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飛龍は先程まであれだけ攻撃していた2人から顔をプイッと背けるとノッシノッシと歩き始めた。
ずっと熱くアタックされていたのに急に冷められて戸惑う微妙な恋心っぽい心境になる。
これが「押して駄目なら引いてみろ」って奴かもしれない。
なるほど。
確かに効果はあるらしい。
あれだけ執拗に狙われていたのに何故!?という戸惑いは感じられるのだから。
放置されて少し寂しい様な気さえもしてくる。
飛龍と恋愛しようとは微塵も思えないが。
「押しが強すぎるのも駄目なんすね」
「何の話?」
「恋愛っす」
「恋愛!?
フィーが!?」
「死を覚悟させられる位にアピールされるとさすがに付き合えないかなと」
「死を覚悟…?
…あぁ、心配しなくても飛龍もフィーに求愛してた訳じゃないと思うよ」
「思わせぶりっすね」
「あれを求愛だと思うなら本当に問題だから私が恋愛について教えるからね」
「いや失敗しかしてない先生はちょっと…。
教わるなら百戦錬磨な先生が良いっす」
「うちの御一行にはいないかな…」
「キース様はどうなんすか?」
「あの人こそ仕事のし過ぎで婚約者すらいない人だよ。
パーティーでも仕事の話しかしないからね。
見合いで令嬢ではなくその親と政策について半日語り合って帰って来た伝説を持ってる」
「残念な人しかいない…」
「多分その中でも一番残念だけどねフィーが」
2人が下らない事を喋っている間に飛龍が今度は尻尾で壁を叩き始めた。
天井からパラパラと土が落ちる。
街が落ちて来そうだから本当にやめて欲しい。
何をやっているんだと恐る恐る近付くと、飛龍はこちらに気が付きすんなりと避けた。
きゅえ~と言う情けない鳴き声を出しながら。
むしろ見て欲しいとでも言いたげである。
飛龍の横に並び攻撃していた壁を見ると、そこには1つの扉があった。
開けろと言いたいのか飛龍が大きな爪でカリカリと扉を引っ掻く。
「…なんすかねこの扉」
「さあ?
でも開けなきゃ多分飛龍がブチ切れるね」
「脅迫ですかね」
「紛うこと無き脅迫だね」
とりあえず開けようとドアノブを回すが鍵がかかっているのか回らない。
シルフィーは数歩離れると風の魔素を扉に投げ付けた。
レイモンドと飛龍が慌てて飛び退き、扉は弾け飛ぶ。
「魔術を使うなら予告はしようよ。
即行動する癖は改めようね」
「うっす」
「…聞いちゃいないね」
パラパラと土埃が落ちる穴をシルフィーは覗き込む。
部屋の中は汗ばむ位に暑く、部屋の中央には布に包まれた物体が幾つかあった。
「なんすかあれ」
「さあ…?」
部屋の中を覗きながら首を傾げていると飛龍がシルフィーの背中を爪で啄く。
早く行けと言いたいのだろうが痛い上に怖い。
「痛い。
痛いから。
分かったからっ」
「うわぁ…」
「なんすか?」
「シャツの背中穴だらけの上に血染めみたいになってるよ」
「…最悪」
溜息を吐きながら部屋の中へと入り布に包まれた物体の1つを抱え上げる。
30kg程はあるだろうか。
持ち上げるだけで一瞬ふらついてしまう。
諦めて浮遊を使い、レイモンドと飛龍の元へそれらを運んだ。
飛龍はきゅえぃきゅえぃとテンション爆上がりである。
ビタンビタンと尻尾を地面に叩き付ける度に天井から土が落ちて来る為、精神衛生上やめて欲しい。
レイモンドが布を捲ると、中にはツルリとした茶色い球体があった。
「……卵?」
「卵っすね」
「もしかして君の?」
「きゅえぃ!!」
レイモンドがちらりと飛龍を見上げ問いかけると飛龍は大きく返事をする。
「他の飛龍もこの卵を取り返しに来てたのかい?」
「きゅえぃ!!」
「でもなんでこんな所に卵があるんすかね」
「きゅえぃ!!!!!!」
「盗まれたのかい?」
「きゅぇ~」
「そうか。
それは悪い事をしたね」
「何で会話成立してんすか」
「…何となく?」
こいつ龍と会話出来るってすげぇなと思うがレイモンドは顎に手を当て、何やら悩み始めた。
そして飛龍をまじまじと見上げる。
シルフィーもつられて飛龍を見た。
よく見ればその身体はボロボロであった。
鱗は剥げ、頭突きを繰り返したのか頭頂部は腫れ上がり、翼は数箇所穴が空いている。
先程の戦いでは防戦一方だった為、ここまで怪我をしている理由が分からない。
「…報告があったクライディスを襲った魔獣って君達の事かい?」
「きゅえぃ」
「…なるほどね。
何となく話が見えて来たよ」
「私はレイモンド様の新しい特技以外何も見えてないっす」
「とりあえずシルフィーは卵を浮遊で運んでくれるかい?
地上に戻らなきゃ話が進まない」
「はぁ…?」
レイモンドに促され卵を浮かせる。
魔素を使って上がろうとするがレイモンドにひょいと抱えられてしまった。
「自分で上がれるっす」
「人前に出るにはフィーは今中々にグロテスクだからちょっとね。
ローブを貸してあげたいけど私もローブを脱いだら傷口開いててグロいから、フィーのローブを回収するまで大人しくしてて」
「うっす」
「本当にじっとしててね。
私も腹部パックリいってるから暴れられると中身出るからね」
「わーお」
真剣なトーンで中々に怖い忠告をされシルフィーは目を瞬かせた。
悪戯心が沸いてしまい指先で腹を啄こうとした手を思いっ切り掴まれる。
「本当にやめて」
「…はい」
目がガチであった。
ちょっと怖い。
レイモンドが氷で足場を作り、卵を連れながら登り始めると飛龍も大人くしくふよふよと着いて来た。
時折足場に落ちる血痕がシルフィーの物なのかレイモンドの物なのか分からない。
荒い息のままシルフィーを抱えたレイモンドが地上に上がると、心配していたのであろう騎士団が周りを取り囲んでいた。
その中には勇者御一行のメンバーの姿もあった。
キースが青ざめた顔で駆け寄ろうとするがレイモンドは地面にドサリと腰を下ろし、手でキースを制する。
「兄上、少し離れておいて下さい。
話があります」
「いや構わんが…ローブの中にいるのはシルフィーか?」
「はい。
刺激が強い程度には血みどろなのでこのままでお願いします」
「あっあぁ…」
「領主を呼んで下さい。
少々聞きたい事があります」
「分かった。
誰か!!
領主を呼んで来い!!」
「あと飛龍が出て来ますが攻撃はしないで下さい」
「はあ!?」
「お願いします」
レイモンドが頭を垂れるとキースが苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
先程の猛攻を見て、攻撃するなというのは死ねと言われた様な物ではないのかと。
「…攻撃して来た瞬間、こちらも攻撃に移るぞ」
「それで大丈夫です。
とりあえず刺激はしないで下さい」
「…分かった」
キースが頷くと同時にレイモンドが飛龍に合図し、飛龍が地上へと顔を出す。
騎士団に緊張が走った。




