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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
壊滅した都市
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ガウルがもうこれ以上は進めないと馬車を道端へと止めた。

そこから見える景色を何と現せば良いだろうか。


日が傾き始めた時間にも関わらず街は真っ赤に照らされ、時折どこからか燃え尽きた建物が崩れる轟音が響く。

鼻につく吐き気を呼ぶ様な臭いは、目の前の地面に落ちている真っ黒な物体からも強く漂っていた。


大きさ的にまだ幼い子供だろうか。


ミリアが唇を震わせながら子供の亡骸の前にしゃがみ小さく祈りを唱え始める。


アナベルは青ざめた顔をし、腕に立つ鳥肌を擦る。


ガウルは見慣れた景色なのか反応は薄く、レイモンドも同様であった。


キースはぐっと唇を噛むと声を張り上げる。


「馬車の中で打ち合わせた通りだ!!

私はとりあえず騎士団の詰所へと向かった後、状況と原因、救護所の場所を聞いてくる。

お前達はこの門から見てガウルが北西へ、レイモンドとアナベル嬢が北へ、北東へとミリア嬢とシルフィー嬢が進んで被害状況の把握及び怪我人の救護を行ってくれ。

いいな?」


「…あの」


「なんだ?」


「雨降らせても良いっすか?

火が消えないと救護出来ないんで」


「…出来るのか?」


「うっす」


「頼む」


キースの許可と共にシルフィーがパチンと指を鳴らし、それと共に煙に包まれていた空をそれよりも黒々とした厚い雲が包む。

次の瞬間、視界を奪う冷たく強い雨が降り注いだ。

その雨粒は街中に降り注ぎ、火を少しずつ消していく。


「…貴様は無能と有能を反復横跳びするのが趣味なのか?」


「そんな愉快な趣味はないっすね」


「フィー、こんな勢いの雨降らせて魔力は大丈夫?

