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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
足りない物
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「ィ…………フ……シル……………シルフィー!!!!

しっかりしろ!!!!

おい!!!!」


重たい瞼に力を入れて無理矢理持ち上げる。


視界には泣き出しそうなガウルと既に泣いているミリアが映った。


「…えっ全滅した?」


「してねえよ!!」


「シルフィーさん良かったですっ…!!!!」


どうやら天国では無かったらしい。

ちょっとホッとしてしまう。


「えっ…てか何で助かったんすか…?」


あれぇ?と首を傾げるシルフィーにガウルがずいっと身を乗り出した。


「お前何処まで覚えてる?」


「えっなんか腕が貫通して治ったと思ったら、褒められた後叱られた上に痛みで死ぬかと思った所までは」


「そうだそうだ。

その後お前達の姿を見て魔族は大興奮して帰って行ったんだ。

また今度っつってな」


「…あー、何か記憶ありますね。

ふざけんなって思った記憶が」


「………それで…えっとな」


「なんすか?」


「落ち着いて聞けよ?

冷静にな?」


「はあ…?」


ガウルとミリアはお互いに目を合わせコクリと頷いた。

そんなに覚悟がいる話って何なんだろうか。

…もしかして誰か死んだのか?


あの状況だとレイモンドだろうか。

だがそれなら今よりもっとミリアなんか特に悲壮感に溢れてそうだしなあと、シルフィーは悩む。


ガウルはシルフィーに向き直ると真っ直ぐな瞳で口を開いた。


「…お前、羽が生えてる」


「………………………………………は?」


「いやまじで」


「本当ですシルフィーさん」


「いや…え………は?」


「ミリア鏡を見せてやれ」


「見てくださいシルフィーさん!!」


ミリアが差し出した鏡をドキドキしながら覗き込む。


生えていた。

確かに羽が生えていた。


…だが。


「思ってたんと違う…」


シルフィーの想像では、やはり風の精霊的な薄緑色のチョウチョの亜種的な形状。

もしくは色はどうでも良いがフワフワした鳥の羽を想像していたのだ。

天使っぽいあれである。


だが鏡に写ったそれは形状は蝙蝠の翼型、色は蛍光緑であった。

何だかとっても嫌である。


「これなら悪役みたくなっても黒色の方が良かった…」


「あー……塗ってみるか?

ペンキとかで」


「ペンキが禿げたりしたら余計キモくないすかそれ。

隙間から漏れる蛍光緑」


「確かに…」


「えっとシルフィーさん…。

そもそも羽が生えた事自体は良いんですか?」


「まあ…生えちゃった物は仕方ないっすよね」


多分本当はもっと悩むべきなのだが、本人が良いならいっかとミリアは考える事をやめた。

ガウルはとっくに悩むのをやめていたのか羽を掴んで遊んでいる。

ツッコミ役のキースが不在の為どうにもならない。


「なーこれ動かせるのか?」


「どうなんすかね。

今ガウル様に掴まれても感覚がないんで神経通ってんのかも微妙です」


「なんだよ。

派手でダサいだけの飾りかよ」


「私はその派手でダサいだけの飾りを背負って生きてく事になりそうなんですが」


「だっ大丈夫ですよシルフィーさん。

みんないつか見慣れますから」


「そうだぞ。

まあお前の方が気にしてない分、マシっちゃマシだ」


いや、あんま変わらねえか?とガウルは首を傾げる。

何と比べられているのかは分からないが良い物との比較では無い事は確かだ。

むしろ限りなく底辺同士の比較だろう。

悲しい話である。


「あ…そいやキース様達は大丈夫だったんすか?」


「キースは…大丈夫だな。

アナベル嬢も無傷」


「ん?

