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バキッと鈍い音がし、シルフィーはぱちくりと目を瞬かせた。
地面に転がるシルフィーの目の前には肩で息をし、氷の盾で飛龍を受け止めたレイモンドが立ち塞がっていた。
まさか助けられたのか。
シルフィーはきょとんとしながら口を開いた。
「えっなんで」
「なんでじゃないこの馬鹿!!!!」
歯を食い縛り飛龍の突進を受け止めながらレイモンドは怒鳴った。
いつもの飄々とした笑みは消え、普段の有り余る余裕の欠片もない。
「なんで避けない!!!!!!」
「えっ街が壊れたらあれかなって」
「フィーが死ぬ方が駄目に決まってるだろ!!!!」
「…」
「街なんて直せば良い!!!!
生きてさえいれば何とでもなるんだから!!
死んでも守るなんて誰も望んでない事をするんじゃない!!!!
勝手に死んでその罪を遺した人に背負わせる様な事をするんじゃない!!!!
死ぬ覚悟をする位なら泥水啜ってでも生き伸びる覚悟をしなさい!!!!」
「…すいませんでした」
ド正論で叱られまあ確かにと思いつつ謝ると、多少は怒りも落ち着いたのかレイモンドは飛龍に目線を戻した。
飛龍が衝突する度に氷の盾にもヒビが入っていく。
そろそろ限界が近い様だ。
「…フィー、とりあえず君は逃げて空に上がって飛龍を引き寄せてくれるかい?
街中ではさすがに防戦一方だから」
「うっす」
痛む横腹を抑え立ち上がろうと身を捩って俯せになり、地面に手を着く。
その瞬間、飛龍が今まで以上に強く突進して来た。
その衝撃の重さに手を付いた地面に亀裂が走り、手がその亀裂の隙間に落ちてしまう。
手を動かすがその指先は空を掴むだけである。
聞いてない。
地面の下が空洞とか聞いてない。
「げっ!!!!」
「は?」
掌に体重をかけていたシルフィーはそのまま亀裂の隙間に身体ごと吸い込まれていく。
レイモンドがちらりと見た時には既に上半身が落ちていた。
「ーっ危なっ!!!!!!」
身を翻しシルフィーの腰を掴む。
だがその瞬間、レイモンドの足元の地面も砕けた。
ー落ちる。
そう判断し地面の中に吸い込まれながらレイモンドは無我夢中でシルフィーを抱え込んだ。
ギュッと抱き締め頭を掌で包み自分の胸元に押さえつける。
落下の衝撃に備え、自身も身を丸くした。
一方その時シルフィーも必死であった。
掌に集めていた魔素を落下地点に飛ばそうとしたが頭を抑えられているせいで確認すら出来ない。
というかレイモンドのローブしか見えない。
身に纏わせるよりも投げる方が速いのに。
着地に間に合わない事を覚悟で身に纏わせるか、それとも投げる方向と位置が合っている事を信じて投げるか。
シルフィーは覚悟を決めた。
時間がないのだから、投げるしかないと。
頼むから受け止めてくれと願って指先をパチンと鳴らす。
落下の衝撃で身体が跳ねたのはその直後だった。
まるでトランポリンに乗ったかの様に2人の体は高く跳ね上がった後、地面へと叩き付けられる。
かなり痛いが死ぬよりましである。
「死ぬかとおもた…」
「私も…」
お互いに痛みに呻きながら体を起こす。
これ絶対肋骨逝ったなと思いながら首を回し、落ちて来た穴を見上げた。
そこにはすぐ目の前に2人を追い掛けて突っ込んで来る飛龍の姿があった。
「ちょおおおっ!?」
「うわっ!!!!!!」
2人は飛び退き飛龍を躱すと次の攻撃に備え臨戦態勢に入る。
この飛龍しつこいなと思わざる得ない。
まあ一応街中ではないし防戦一方としなくて良いだろう……多分。
「…魔術ぶっ放したら街が落ちてきたりしないっすかね?」
「……分からない」
「ぶっ放しても良いと思いますか?
我々生き埋めになりませんか?」
「……どうだろう」
お互いに嫌な予感だけが頭に浮かび、攻撃に出る事が出来ない。
飛龍を倒した瞬間に街が落ちて来るとか怖過ぎて無理である。
「街が陥没した場合、賠償は何処がするんすかね。
工事を請け負った会社?
領主?
それとも陥没させた我々?」
「…そもそも空洞があり欠陥があったって事で施工者と、陥没させた我々かな多分。
領主は請求する側になると思う」
「なるほどヤバいじゃないすか。
レイモンド様、貯金いくらありますか?
私は無いです」
「一旦肩代わりしたとしても払うまで私は働かせるよそれ。
というか貯金しなよ。
給料あげてるし家賃も食費もかかってないんだから。
趣向品と娯楽品で給料全額使ってたら将来困るよ」
「宵越しの金は持たねぇっす」
「それあれだよ。
火事が5年に1回とか頻繁に起きてた時代だから貯金が難しかったのも大きな理由であって、フィーみたいにただただ金銭管理出来てない人間の話じゃないからね」
「はえー初耳」
「何だったら給料引きで積立しとくかい?
それ用の口座作ってさ」
「考えときます」
「絶対しないやつだね」
「師匠もしてなかったんで大丈夫っす」
「あの方も大分駄目なタイプの大人だね」
「……ていうか飛龍来ないんすけど」
「来ないね」
「ずっと戦える姿勢で構えてるんすけど」
「ちょっと照れてくるね」
「なんで来ないんすかね」
「なんでだろうね」