この後救助活動で使うんだよ?」


レイモンドに言われそういえばそうかと思いつつ魔素を確認する。

水の魔素は空になっているに違いない、補給には一晩はかかるだろう。


だがシルフィーは魔素を確認すると首を傾げた。


「…余裕っすね」


「余裕?」


「貴様凄いな」


「いやおかしいです。

こんな早く回復する程の魔素が周囲にあるはずが…」


「…ちょっと待ってね」


レイモンドが遠くに目をやり、手を真っ直ぐに伸ばす。

ふっと小さく息を吐いた瞬間、20m先にあった小川に巨大な水柱が上がった。


その後何事も無かったかの様にレイモンドも自身の周辺にキョロキョロと視線をさ迷わせた。


「…確かにこれはおかしいね」


「はい」


「何がおかしいんだ?」


「兄上、魔素が多過ぎるんです。

魔族の土地に匹敵する程の魔素がこの地にはあります」


「……理由は?」


「…分かりません」


「私も分かんないです。

まあでもとりあえずレイモンド様と私は魔術使い放題ですね」


「…俺がそこも含めて理由を探って来る。

お前達も働いていてくれ」


キースの言葉に各々が頷き、シルフィーはミリアと共に街を北東方面へと足を向けた。


門の外から見た光景よりも街の中は凄惨な景色が広がっていた。

潰れ燃え盛る家屋の前で家族の名を叫ぶ女性。

辛うじて呼吸はしているが皮膚の7割を火傷しすぐに息絶えてしまうであろう人間。

火傷を追いながらどこかに逃げなければと子供を抱え走る人々。


雨によって多少火の手は弱まったとて、まだまだ家屋を燃やし尽くさんと火は街を呑み込んでいる状況であった。


熱気で呼吸もままならず、シルフィーが口元をタオルで覆うとミリアも同じ様にタオルを巻き付けた。


「シルフィーさん、私…助けたいです」


「…ミリア様?」


「でも私では、力も何もない私では、誰も助けられない」


眉根をギュッと寄せたミリアは悲痛な声でそう呟いた。

祈る様に組み合わせた両手を色が変わる程に握り締めながら。

その痛々しい様にシルフィーはちらりと視線を向けると前を向いて答えた。


「ミリア様」


「はい」


「私には家屋の瓦礫の中にいる人や道端に倒れている人が、物なのか人間なのかすら把握出来る気がしません」


「…はい」


「ですから代わりに教えて下さい。

何処に人がいるのか。

何処から助けたら良いのか。

お願い出来ますか?」


シルフィーのいつになく真面目な声にミリアがこくりと頷いた。

胸元にかかった国教のシンボルが刻まれたネックレスをギュッと握り締める。


「…ご遺体は道端に並べて下さいませ。

私が後で祈ります。

全員、余すこと無く」


「はい」


「燃え盛る家を鎮火する為に水をかけて下さい。

鎮火した順に入って助けましょう」


「…ふむ」


シルフィーは顎に手を当てると家よりも先にミリアに向かって手を伸ばした。

ミリアの体に翠色の魔素が絡み付く。

そのまま今度は指先をパチンと鳴らし、燃え盛る家に向かって大量の水が流れ落ちた。


「…とりあえずミリア様の身体周りに防火を施しました。

火傷は免れるかと。

腕には浮遊をかけてありますので、触れた物は浮かせられるかと思います」


「えっ?」


「効果としては恐らく半日。

さっさと助けて来て下さい。

私は家々を鎮火させながら遺体を集めときます」


「はっはい!!!!」


先程シルフィーが水をぶっかけた家にミリアが躊躇う事無く飛び込んで行く。


シルフィーはそれを見届けるとその真横の家に水をかけ始めた。

その光景に逃げ惑っていた人達が思わず足を止め叫ぶ。


「うちにかけてくれ!!

まだ中に母さんが残ってるんだ!!」


「こっちを助けてくれ!!

金ならいくらでも払うから!!!!」


「息子がっ息子が逃げ遅れたの!!

お願い助けて!!!!」


「父ちゃんが柱に挟まれたの!!

助けてお姉ちゃん!!」



シルフィーはそれらの言葉に耳をかさず、ただ順番に水をかけながら足を進めた。

遺体なのか瓦礫なのか木材なのかさえ判別が難しく、遺体の回収は厳しいかなと考えながら。


その背後で10歳くらいの少年を抱えてミリアが瓦礫の中から這い出した。


純白の神官服や顔を煤と泥でぐじゃぐじゃに汚しながらも、少年の唇に指先を当て確かな呼吸を感じ、鈍色の瞳に涙を浮かべながらもふわりと微笑む。


ーその姿はまるで御伽噺の聖女の様であった。


そしてシルフィーの周囲を取り囲む人々に気が付くと、少年を母親に預け声を張り上げた。


「彼女を止めないで下さい!!!!

順番に助けますから!!!!!!

だから助ける為に邪魔をしないで下さい!!!!

お願いですから助けさせて下さい!!!!!!!!!!」


思わず振り向いた群衆に向かってミリアはボロボロの姿のまま微笑む。

その姿はあまりにも清らかで。


「神に誓って、皆様を出来る限り助けます。

…ですから力を貸して下さい。

お願いします」


あまりにも美しかった。

そんなミリアの姿にシルフィーは小さく息を吐いた。


ーだから神なんて嫌いなのだ。


ーこんな美しい物など羨ましくて仕方なくなってしまうから。


ー何も感じられない自分が、より汚く見えてしまうから。


ー助けたいとも本当は思っていない自分が、酷く醜く見えてしまうから。


パチンとシルフィーの指先が音を鳴らした。

群衆に向かって全ての人に翠色の光が降り注ぐ。

シルフィーは小さく溜息を吐くと口を開いた。


「…皆様に防火と浮遊を施しました。

助けたい者がいるならば御自身で助けて下さい。

その為の力です。

手が空いた人はそこの神官に手を貸してあげて下さい」


「……シルフィーさん?」


「…魔術使い放題ですからね。

特別です」


ミリアが瞳を輝かせて綺麗に笑う。

そして群衆に呼びかけた。


火傷を恐れなくても良い、瓦礫も怪我人も浮かせて運べる。

だから自分の大切な人を助けて来いと。


群衆も最初は訝しげにしていたが、覚悟を決めた誰かが家に飛び込むと、それに続く様に皆が飛び込んで行った。

シルフィーはくらりと歪んだ視界から逃げる様に頭を降った。


さすがに一気に使い過ぎてしまった。

しかも今はただ魔素を貸しているだけの為に、使用したとは見なされず回復もしない。


だがまだ魔素はある。

一番大切な風の魔素を貸し出しただけだ。


まだいける。

自分は大丈夫だ。


ミリアがまた別の建物に飛び込んで行くのが視界の端に見える。


シルフィーもまた次の建物へと手を翳したのであった。

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