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「お姉ちゃん、ありがとう」
「……え?」
「死ぬ前に父ちゃんに会えたよ。
お姉ちゃんが魔法をかけてくれたから。
柱を持ち上げてね、助け出せた。
…間に合わなかったけど父ちゃんね、お前が生きてて良かったって言ったの。
最後にお話が出来た。
本当にありがとう」
少女はボロボロと溢れる涙を拭いながらそう言った。
周囲にいた人々も口々に礼を紡ぎ出す。
助けてくれてありがとう。
力を貸してくれてありがとう。
間に合わなかった人々も沢山いた。
それなのに礼を言える強さがシルフィーには分からない。
困惑の余り瞳を揺らす事しか出来ないシルフィーに、ミリアは言った。
あなたは沢山の人を救ったんです。
この人達の神様は、あなたなんです、と。
…必要が無いとされた種族が神など馬鹿げてる。
シルフィーはただ力を貸しただけだ。
助かったのなら貴方達が頑張っただけだ。
助からなくともそれはシルフィーが迷った時間のせいだったかもしれないのだ。
神などと言われる資格などない。
礼を言われる資格などシルフィーにはないのだ。
「これだけの善行をしたんです。
シルフィーさんも死ぬ時にはきっと平安の地にいけますよ。
無理なんて神様が言ったら、あなたに助けられた皆が怒ります」
ーーだから。
だから一人ぼっちで迷子になっている子供の様な顔をしないで。
1人を当たり前だなんて受け入れたりしないで。
そうミリアは呟いた。
いつ気が付かれたのだろうか。
心の中で自分は死んだとしても、どこへも行けないだろうと考えていた事に。
ミリアがシルフィーの冷えた手をギュッと握りしめた。
珍しくビクッと震えたシルフィーにミリアはふわりと笑う。
「大丈夫です。
いざとなったら私が無理矢理一緒に連れて行きます。
大丈夫。
私、神官ですから」
「…無理心中は嫌っすね」
「ふふっ。
そうならない様にお互い長生きしましょうね」
この子が何故役目に選ばれたのか、今なら分かる。
こんなにも誰かに寄り添える強い人を、シルフィーは知らない。
何故だか笑いたくなってしまい口角が勝手に上がる。
目尻が下がり、勝手に笑顔を作った。
何故だろう。
何故だか無性に嬉しかった。
「…シルフィーさん笑うと破壊力ありますね」
「は?」
「いやあの…ちょっとドキドキしました。
こうギャップがその…」
「告白だったらNOっす」
「してませんし勝手に振らないで下さい!!」
「先手を打っとこうかなと」
「先手にも程があります!!!!」
ケラケラと笑いながらシルフィーが立ち上がると、ミリアも膨れっ面を作った後仕方ない人ですねと笑って立ち上がった。
「さて、こちらの区域はとりあえず人命救助が済みましたし移動しましょうか」
「そっすね。
人数的には明らかにガウル様の所が人手不足なんでそっち向かいます?」
「どうでしょう…。
恐らくガウル様の所にはキース様が行かれてると思いますし、レイモンド様とアナベル様のペアの方が正直心配なんですよねえ…」
「…私修羅場嫌なんすよね。
まだ魔術保つと思うんでミリア様がレイモンド様の所で、私がガウル様の所にしません?」
「私だって修羅場は嫌ですよ!!
私なんて初恋が絵本の王子様でそれ以降音沙汰ないのに、修羅場は難易度が高過ぎます!!」
「大丈夫大丈夫。
私初恋まだなんでミリア様の方が経験値ありますよ」
「難易度100に対してLv1も0も変わりませんからね!?
どっちも瞬殺ですからね!?
いいから行きましょう!!
シルフィーさんがいればとりあえず空気が変わる事は間違いないんですから!!」
「変わりませんって」
「変わります!!
何か空気感がヌルッとします!!」
「貶してますよね」
「良いから歩いて下さい!!」
「今絶対貶しましたよね」
良いから早く!!と急かされ無理矢理街の中央へと歩みを進めさせられる。
中々に押しが強い神官である。




