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案内された客室は書庫の真横であった。
使用人の方々は暫くレイモンドの着替えを持って来たりとバタバタしていたがそれを片付けると去って行く。
レイモンドは使用人がいなくなるとクローゼットから靴を取り出し履いていた。
何だか顔色が良くなった様に見えなくもない。
「…自分の足で歩くって素晴らしいね」
「そっすか?」
「私の身体が戻ったらフィーにも体験させてあげるよ。
どれほど心に来るかきっと分かる」
「いや遠慮しときます」
「私がおんぶなんて滅多にないよ?
体験した人いないよ?」
「別にそんな希少体験いらないっすね」
「そう?
それは残念」
特に残念そうな感じもない言い方である。
本気でするつもりも無かったのだろう。
シルフィーはくはぁと欠伸をした。
疲れが溜まっていたのだろう。
まだ夕方だが既にベッドに入りたい。
「てか私風呂入って来ますね。
…あっレイモンド様自分で入れます?」
「ーっ入れるから!!」
「…びっくりした。
そんなデカい声で言わなくても聞こえますよ」
「フィーが変な事言うからでしょ」
「いや、シャワーに手が届かないんじゃないかと思っただけですよ」
「……出る時に壁に掛けずに床に置いといて欲しい」
「りょーかいです。
じゃあお先にお風呂貸りますね」
「……うん。
ごゆっくり」
何故だか目を合わせなくなったレイモンドを放置し着替えを持つとスタスタと風呂へ向かう。
土埃でギシギシになった髪は3回目のシャンプーで漸く泡立つ様になった。
どれだけ汚れていたかが分かる。
逆に考えたらあの状況でサラサラ髪だったアナベルやレイモンドの髪質はどうなっているんだろうか。
変なコーティングでもされているに違いない。
全身を洗いシャワーを止めて床に置く。
そこでふと気が付いた。
レイモンドでは蛇口のハンドルに手が届かない。
身長が絶対的に足りない。
こりゃ絶対嫌がるけど…と思いつつシルフィーは着替えて部屋へと戻った。
「レイモンド様、お風呂を借りたついでにお話があります」
「ん?
なんだい?」
「1人で入るのは無理です」
「…………は?」
「絶対蛇口に手が届きません」
「…………」
「…………」
「…………やだ」
「やだじゃない」
「無理っ!!
ほんっとに無理!!!!」
「無理じゃない」
既にレイモンドの顔は真っ赤な上に泣きそうである。
乙女かと言いたくなってしまう。
「…タオルで隠したら良いじゃないすか。
洗ってる間は後ろ向いときますから。
私も別に見たくないですし」
「………」
「何だったら目隠しでもしときましょうか?」
「……それはそれで色々駄目だと思う」
「なら諦めて入りましょ。
さっさと寝たいんすよ私」
「………………………分かった」
風呂に入るだけでこの有様である。
勿論寝る時にも一悶着あった訳だがさっさと寝ましょうと言うシルフィーに負け渋々就寝となった。
レイモンドが眠れなかったのは言うまでもない。