その言い方だとレイモンド様には何かあったんすか?」


「あーあったな。

何かはあった」


言葉を濁される為に内容は分からないが何かは起きたらしい。

もしかして奴にも羽が生えたのだろうか。

蛍光ピンクとかならとても笑えるのに。


シルフィーが奴の羽を拝んでやろうとキョロキョロと周囲を見渡すが、奴の姿は見当たらない。

何を探しているのか気が付いたのであろうガウルが、シルフィーの腕を掴んで立ち上がらせた。


「アレだぞ?

あんま笑ってやるなよ?

あいつ割と心折れてるから」


「なんすかそれウケる」


「あっダメだった。

見る前から笑ってやがる」


こっちだと連れられ大広間の扉を開けた。

先程執事長に連れられて歩いた廊下の片隅に、しゃがみ込んだキースとアナベルの姿が見えた。


「諦めるなレイモンド!!!!

やれば出来る!!

根性を見せろ!!」


「頑張って下さいませレイモンド様!!!!

ネバーギブアップですわ!!」


「あぁん!?

大丈夫だと言っておろうが!!

人間何があっても胸を張って生きれば良いんだ!!

貴様も胸を張れ!!

ほらもう一度だ!!!!」


「そうですわ!!

立つのです!!!!

諦めなければ道は開けますわ!!」


何やら熱血なコーチと応援団の様になっているが何事だろうか。

シルフィーはしゃがむ2人の背中越しに、上からひょいと覗き込んだ。


サラサラと揺れる銀髪。

アーモンド型の碧い瞳は今にも溢れそうな涙で潤む。

ぷっくりと赤く色付いた柔らかそうな頬。


ぽこりと出たお腹に柔らかそうな短い手足。

銀髪の隙間からは尖った耳が覗いていた。


やけに綺麗で何故か泣きそうな赤子がそこにはいた。


「目測……1歳児?」


「おっ貴様起きたのか。

何度見ても目立つ羽だな」


「はぁ…。

てかこれレイモンド様なんすか?」


「赤ちゃんに向かってこれとは何ですの!!

失礼で御座いましょう!!」


「えっすいません」


赤ちゃんに対する態度がなっていないと叱られ思わず謝る。

育児経験の無さが出てしまったらしい。

アナベルにも有るのかは謎だが。

あぁでも妹がいるとは言っていたし、赤子の扱いはシルフィーよりも知っているに違いない。


「てか何でちっさくなってんすか?」


「貴様に羽が生えた理由が分からん様にこちらも分からん。

気が付いたら赤子になっていたんでな」


「はえー…てかオムツもミルクも我々無くないっすか?」


「あっ…そう言えばそうだな。

早急に揃えねばならんか…」


「それくらいじぶんでできましゅから!!!!!!」


オムツ交換出来ます?と会話を続けていたシルフィーとキースに顔を真っ赤にしたレイモンドが怒鳴る。

羞恥心が爆発したらしい。


プルプルと震えながら怒るレイモンドをシルフィーは真っ直ぐに見詰める。

その目線の圧にレイモンドは少しだけたじろいだ。


「…………なっなに?」


「…リピートアフターミー。

さしすせそ」


「…しゃししゅしぇしょ」


「……」


「……」


「……」


「……」


「………ぶふっ」


「したがまわらないんだ!!

しかたないでしょう!?」


「いやそっすね…ぶふっ」


笑いを堪えるシルフィーをレイモンドは真っ赤になって睨み付けた。

だが赤子の姿では可愛らしいだけである。


「てか今何をしてるんすか?」


「とりあえず歩けないかとな。

靴を手に入れるまでは抱いて歩かねばならんが、ずっとそれでは赤子の足腰が育たんだろう」


「はーなるほど…。

ほーらおいで。

飴ちゃんあげますよー」


「赤子は丸呑みして喉に詰まらせるから飴はまだ早いんじゃないのか?」


「そうなんすか?

レイモンド様、ちゃんと舐め切って下さいね」


「できるからっ!!!!

からだがちぢんだだけでしぇいしんねんれいはもとのままだから!!」


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