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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
足りない物
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「へえ~半魔が人間を庇うなんてねえ」


「……」


シルフィーは黙ったまま男を睨み続けた。

そりゃ流石に庇うだろう。

人間の盾では防御しきれる訳がない上に、食らったら即死は免れないのだから。

人間の肉体の強度をこいつは分かっていないのだ。


「…中々良い目をするねえ。

気の強い者は嫌いじゃない。

嬲り殺し甲斐があるからねえ」


その瞬間、目の前に男がいた。

咄嗟に風の刃で切り付け、その隙に壁を蹴って男の後方へと飛び上がる。


だが着地地点に現れた男に魔術を飛ばされ、衝撃で壁へと叩き付けられた。

壁が崩れ、パラパラと石が落ちる。


速い。

速すぎる。

何の魔術かさえ判断が付かない。

空気を操っている点で風だろうとは思うが、あんな魔術をシルフィーは知らない。

男の動きが一切目で追えないのだ。


どうすべきだ。

どうしたら打破出来る。


一瞬悩んだのがダメだったのだろう。

気が付いた時には男の腕が左肩を貫通していた。

瞬間的に躱したお陰で心臓を貫かれる事は無かったが。


肩が燃える様に痛む。

思わず呻き声を上げた。


「ぐぅっっ!!!!!!」


「ありゃ外しちゃった…」


失敗したなあと嘯くその瞳を睨み付けシルフィーは右手に氷で剣を作り出し、男の首に叩き付けた。

確かな手応えを感じ、シルフィーはそのまま首を切り落とす為脂汗を流しながら剣を押し込んだ。


男の首がごとりと落ちる。

荒い息を吐いたシルフィーに落ちたその首はにやぁと笑った。

シルフィーは驚愕に目を見開く。


「なっ!?」


「勝ったと思ったあ???

残念だったねえざーんねーん」


左肩に貫通した腕が傷口を広げる様にグイッと動いた。


声も出せない程の激痛がシルフィーを襲う。


何故だ。

何故死なない。

何故首が落ちても身体が動かせる。


痛みで意識が遠のいて行く。

今気絶したら絶対に死ぬと分かっているが、人間の防衛本能なのだろう。

肉体が意識を手放そうとして来るのだ。


これは本格的に不味いと悟った瞬間、シルフィーの肩を貫通していた腕がたたっ斬られる。


憤怒の表情を浮かべたレイモンドがそこにはいた。

そしてそのまま男の胴体を真っ二つに切り裂いた。


その上から業火を放ち、男の身体を一瞬にして溶かしていく。


その姿をぼんやりと眺めているとレイモンドと視線がかち合った。

瑠璃の様な碧い瞳が揺れている。

まるで宝物を壊してしまった幼い子供の様に。


なんて顔をしてるんだと少しだけ笑ってしまう。

大丈夫だと口角を上げると彼は膝から崩れ落ちた。


「ごめん……拘束が…中々解けなくて…」


震える声でそう言うレイモンドの後ろを見ると、床に転がっているガウルとキースが見えた。

あの男は嬲り殺す為に他の人間を拘束していたらしい。

中々に良い趣味である。


喋るのも正直しんどいが、目の前のこいつの方が何故か死にそうな顔をしている為無理矢理口を開く。

死にそうなのはどちらかと言うと絶対シルフィーなのに。


「死なな…かったんで…結果…オーライっす…」


「いやでも肩が」


「こういう時って……腕…引き抜いても良い…んですっけ…?

邪魔…なんす…よね…」


「…いや止めといた方が良いかな多分」


「いいやぁ。

返してもらうよ私の腕」


その声にレイモンドがシルフィーを庇うように立ち塞がった。


目の前には先程燃やし尽くした筈の男が何も無かったかの様に立っていた。

右腕の肘から先が無い事以外は。


男が左手の指先をするりと動かす。

シルフィーの左肩に捩じ込まれていた腕がドロリと溶けて、そのまま床の上を滑り男の右腕へと戻って行く。

溶けたそれは右腕へと付着するとそのまま前腕へと姿を戻した。


「いやあまさかあの拘束が解かれるとはねえ。

そこだけは想定外だったなあ」


塞ぐ物が無くなったシルフィーの肩から噴き出す様に血液が溢れ出る。


切ってもダメ。

燃やしてもダメ。

じゃあどうすれば良い。

不死身だとでも言うのだろうか。

まさかそんなはずはないだろう。


痛みと出血で朦朧としながらも必死で考える。

このままでは自分は死に、次はレイモンドだろう。

ガウルもキースも魔族相手では勝ち目がない。

何とか突破口を開かなければ全滅は免れない。


ぼやけ始めた視界を振り払う様に立ち塞がるレイモンドの前に立つ男を睨む。

何が足りない。

どうすれば良い。


スピードも勝てず、魔術発動の速さも負ける。

単純な腕力ですら勝てない上に、相手は不死身としか思えない。


何が、足りないんじゃない。

何もかもが、足りないのだ。


そう思い至った時、シルフィーは口角を上げ自嘲気味に笑った。


初めてだった。

ここまで絶望する程に無力だと思ったのは。


初めてだった。

自分が自分で許せない程に悔しいと思うのは。


初めてだった。

渇望する程に力が欲しいと思うのは。


ーここで死んだとしても構わないから、力が欲しいと心の底から願ったのは初めてだった。


シルフィーの魔素が身体から溢れ出すのが分かる。

溢れ出した魔素はシルフィーを包み込むと強い光を放った。



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