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シルフィーは近衛騎士の後ろを歩きながらきょろきょろと辺りを見渡した。
廊下にはふかふかの絨毯が轢かれ、真っ白な壁には隙間が無い程に金で出来た装飾が飾られている。
高い天井からは巨大なシャンデリアが吊るされ、よく見ると天井に宗教画が描かれているのが見えた。
豪華絢爛とはこういう事に違いない。
「なんか…これぞ城!!って感じっすね」
「この前も見たでしょ」
「女官長にこねくり回されたせいで見る元気もなかったっす」
「あー確かに。
フィーの目、虚ろだったもんね」
「じっくり見るとまた…なんかすげえって感じですね」
「語彙力はないけど何となく伝わるよ。
でもフィーはゼークス領主の城の方が好きなんじゃないの?」
「なんで分かるんすか」
「あの時のフィー、目がキラキラしてたからね。
今から魔族と対面だって時なのに」
「前向いて歩いて下さいよ。
何で人の顔ジロジロ見てんすか」
「………」
「………」
「………」
「…何で黙るんすか?」
「………いや別に。
私も何でだろうと自問自答してた」
「答えでました?」
「……」
何故かそのまま無言になってしまったレイモンドを放置し、シルフィーはまた城の観察に戻った。
歴代の王族であろう人物画がズラリと並べられてる。
殆どの人が胸から上のすまし顔で描かれていたが、中には鎧姿での全身で描かれている人や、上半身は裸で力こぶを見せ付けている人もいる。
まあ分からんでもない。
大体マッチョは脱ぎたがるものだ。
ただ絵を描く長い時間、ずっと力こぶを作っていたかと思うとこの御仁の筋肉愛は賞賛に値するだろう。
「申し訳ございません。
王太子殿下は今側妃様とご歓談中との事ですのでこちらで暫しお待ち頂けますか?」
「分かりました」
案内役の近衛騎士に廊下に置かれたソファーに案内されここで待っていろと指示された。
ソファーもやたらふかふかである。
「歓談ってなんすか?」
「あー楽しく会話中って事だね。
実際は別に楽しい会話じゃなかったりするけど」
「はえー。
側妃って事はご兄弟のお母さんっすか?」
「まあそうだね」
「話長いです?」
「どの側妃かにもよるかなあ」
「あー何人かいらっしゃるんでしたっけ?」
「まあ3人なんだけどね。
私の母は有り得ないから残り2人の内のどちらかなんだけど、片方は長くて片方は短い。
まあ話の内容にもよるけどね」
「レイモンド様のお母様は話嫌いなんすか?」
「いやそうじゃなくて母は体調を崩したって言ってずっと療養と言う名の別居をしてるから。
まあただ単にもう役目は果たしたからって言って別荘暮らしを満喫してるだけなんだけどね。
王宮にいないから有り得ないって話」
「あーなるほどなるほど。
楽しそうなお母様っすね」
「いつか会わせてあげるよ。
多分フィーとは気が合うと思うよ。
変わった人だから」
「気が合う理由が変わった人だからってのはどうなんすかね」
「…フィー、自分が変わった人間じゃないと思ってるならそれは大問題だよ。
自覚はしておくべきだと思う」
「これは完全に貶されてる」
その時だった。
バンッ!!!!!!と言う激しい音を立てて王太子殿下の執務室の扉が勢い良く開いた。
中から美少女が憤怒の形相で足音荒く飛び出して来る。
その後ろを額に汗を浮かべた男性が慌てて追いかけて行く。
「お待ち下さいカイラ様!!」
「着いて来ないで!!!!!!」
何だか大荒れである。
楽しく話をしていた訳ではなさそうだ。
いやしかしそれよりも。
「えっ…てか若くないっすか?」
「カイラ妃は確か…私達の一つ上だったかな?」
「ええっ」
「でもああ見えて2児の母だよ」
「レイモンド様のお父様ヤバいっすね」
「いや、色々政治的な事情があっての事だから。
故人の名誉の為にも別にそういう性癖とかじゃないって事だけは言わせて欲しいかな」
「はぁ…なるほど…。
てかブチギレてましたけど大丈夫なんすか?」
「あの人はよくブチギレてるから大丈夫。
非常に迷惑だけどね」
おや珍しいとシルフィーはちらりと背負ったレイモンドに視線を向けた。
彼が誰かに対して迷惑だとはっきり言うのは初めて聞いたかもしれない。
仲があまりよろしくないのだろうか。
まあ新しい母ちゃんが自分の一歳上とかそりゃ嫌かとも思う。
思春期の男子ならグレてもおかしくはない。
「お待たせ致しましたシルフィー様。
どうぞこちらへ」
近衛騎士に促され、先程カイラ妃が飛び出した部屋へシルフィーは足を踏み入れたのだった。




