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背中にゾワリと冷気が走った。
耳の傍で魔素がやけにざわめく。
シルフィーはキョロキョロと周囲を見渡すが異変は見当たらない。
「あっフィーとミリア嬢。
2人共東側は終わったのかい?」
「えぇレイモンド様。
こちらはいかがですか?」
「もう終わりかな?
とりあえず街の人に手を貸して貰って何とかね」
酷く耳鳴りがする。
確実に何かがあるのにそれが何かが分からない。
「えっと…アナベル様は?」
「あー…序盤でご遺体を見て吐いてしまってね。
入口近くで待機する様に伝えて、その後はまあ」
「…見失ったんですか?」
「…はい」
何だろう。
何かがあると分かっているのに周囲に異変が無いのが気持ち悪い。
「えっとじゃあ私はご遺体の弔いをしながらアナベル様を探して参りますね」
「ごめん。
本当にありがとう」
「シルフィーさんは先にガウル様の所へ…シルフィーさん?」
「…フィー?」
異変の原因を探知する様に魔素を街中に張り巡らせる。
何だ。
何が起こると言うんだ。
何をそんなに騒ぎ立てている。
「シルフィーさん?
聞こえてますか?」
「フィー?
どうしたんだい?」
「上か!!!!!!」
ガバッと顔を上げ空を睨み付ける。
方向を見定め自らの足に魔素を纏わせた。
「飛龍が来ます!!!!!!
避難誘導は任せました!!!!」
「ひっ飛龍!?」
「…あれか!!」
シルフィーの言葉にミリアが青ざめ、レイモンドが視線の先を辿り目を鋭く細める。
シルフィーは飛び上がり、魔素を纏わせた足でまるで階段でもあるかの様に宙を駆け登り始めた。
「ミリア嬢!!
飛龍が6匹来ると兄上とガウルに伝えてから、アナベル嬢を連れて街の人に声をかけながら避難しておいて!!」
「レイモンド様は!?」
「1人で行かせたらフィーが死ぬ!!!!」
レイモンドは空気中の雨粒を凍らせそこに足を掛けた。
そして次々と足場を作り空へと駆け上がっていく。
先を行く栗色のお下げ髪を必死で追いかけながら。
レイモンドが着いて来ている事に気が付いたのかちらりとシルフィーが振り返った。
「ありゃ?
着いて来たんすか?」
「飛龍6匹相手に1人で行かせるわけないでしょう!!
死にたいのかい!?」
「…何も考えてませんでした」
「ばか!!!!!!!!」
「じゃあ1人3匹担当っすね。
お先っす」
「あっこら!!!!!!」
シルフィーが風の上を滑る様に走る。
掌に魔素を集め火の玉を作り、飛龍へと投げ付けた。
飛龍にぶつかり火の玉は爆発したが、皮膚が厚い飛龍にはその内側まで届かせる事は出来ない。
シルフィーは小さく舌打ちをした。
火の魔術は一番苦手なのである。
だが飛龍には火以外に有効な魔術がないのだ。
シルフィーは掌に炎で作った剣を出す。
腕に風を纏わせ、速さをあげた。
威力が足りないならば手数で補うしかあるまい。
風が耳の傍で音を鳴らす。
その音に耳を澄ませ、心の中で語りかけた。
共に行こうと。
風と同じ速さで、最早目視など不可能な速さでシルフィーは飛龍へと突っ込んた。
轟音と共に吹いた爆風にキースは思わず手で顔を庇った。
上空でレイモンドが巨大な炎で出来た鳳凰を飛龍に飛ばす所までは見えた。
次の瞬間爆発したのである。
「…あいつあんな魔術使えたのか」
横で呆然とした様にガウルが呟く。
キースは小さく頷いた。
「そうか…。
この前は魔術なしだったからな。
レイモンドは剣術より魔術派だ」
「まじかよ…。
つかあいつら普通に空飛んでるじゃん。
規格外過ぎんだろ。
シルフィーとか何やってんのかすら分かんねえし」
「あの馬鹿は風魔術が得意らしいからな。
風と同化しとるんだろう。
目視しようとするだけ無駄だ」
「キース殿下!!
先程爆発を起こした飛龍が1匹落ちて来ます!!」
「あー…大丈夫だ。
レイモンドなら被害がない様に落とす位は出来る」
ちらりと落ちて来る飛龍に目をやるがヒラヒラと手を振るキースに、報告に来た騎士は顔を青ざめさせた。
あの速さで落ちては街に大穴が空いてしまう。
「しかし!!」
「あっほら見てみろ。
落ちる速度がゆっくりになった。
どうやってんだ?」
「知らん。
風魔術かなんかだろう」
「レイモンドも風魔術使えんの?」
「あいつの主属性すら俺は分からん。
昔から見ているがな。
シルフィー嬢も苦手なのは火だと言っていたがあいつも塔で見た限り4属性は使えるはずだ」
「属性数って全部で6だっけ…?
魔術師ってだけでレアなのに多属性持ちってそんなにいないはずじゃ…?」
「レア中のレアがあいつらだ」
「うげぇ…。
あってか敬語忘れてた」
「今更か!!
…まあ構わん。
とりあえず飛龍の死骸を回収しに行くぞ」
「了解」




