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パシンとシルフィーの手を叩き落としたレイモンドは呆れた顔でそう言った。
「えっ何で!?」
「フィー、君は忘れてるみたいだけど君は今私と専属契約を交わしてるんだよ。
分かる?」
「………あ」
「えっとそれは、お役目が終わるまででしょうか?」
「…さあね。
何も決めてない。
という訳でそう言う話は私と契約解除になってからお願い出来るかなマーク殿。
貴殿から見てフィーが最初に移住に勧誘する魔術師に最適解な人間に見えたとしても」
「………はい」
マークがしょんぼりと項垂れた。
心無しか見守る領民達も肩を落としている。
だがマークはハッと何やら閃くとガバッと再び顔を上げた。
「ではシルフィー嬢、契約解除になり次第お知らせ下さい!!!!
私ずっと待ってますから!!」
「いつになるか分からないよ」
「大丈夫です!!
私全くモテませんから!!」
「……まあ好きにしたら良いよ」
「はい!!!!!!」
マークは瞳を輝かせると良い返事をした。
そしてまだ仕事があるからと頭を下げ対策本部へと駆け足で戻って行ってしまう。
「食べ放題……」
「フィーは結婚する理由をもう少し考えるべきだと思うよ」
「そうかあ?
俺はこの馬鹿にはあの条件めちゃくちゃ良いと思ったけどな。
悪い話ではねえだろ」
ガウルがそう呟くがレイモンドに睨まれ口を噤んだ。
ちょっと怖かったのである。
「まあいいや。
後2時間位で出発らしいから2人とも食べるなら食べ切っておいてね」
「えっ!?」
「まじかよ!!
急ぐぞシルフィー!!!!」
「うっす!!!!」
2人はバタバタと走り出した。
屋台を全制覇せねばならんと目標を立てていたからである。
まだまだ半分近く残っているのだ。
猛ダッシュで消える背中を見送ったレイモンドは踵を返す。
自分も何か買おうと物色しようとしたその肩を軽く叩かれた。
「…別に専属契約を交わしていても結婚は出来るんじゃないのか?
四六時中一緒にいなければならないなんて契約じゃないだろう」
「…そうですね。
兄上の言う通りです。
失念してました」
「気が付いたなら俺から領主に伝えて来てやるぞ?
お前が許可するならな」
「………役目が済むまでは保留です」
無表情でそう答えた弟の顔を兄はじっと眺めた。
「役目が済んだら許可をするのか?」
「…………そう、2人が望むなら」
「…なるほどな。
分かった」
「…失礼します」
「あぁ」
キースは心の中で呟く。
嫌なら嫌だと言えば良いのだ。
あんな顔をしておいて許可をするなど笑わせる話である。
まあ恐らく彼自身自分の感情に気が付いてすらいないだろう。
キースから伝えてやるつもりも無かった。
もし気が付いて後々後悔したとしても、あれだけ女性を泣かせて来たのだ。
一度位泣けば良いとすら思う。
「いやしかし、あんな人間らしい顔をするとはなあ」
キースの口から堪えきれない笑みが零れた。
弟を揶揄うのはやはりどこの兄にとっても愉快で堪らない物なのかもしれない。
「さて…次の領地に出発の文を出しておくか」
兄はそう呟くとまた仕事をしようと足を動かしたのだった。




