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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
狗のお仕事とは
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4

サンドイッチを食べ終えたシルフィーはまたククルの実の皮むきに戻っていた。

レイモンドに依頼されたポーションに必要な材料ではあるのだが如何せん数が多い。


玄関扉の横に置かれた空の大樽3本分のポーション等一体何に使うのだろうか。

ポーション風呂にでも入りたいのか?と疑問は湧いたがシルフィーは理由を尋ねはしなかった。


理由を聞いたら変な事に巻き込まれそうな気がしたのである。

まあ聞かなくとも勝手に巻き込まれる様な気はするが最後の悪足掻きだ。


そもそも契約の時に助けてくれと言っていたが結局何から助ければ良いのかもまだ分かっていない。

助けなくて良いのなら解放して欲しいのが本音なのだが。


しかし契約締結後、速やかにレイモンドの住まいだと言う王城の離宮に連れて帰り、既に庭の片隅に魔術師が好むとされる家を用意していた上に、住まわせた時点で解放する気は微塵もなさそうである。


準備万端にも程があるだろう。

あの忌々しい契約書を見付けてすぐに家を建てたと、輝く笑顔で語るレイモンドは正直かなり怖かった。

頭を下げてお願いの体はしていたが断らせるつもりは一切なかったに違いない。

王族怖い。


ククルの実を剥き終えるとシルフィーは籠を背負い、玄関扉から外へ出て家の裏へと向かった。

家の裏には太陽の光を浴びてキラキラと輝くガラス張りの巨大な建物が鎮座している。

レイモンドが準備したという温室である。

これもシルフィーが到着した時には既に用意されていた物だ。


温室の鍵を開け中に入ると蒸し暑い空気がムワッと漏れる。

シルフィーは眉間に皺を作りながら温室の奥へと脚を進めた。

温室内には薔薇等と言った目を楽しませる様な花は植えられておらず、代わりに薬草や茸、様々な実を付けた木々等が植わっている。

働かせる気満々である。


シルフィーは奥に植えられているスメルの木の前に行くと、傍らに置かれた脚立に乗り鋏で若葉の採取を始めた。

まだ緑色が薄い葉を選びパチンパチンと鋏で切り落とし背負った籠に入れていく。

顎を汗が滴り落ち、眉間に皺を寄せたままシルフィーは首に掛けていた手拭いでそれを拭いた。


温室の中は熱気が籠り初夏の日差しが照り付ける外よりもずっと蒸し暑い。

まるでサウナの様である。

本来お貴族様の家にある温室はお茶会等を楽しめる様、夏は涼しく冬は暖かいという快適な気温と咲き乱れる綺麗な花々で埋まっているという。


茶会なんぞクソ喰らえと言わんばかりのこの温室とはえらい違いだ。

この温室で茶会などしよう物ならバタバタと倒れるお嬢様方で溢れるであろう。

地獄絵図が似合う温室をプレゼントとはあの王子様もかなり趣味が良い。

まあ仮にお貴族様らしい温室を用意されていたとしたら、それはそれで不要過ぎて困るが。


そんな事を考えつつ背負った籠が採取したスメルの若葉でいっぱいになると、シルフィーは家に戻り流しで葉を一枚一枚丁寧に洗う。

洗った若葉を水と共に大鍋に入れるととろ火にかけた。

その横にも鍋を置くとその中に先程剥いたククルの実の皮を入れ煮詰めていく。


先程若葉を入れた鍋にはククルの実を追加しこちらもゆっくりとかき混ぜ続ける。

窓を開けてはいるものの、キッチンの中にも熱気が籠り先程の温室と変わらない茹だる様な暑さになってしまい、シルフィーは鍋を掻き混ぜる手を止めコップに注いだ水を一気に飲み干した。


「あっづい…。

夏にこんな作業させるとかほんとブラック」


愚痴愚痴と言った所で灼熱地獄が終わるわけではないのだが、鍋を掻き混ぜながらシルフィーの口から愚痴はどんどん溢れてくる。


「つか大樽3本分とかおかしいでしょ。

ここはポーション工場かっての。

工場なら作業員増やせっての。

まあ夏のあっつい日に灼熱地獄の中働く様な、勤勉な魔術師なんていないだろうけど。

あっ私がいるか。

ほんと笑える。

笑えないけど」


ブツブツと文句を言っている間に煮詰まった皮をザルに上げ、皮をすりおろし大鍋に加える。


「つかこの仕事も本来あの馬鹿の仕事なのに何これ。

王子もなんで弟子で妥協すんのさ。

そこは折れずに粘れよ。

師匠にしか無理ですとか何とか言えよ。

あいつ別に見た目程年寄りじゃないし。

ただのアル中なだけだし。

超元気なアル中だし。

あーほんとないわ。

世界滅びれば良いのに。

とりあえずあの馬鹿と王子は先に死ねば良いのに。

あのアル中は特に苦しんで死ねば良いのに。

酒瓶が爆発して巻き込まれて死ねば良いのに。

あの妥協した糞王子は過労で死ねば良いのに。

死んだ後も灼熱地獄にでも行ってくれたら私一生笑えるのに。

笑顔でコサックダンス踊り狂ってあげるのに」


「コサックダンスは見てみたいかな」


鍋を掻き混ぜ続けている間にいつの間にか部屋は薄暗くなっており既に日が落ちている事を告げていた。

ギギっと首を横に向けると輝かしい笑みを浮かべた上司が横に立っている。

明らかに聞かれていた。

シルフィーの呪詛は確実にこやつの耳に入ってしまっていた。

額を暑さから来る汗とは明らかに違う冷たい汗が流れ落ちる。


「……こんばんは」


「やあ、フィーの上司糞王子だよ。

過労死も灼熱地獄も迎えてなくて申し訳ないね」


「…………」


キラキラと麗しい笑みのまま言われシルフィーは視線をスっと大鍋に戻した。

不敬罪で断罪されるかもしれないという危機感が脳内で警報をけたたましく鳴らしているがどうにも出来ない。

首と胴体はまだ仲良くしていたいが、今のシルフィーに出来るのはシカト位である。


「無口なのかなと思っていたけどそう言えばアルフォンス殿に対しては普通に喋ってたもんね。

悲しいなあ。

こんなに嫌われてたなんてね」


悲しいと言いつつその顔に悲壮感は一切見当たらない。

むしろいじめがいのある玩具を見付けたかの様にキラキラと輝いている。


「ねえフィー。

私今気が付いたんだ」


「………」


「フィーのその忌々しいのに逆らえないって言う目が堪らなく好物なんだ。

なんだろうね?

何か屈服させた感があってとても楽しい」


恍惚とした笑みを浮かべそう告げるレイモンドに、気持ち悪いと言わなかったシルフィーを誰か褒めて欲しい。

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