ち会いは構いませんが検証とは一体…?」


「彼女が作ったポーションが少々変化してしまってね。

効果を確かめたいんだよ」


「なるほど…?」


「いきなり患者に使う訳にはいかないからね。

取り敢えず私で実験してみようか」


そう言ってレイモンドは椅子に座ると腰にぶら下げていた短剣を抜いた。


「最初は傷からいこうか。

フィーはポーションを用意しておいてね。

そうだな。

原液、2~10倍に希釈した物を準備して」


「うっす」


「サントス殿は検証結果を記録してくれるかい?」


「承知しました」


「それじゃあ始めようか。

まずは原液からね」


そう言って彼は自分の腕に短剣を刺しスっと縦に引いた。

肉が裂け鮮血が腕を置いている机の上にダラダラと流れ落ちる。

いきなり自傷行為かよと少々引くがシルフィーは黙ってポーションの原液を腕に垂らした。

ポーションは傷口に触れた瞬間に淡い緑色に光ると瞬く間に傷は消えている。


「次は2倍希釈」


「うっす」


そんな事を繰り返し50倍まで終えた所で漸くレイモンドはストップをかけた。

まだまだ薄めても使えそうではあるがとりあえず検証としては十分だと。

そう言いながら彼は胸元の釦を外し服を緩めると袖から左腕を抜いた。


「じゃあ次は欠損に対しての効果を見ようか」


「いやしかしレイモンド殿下」


「サントス殿、検証が成功さえすればここにいる人間の殆どが助かるんだ。

私の腕の1本や2本差し出してもお釣りが大量に来るよ。

それにフィーは自信があるんだろう?」


レイモンドに真っ直ぐに見詰められシルフィーは黙ってその瞳を見つめ返したまま頷いた。

師匠と共にポーションは何千回と作って来たのだ。

多少材料を加えた所で失敗などするはずがない。

これはシルフィーの魔術師としてのプライドに賭けて宣言出来る。


「なんなら私の腕を使いますか?」


「…いやいいよ。

専属の魔術師が自信があると言うのならそれだけで充分信じられる」


そう言ってレイモンドは微笑むと左手首に短剣を深く突き刺した。

一瞬眉根を寄せたがレイモンドは唇を引き結んだまま短剣を真横に引く。


ゴトリと鈍い音を立てて手首が机に転がった。

サントスが顔を青ざめさせるがシルフィーは黙ってそこにポーションの原液をかけた。


ポーションは再び淡く光ると切り落とされていたはずの手首から掌がニョキニョキと生えていく。

少々、いやかなり気持ちが悪い光景である。


「動かした感じはどうですか?」


「…すごいね。

違和感が全くないよ。

じゃあ次は2倍希釈を…」


「流石に50本も手首処理してたら色々と不味いんじゃないんですかね」


「…それもそうだね。

まあそこは実地で検証して貰おうか。」


「手首どうします?

家で燃やしときましょうか?

それとも記念に取っておきます?」


「いや悪趣味だと思われるから燃やしといてくれるかい?」


「うっす」


皮袋に机に残されたままの手首を掴んで入れる。

この性格が気持ち悪い男にはピッタリのインテリアになるのではないかと思ったが、断られてしまった為持ち帰って燃やすしかあるまい。

少しだけ残念である。


「じゃあ最後は内臓の損傷か…。」


「知ってます?

切腹って言う文化がある国が遠い他国にあるそうですよ。

自分で腹を裂きながら声を漏らしたり苦しんだらダメらしいです」


「何その究極の我慢比べみたいな文化。

ちょっと凄いけど」


「私生切腹見るの初めてです。

応援してます」


「フィーってアルフォンス殿の時にも思ったけど、他人が苦しむのを見るの好きでしょ?」


「失礼な。

好ましくない人間が苦しむ姿を見るのが好きなだけです」


「今はっきり好ましくないって言ったね。

別に良いけど」


「レイモンド殿下、さすがに腹を切るのはやめて下さい!!

貴方様は仮にも王子ですよ!!

もう充分検証は出来ましたから!!」


半泣きのサントスに短剣を取り上げられレイモンドはさすがに医療現場で切腹は良くないと判断したのか、分かったよと左腕を袖に通し乱れた服を直した。

あれだけ検証にこだわっていたのにやけに素直に諦めるのだなと首を傾げると苦笑された。


「そんなに目を輝かせて切腹とやらを期待されるとちょっとね。

期待を裏切りたくて堪らなくなってしまったよ。

まあ正直手首が生やせた時点で最上級ポーションが出来上がってると考えるしかない訳で、となると最上級ポーションの効果や用法用量は既に過去に検証済なんだからその資料を見れば良いだけだしね。

本物を見るのは初めてだから自分の目で効果を見たい気持ちはあったけど、フィーが喜ぶだけかと思うとちょっと嫌だなと。

ごめんね生切腹見せられなくて」


「…ちっ」


「あぁいいねその顔。

切腹をやめて良かったよ」


舌打ちをしたのにうっそりと麗しい笑みを向けられ本気でドン引きしてしまう。

こいつは気持ち悪いだけでなく変態かもしれない。


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